君の名は『雪華図説』(前編)2018年01月29日 20時52分21秒

昨日は底冷えのする日で、午後から再び白いものが舞いました。
季節柄、また雪にちなんだ話題です。

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NHKのラジオドラマが人気を博し、その後何度も映像化された「君の名は」。あれは戦中・戦後を舞台に、運命に翻弄され、何度もすれ違いを続けた男女の物語でした。
そして、新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」も、時空の奇妙なねじれによって、会えそうで会えない高校生カップルの、じれったいエピソードの連続が、ストーリーの縦糸になっていました。

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ああいうことって、確かにあるぞ…と思います。
私がすれ違いを続けたのは、『雪華図説』です。

『雪華図説』は、下総古河を領した土井家第11代当主にして、幕閣として老中首座にまで上りつめた、土井利位(どいとしつら、1789-1848)が、自ら観察した雪の結晶図を集めた、江戸時代を通じて最も精緻な雪の結晶図鑑。

結晶86種を収めた正編は、天保3年(1833)に、また同じく97種を収めた続編は、天保11年(1840)に出ました。ただ、『雪華図説』は正・続とも、この“雪の殿様”が私家版で出したものらしく、昔も今もとびきりの稀書ですから、古書市場に出れば、すぐに100万円以上の値がついてしまいます。

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もちろん私が欲しかったのは、本物ではありません。
昭和になって築地書館から出た復刻版の方です。この復刻版にも一寸とした歴史があって、築地書館からは1968年と1982年の2回にわたって復刻版が出ています。

奥付の表記に従えば、1968年版は、
○小林禎作(解説)、『正・続<雪華図説> 雪華図説・考』
というタイトルで、『雪華図説』の複製に、小林禎作氏による「雪華図説考」という書誌学的論考を付したもの。

一方、1982年版の方は、
○小林禎作(著)、『雪華図説 正+続 [復刻版] 雪華図説新考』
となっていて、小林氏が自らの「雪華図説考」に、旧版以降の新知見を盛り込んで、全面的に改稿した、「雪華図説新考」を併載したものです。

解説者/著者である小林禎作(1925-1987)は、中谷宇吉郎が創設した北大の低温科学研究所の教授(旧版時は助教授)を務めたプロの雪氷学者。その専門から派生して、土井利位の事績を追究し、その成果を問うたのが、新旧2つの復刻版でした。

(旧版の箱と本体。杉浦康平氏による和テイストの装丁)

(同。『雪華図説』を復刻したページの一部)

(新版。こちらも装丁は杉浦康平氏)

(同。「雪華図説新考」の冒頭)

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で、私は最初に1982年版を、次いで1968年版を手に入れ、ここまではごく順調でした。でも、よくよく話を聞いてみると、1968年版には、さらに正・続の『雪華図説』を和本仕立てで復刻した「限定版」というのがあると知って、オリジナルの雰囲気を味わうには、ぜひ限定版を手にしなければ…と思ったのです。

しかし、勇んで探し始めたものの、どうもタイミングが合わず、逢えそうで逢えない状態が、結局その後何年も続いたのでした。

(この項つづく)

コメント

_ Nakamori ― 2018年01月30日 20時37分41秒

当方、小林先生と同系列の学科に、学生として在籍しておりました。雪の先生として遠くから羨望の眼差しで見ているだけでしたが…。

_ 玉青 ― 2018年01月30日 22時58分23秒

おお、そんなご縁が。そういえば、Nakamoriさんは札幌でしたね。
小林氏のことは、もちろん個人的には全く存じ上げないのですが、このようにその姿に親炙した方のお話を伺うだけで、その存在が何となく身近に感じられるのは、不思議でもあり、嬉しくもあります。

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