この世ならざる天体写真展2017年08月10日 06時06分05秒

人気のない小学校の校庭、誰かの家のホオズキの朱い実…そんなものに、そこはかとない詩情を感じる時期です。立秋も過ぎ、昨日は青い空に赤とんぼが一匹飛んでいるのを見ました。

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さて、前回、前々回の続きです。
遠い宇宙を極微の世界に眺める、不思議な天体写真展。


手元にあるのは、以前5枚セットで売っていたものです。


画題となっているのは、以前もご紹介した「満月」と「アンドロメダ銀河」のほか、「半月」、「モアハウス彗星」、そして「土星」という顔ぶれ。

月、彗星、土星、銀河…と来れば、ポピュラーな宇宙イメージは尽くされており、写真展の開催に不足はありません。でも、ラベルに振られたナンバーを見ると、1番のアンドロメダ銀河から、12番のモアハウス彗星まで、番号が飛び飛びです。ですから、本来はもっと充実したセットで(12番以降もあったかもしれません)、私が持っているのは、その一部に過ぎないのでしょう。

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オリジナルは1910年に、シカゴ近郊のヤーキス天文台で撮影された写真。
ごつごつした、良い面構えの月ですね。硬派な感じです。

それにしても、この小さな感光面に、顕微鏡でようやく見えるぐらいのクレーターまで鮮明に写し込むとは、写真術とは大したものだなあ…と改めて驚きます。

なお、この写真は、マイクロフォトグラフの創始者、J.B.ダンサーが1896年に店を閉じた後に撮影されたものですから、マイクロフォトグラフ化したのも、ダンサー以降の人ということになります。

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1908年に接近したモアハウス彗星。

この彗星は、世界中で競って写真に収められましたが、このマイクロフォトグラフの原版は、月と同じくヤーキス天文台で撮影されたものです。
その姿は身をくねらせる竜を思わせ、今にも「シュー」という飛翔音が聞こえてきそうです(上下反対にすると、花火っぽい感じもします)。

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むむ、これは…?

これも現実の写真を元にした画像だと思うのですが、露骨に補筆したせいで、まったくマンガチックな表情の土星になっています。

なんだか不真面目な気すらしますが、でも、足穂先生に言わせれば、「本当の星なんてありゃしない、あの天は実は黒いボール紙で、そこに月や星形のブリキが貼りつけてあるだけだ」そうですから、むしろこの方が真を写しているのかもしれません。

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首をひねりつつ接眼レンズを覗き、
レンズから目を離して、ふたたび首をひねり、
スライドグラスに載った粒状のフィルムを見て、みたび首をひねる。

―夏の夜の夢、不思議な写真展にようこそ。

コメント

_ S.U ― 2017年08月11日 06時26分47秒

昔の(3、40年ほど前まで大なり小なりそうでしたが)高感度フィルムは必ずコントラストが高く、ほとんど白黒1ビットの階調に近いですね。それをスライド化すると何も考えないとさらに硬調になってしまいがちですが、その段階でそれを抑えて軟調にするような補正技術があったのか、今は考えることすら不要になった技術に思いをはせます。

_ 玉青 ― 2017年08月11日 09時50分23秒

なーる(ほど)。天体写真も、星雲のようにおぼろな対象は軟調向きでしょうが、月の場合は硬調もまた良し。クレーターの並ぶ月の風景は、強烈な光と影の世界ですから、白黒2値になじみやすいということもあるでしょうし、それによって非情な感じがより強調されて、巧まずしてアートっぽい趣が出ますね。(真以上の真を写す感じです。)

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