ソリッド感を求めて(後編)2016年02月15日 06時25分20秒

ステレオスコープを応用した、立体幾何学の教材。
その解説冊子の裏表紙を見ると、


完璧な新分野」、「全学級において、日々の授業を行うに際して立体写真を用いるべきことは明白。」、「まこと幾何学の教師にとって、一揃いの良き立体図を備えたステレオスコープ以上に有用な道具のあることを私は知らない。」

…というようなことを、幾何学の大家らしい人が特筆大書しています。


中身は25枚のカードから成り、各カードのサイズは、約9×18cm。
ニューヨークのステレオ写真メーカー、Underwood & Underwood 社が、1907年に発行したものです。

   ★

その内容はというと、前半は平面と直線の性質に関する『ユークリッド原論 第11巻』に含まれる、もろもろの命題(たとえば命題4、「交わる2直線に垂直な直線はそれらを通る平面にも垂直」など)を取り上げ、後半では、種々の立体図形の性質や、透視図の原理、球面座標の考え方などを取り上げています。

数学についてはいささか○○なので、その内容を詳しく語ることはしませんが、黒板に難しい図を骨折って描くよりも、ステレオビュアーでサクッと立体視できれば、先生も楽だし、生徒の理解も進むだろう…という期待の下に生まれた、20世紀の新教材です。



まあ、↑↑や↑程度の図ならば、あえて立体視するまでもなく、だいたいイメージできる気はしますが、それでも真っ白な空間に、抽象的な立体がふわっと浮かび上がる瞬間は、ちょっと感動的です。いわば抽象が具象化する感じです。


そして、こんな↑複雑な図でも、


ビュアーにセットして、


エイヤっと覗けば、


直線や曲線の相互関係は、文字通り一目瞭然。

   ★

ここに浮かび上がるソリッド感は、確かに真のソリッドとは程遠い幻影にすぎません。
でも、硬くて緻密な真にソリッドな物体にしたって、そう感じるのは、やっぱり人間の脳が生み出した幻にすぎない…という言い方もできます。

コメント

_ S.U ― 2016年02月15日 17時40分11秒

>「ソリッド感」
 お堅~いものが出てくるのかと思いきや「立体的」のほうでしたか(笑)

 以前にも感想を述べたことがありますが、この手の3D物は出たときはわーっと一気に流行るけれども沈静化するのも早いように思います。最近は3Dテレビ、3D映画、3Dプリンターなど一般向けには人気はどうなのでしょうか。
 そのような中で、プロ向けあるいは学習用の3DCAD(コンピュータモニタでの製図作業)だけは、需要が広まり今や定着したのでないかと思います。今回ご紹介のステレオスコープも学習用3DCADの走りと見られないこともないと思いますが、3DCADが実用化されたのは360度・4π立体角から見たところが自由に高速で画像化できるだけパソコンの能力が進歩したからでしょうから、一方向から立体的に見えるだけでは、まあすぐに廃れる運命だったと思います。実際、歴史的事実としても廃れた(学校の理科・技術系の授業でステレオスコープを使うことはないと思いますので)のではないかと思います。

_ 玉青 ― 2016年02月17日 19時45分47秒

私もそう詳しいわけではないんですが、この手の両眼視差を利用した立体写真の人気は、19世紀の第4四半期から1930年代まで、およそ半世紀あまりにわたって持続したようです。そこだけ取り出すと、結構息の長い流行ですね(むしろ、最近の流行の息の短さの方が異常なのかもしれません)。

立体幾何学のステレオ教材は、個人的になかなかクールで良いと思いましたが、あっけなく廃れた(というか、そもそも普及しなかった)理由は、生徒が眼前に見ているもの、すなわち脳内イメージに、先生が直接介入する手立てがなく、さらに詳しい説明を加えようと思ったら、結局、黒板に板書する必要があって、二度手間だったからではないでしょうか。この点をなんとかできれば、もうちょっと普及したかも。

_ S.U ― 2016年02月18日 08時33分03秒

 歴史についてのご教示ありがとうございました。

>黒板に板書する必要があって、二度手間
 ステレオビュアーは意外と説明しにくいかもしれませんね。この手のものに介入するためには結局はコンピュータ技術の発展を待つしかなかったかもしれません。

 学習用の立体視のロングセラーと言えば、赤青めがねのアナグリフかもしれません。いつから始まったものか知りませんが、私が小学生の時にはすでに社会科の副読本で使われていましたし、学習雑誌でもしばしば目にしました。地形の航空写真などに使われるケースが多かったように思います。現在でもアマゾンでめがねが買えるようです。こちらも半世紀くらいは続いていると言えるのではないでしょうか。
 赤青写真は見た目や性能はそれほど顕著とは言えませんが、手軽に特に訓練など無しに立体視が味わえるというのが息長く続いている理由だと思います。

_ 玉青 ― 2016年02月18日 20時52分53秒

>赤青めがね

ああ、あれはアナグリフというんですね。
そこからちょっと思いついたことがあるので、またちゃっかりネタを頂戴して、記事に仕立てようと思います(しばらく寝かせておきます)。

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