近況2008年03月02日 19時55分56秒


ご無沙汰をしております。

前に告知したとおり、地道に翻訳作業を続けています。しかし、思ったほどにはできないもので、今のところ当初の予定の3分の1ぐらいのペースにとどまっています。まあ、焦らずノンビリ続けるつもりです。

暦もいつのまにか3月ですね。

オリオンはまだ健在ですが、主役の座は徐々に獅子に取って代わられつつあるようです。

以前載せた(http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/11/30/2465522)、50年代の星座絵葉書の仲間を最近見つけたので、載せておきます。

宝石の掛図2008年03月08日 10時52分46秒


今はなき雑誌htwi(ヒッティ)。そのNo.11「鉱物王国」号(2002年3月)を探していますが、なかなか見つかりません。

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さて、写真はいわばその無念を晴らすために買った1枚。

戦前の高等小学校で使われた理科教授用掛図より「宝石」の図です(東京造画館発行)。掛図だけあって、堂々たる大版の石版画で、図版サイズは73×48センチほどもあります。

石版画の質も良く、文語体の説明文もなかなか美しい。

「鉱物中 質硬クシテ美麗ナル光沢ヲ有シ 其産出額極メテ小ナルモノハ 装飾品トシテ尊重セラル 之ヲ宝石ト云フ 金剛石、ルビー、サファイヤ、トパーズ等ノ如シ〔…〕何レモ光ヲ屈折スル性ヲ有シ 之ヲ多クノ面ニテ囲マルル形トシ 磨キテ其面ヲ平滑ナラシムル時ハ 能ク光ヲ反射スルニヨリ燦然タル光ヲ放ツ」

紅宝玉(ルビー)、鋼玉(コランダム)、青鋼玉(サファイヤ)等の漢字表記は、賢治の世界そのままですね。

ちなみに、下の図は「世界最大ノ金剛石坑キンバーレーノ一部」だそうです。

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それにしても「鉱物王国」。何とか手に入らないものか…
翻訳作業の合間にも、雑念がきざすこと頻り。

遠い日の天文台づくりの思い出2008年03月15日 10時26分41秒


おはようございます。
ねちっこく作業中です。この土日も頑張ります。

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さて、写真を1枚。これは今日ネット上で買いました。
(つまり、まだ現物は手元になく、↑は商品説明画像の安易な流用です。)

元々報道写真として撮影されたものらしく、詳しいクレジットがついています。

「自分たちの天文台を作る生徒たち。
ロンドン・サウスゲートにあるミンチンデン校の生徒たちは、王室天文官の賛同を得て、現在自分たちの天文台作りに忙しい。同校は、最近国王が英国天文学協会に贈った、長さ8フィート〔2.4m〕の望遠鏡の使用許可を取りつけた。
写真は、木工室で製作が進む天文台ドームと作業にあたる少年たち。1935年5月21日」

日本でいえば中高生にあたる年頃ですが、腕まくりをしたり、白い作業用エプロンを締めたり、なかなか凛々しいですね。みな真剣な表情です。曲線もきれいに切り出しており、ドーム自体の完成度もなかなかのもの。

70年あまりたった今は、たぶんもうないかな…?

でも、写真に写っている少年たちの中には、まだ壮健な方もいらっしゃるでしょう。
八十翁、九十翁の今も、ふと当時の少年の心と、天文台の記憶がよみがえる瞬間があるかもしれません。

賢治と鉱物、そして天河石のこと2008年03月20日 19時07分00秒

作業はゆっくり、ゆっくり進行中です。

 ☆  ☆  ☆

さて、ご存知の方も多いでしょうが、現在、工作舎のサイトで加藤碵一・青木正博両氏による 「賢治と鉱物」 の連載が続いています。
(この情報はひと月ほど前に、synaさんに教えていただきました。)

■連載第1回 賢治が愛した青い石
 http://www.kousakusha.co.jp/planetalogue/kenji/kenji01.html

連載は鉱物の色ごとに進むらしく、これまでの4回はすべて「青」をテーマにしています。

 ☆  ☆  ☆

ところで、連載第1回でとり上げているアマゾナイト。
その和名の 「天河石」 がちょっと気になっています。

「天河」 とは天の川のことだそうで、実に美しい名前ですが、ただアマゾンと銀河の結び付きにいくぶん解せないものを感じます。

天の川にちなんで命名するなら 「天河」 よりポピュラーな漢語はいろいろあったはずで(例えば銀漢、天漢、あるいはズバリ銀河など)、わざわざ 「天河」 としたのは一寸苦しい気がします。(字書には 「天河」 も載っていますが、平均的な知識人は上のような語をまず想起したのではないでしょうか。)

で、思ったのは、かつてアマゾンの 「アマ」 と 「天(あま)」 をかけて、アマゾン川を 「天河」 と美称した可能性はないだろうかということです。もちろんこれは訓読みですから、日本限定の異称ということになります。

ただ、そういう実例はまだ見当たらないので、今のところは全くの想像です。明治の初めの文献を見ると、アマゾンはそのままカナ書きしたり、 「亜馬孫」 という不粋な字を当てたりしています。

天河石の名称がいつから使われているかは、寡聞にして知りませんが、国会図書館が所蔵する明治19年の資料(東京教育博物館列品目録)でも、すでに 「Amazon stone 天河石」 となっているので、明治の初期から使われていたのは確実です。あるいは江戸時代には既に使われていたかもしれません。

そもそも、江戸の金石学では外来の鉱物名をどう訳していたんでしょうか?

司馬江漢が描いたアメリカ地図(http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/maps/map021/image/index.html)を見たら、アマゾンは 「アマソ子〔ネ〕ン」 になっていました。そしてもう1つの大河・ラプラタ河が 「銀河」 と書かれているのが非常に気になります。La Plata はスペイン語で 「銀」 の意味ですから、ハリウッドを 「聖林」 というのと同じ表意訳ですね。

で、当時の才人が 「銀河」 と対になるように、アマゾンを 「天河」 と洒落て訳し、そこからさらに 「天河石」 の名も付いたのではあるまいか…そんなことを濁った頭で考えています。

★付記★
 出口王仁三郎が大正時代に著した奇書 『霊界物語』 には、「…太古に於けるアマゾン河の名称は天孫河と命ぜられ」 云々という記述があるそうです。これは全く傍証にも何にもなりませんが、「アマゾン」 の音からそういう字を連想した人がいた、ということで挙げておきます。

天河石の源流を探る2008年03月22日 11時35分42秒

(わが家の天河石 ― エチオピア産)

前の記事にいただいたコメントに触発されて、もう少し記事を続けます。

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まず「天河石」の名がアマゾナイト(アマゾン・ストーン)とは独立に、固有の名としてあったのではないかという可能性について。

これは江戸時代の書物を見るに限ると思い、江戸期の代表的な石の博物誌『雲根志』(前編1773~三編1801)に当たってみました。

■雲根志(九大デジタルアーカイブより)
 http://record.museum.kyushu-u.ac.jp/unkonsi/unkonsi.htm

眺めているとなかなか面白いです。

水晶、玉髄、碧玉、石墨、自然銅、鍾乳石、石膏…といった、現代に通じる鉱物名ももちろんあるのですが、それ以上に子持石、足跡石、卒塔婆小町石といった珍石・奇石のたぐいが多くて、石に対するまなざしに、学問的指向と古典的な愛石趣味が入り混じっているのを感じます。

ただ、残念ながら天河石は見つかりませんでした。やはり、これは明治の産物なのか…

 ◇

堀秀道氏の『楽しい鉱物学』に、その辺の事情が簡潔に書かれていました。

「明治時代に日本が西洋から鉱物学を輸入したとき、日本語の鉱物名をどうするかは大きな問題になった。江戸時代にも鉱物の名前は本草や物産の本にのっているが、名前と実物の対応があいまいで頼りにならず、ほぼ全面的に新しく作らねばならなかった。

英語のパイライトは硬くて打つと火花が出るところから由来した名前であるが、日本名はそれにとらわれずに黄鉄鉱とした。外観色と成分を織り込んで作ったのだ。

硫砒素銅鉱と書くと、硫黄と砒素と銅の鉱物であるとわかるし、板チタン石は、板状のチタンの鉱物だろうとわかりやすい。

明治の鉱物学者はたいへん苦労をして、このような啓蒙的とも言える鉱物名を作り出した。」(109ページ)

 ◇

で、改めて前回触れた「東京教育博物館列品目録 金石之部」(※)に戻ると、うかつにも見落としていたのですが、その凡例には、

「金石ノ名称ハ本邦未タ一定セス 故ニ多クハ 和田維四郎著 金石学 及ヒ 杉村次郎訳 金石学必携 ノ訳名ヲ用ヒ 他ハ全テ英名ノミヲ挙ケ…」と明記されていました。

(※) http://kindai.ndl.go.jp/index.html から「東京教育博物館列品目録」で検索してください。

となれば話は早い。さっそくこの二著にあたってみました。
同じ国会図書館のデジタルライブラリーに、日本近代鉱物学の父・和田維四郎〔つなしろう〕の訳書として以下の本が入っています(「著」ではありません)。

■ヨハン子ース・ロイニース著・和田維四郎訳 『金石学』 (第1刷・明治11年)

その212ページに 「此ノ長石ノ緑色ナル者ヲ 天河石 義訳 Amazonenstein Amozonstone ト云ヒ…」 の記述が見つかります。「義訳」というのは、来時愛克(ラズライト)のような「音訳」に対する語で、赤鉄鉱、月石(ムーンストーン)、十字石のように、和田氏が日本語の意味を考えて新たに訳した鉱物名のことです。

したがって、天河石は、アマゾナイトの色形から銀河を連想して命名されたわけではなく、あくまでも「Amazonstone」の直截な訳ということになります。アマゾンをなぜ「天河」と訳したかは、それこそ和田氏に聞いてみないと分かりませんが、「天ゾン河」の略という単純な説は捨てがたいと思います。(女傑石とでもすれば、本当の義訳になったのでしょうが…。)

 ◇

明治初期の命名は(古来の名称を当てた場合を除き)即物的なものが多く、詩情を込めた命名が流行るのは、もう少し後のような気がします。銀星石(Wavellite)や、Ymineさんも挙げられた天青石(Celestine)や天藍石(Lazurite)といった美しい和名は、まだ『列品目録』に登場しておらず、原語だけ挙がっているのも、上の想像を裏付けます。

(そうした命名は、明治後期、明星派の洗礼を受けた学者の手によるものではありますまいか。これまた全くの想像ですが…)

 ◇

天河石という美しい名称とその澄んだ青に、はるかな銀河を思い浮かべれば、それで十分じゃないか…という気もするんですが、最近記事を書いてない鬱屈のせいか、いささか粘着的な記事になりました。


【2014.9.6付記】

6年半ぶりに追記します。ここで述べた自説について、「アマゾン河」という外来の語に漢字を当てるのに、わざわざ「天(あま)」という訓読みを使って、重箱読みめいた「天河」という語を創作するだろうか?…ということが、ずっと心に引っかかっていました。

で、6年後の今でも確証はないのですが、ただ中国の地名の「マカオ」について、昔は「阿マ(女偏に馬)港」という字を当てて「アマコウ」と読み、さらに「天川」の字を当てて「アマカワ」と訓んだ例が、大槻文彦博士の『新訂大言海』に載っているのを発見しました。

そこからアマゾン=天河までには、まだだいぶ距離がありますが、多少は補強材料になるかもしれません。

日本天文学会創立100周年2008年03月27日 20時25分42秒


近況―。作業ペースは、最初は予定の3分の1ぐらいと言っていたのが、最近は2分の1近くまで上がってきました。まあまあ頑張っているほうだと思います。

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さて、今日用事があって郵便局に行ったら、日本天文学会創立100周年記念の切手を売っていました。皆さんはもう買われましたか?

話には聞いていたので、私も2シート購入。

ただ、デザイン的にはどうなんでしょう。
私は一見して「安易だなあ」と思ったんですが、後から自分なりにその理由を考えてみたら、結局この切手は「天文」要素だけで成り立っていて、「学会」も「100周年」もどこかに置き忘れているのが敗因だなと気づきました。その「天文」要素にしても、ちょっと垢抜けない感じ。

うぅむ…100周年というのは非常に大きな節目なんですが。

まあ実用の品として、天文関係の人に出す便りにバンバン貼らせてもらいます。

桜花咲く下に 賢治たたずみ…2008年03月30日 18時04分56秒


いっとき所用で外出。ついでに古書店で賢治本を2冊。
今の状況では、しばらく積ん読です。

が、こういう神経が昂ぶっているときは、ちらりと目にした言葉が尋常ならざる色彩を帯び、深遠な啓示のように思えたりします。

■ ◇ ■

過去情炎

截られた根から青じろい樹液がにじみ
あたらしい腐植のにほひを嗅ぎながら
きらびやかな雨あがりの中にはたらけば
わたくしは移住の清教徒(ピユリタン)です
雲はぐらぐらゆれて馳けるし
梨の葉にはいちいち精巧な葉脈があつて
短果枝には雫がレンズになり
そらや木やすべての景象ををさめてゐる
 ………
(『春と修羅』第一集 所収)

■ ◇ ■

いっとき若やいだ心になって、こんなにも詩句がこころに染み入るというのは、季節のせいもあるのでしょう。

「春と修羅」のタイトルも只ならぬ感じです。