スターベイビー2018年08月15日 16時23分31秒

昔の8月15日には、「旧校舎の理科室」の匂いがありました。

いかにも分かりにくい喩えですが、窓からはかんかん照りの校庭が見えるのに、室の中はぼんやりと暗く、静かで、埃くさく、死の気配が漂っている趣と、8月15日の情調は、個人的に妙に重なるところがあります。子供時代に見聞きした戦争の話題にも、生々しい感じと、どこか遠い感じが、複雑に混じり合っていました。

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最近、「人はみな星の子どもだ」と、いろいろなところで語られます。
つまり人の身体を構成している元素は、遠い昔に「元素製造工場」たる恒星内部で作られたもので、それが星の死とともに散骨され、再度それが雲集して太陽系を作り、地球を作り、我々人間を作った…というわけです。

これは現代の科学が教えてくれる事実です。
でも、世間に無数にある事実の内には、心に響く事実と、あまり響かない事実とがあって、「人は星の子どもだ」という事実は、間違いなく前者です。そして、こういう心に強く響く事実は、多くの場合、人の心の奥にある古い観念と結びついていることを、民俗学や神話学や心理学は教えてくれます。

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先月初めに「スターチャイルド」のことを話題にし、人は空から生まれ落ち、空へと帰っていく存在だ…という観念について、絵葉書を見ながら考えました。

以下、本からの抜き書き(改行は引用者)。

 「観測に基づく天文学が客観的なデータの収集に専念する一方、占星術は天上と地上の世界がひとつの組織をなしているという主観的確信から生じている。その統一性の探求を支えた、古代世界で繰り返しみられる信念のひとつは、人間の魂がそもそもは星の世界にあったとする考えである。

魂は地上に落下して肉体に住まうようになったとピタゴラスははっきり教えており、そうすると人間の精神的努力目標は、この世から自らを解放して天の住まいへ帰ることになる。プラトンも述べているこの考え方は後世の占星術の豊かな霊感源となり、彼らは魂がいくつもの天体を通って落ちるときにさまざまな特徴を――例えば火星からは攻撃性、水星からはどん欲さ、金星からは色情を――得ていることなどを詳しく述べた。死後魂がもと来た道をひきかえすときこうした特徴は捨てられていくことになる。

ヘレニズムの、またのちのローマの神秘宗教には、この魂の降下という考え方がその基本にあった。」
 (ピーター・ウィットフィールド(著)・有光秀行(訳)、『天球図の歴史』、ミュージアム図書、1997、p.29)

こうしたギリシャ~ヘレニズム的思考が、地球規模でどこまで普遍的かはわかりませんが、スターチャイルドの件は、こうした考えを淵源としていることはほぼ確実です。そして、「星の子ども」の一件も、そうした下地があるからこそ、人々に強くアピールするのではないでしょうか。

(星模様のベビードレスを着た赤ちゃんとお母さん。19世紀後半、ドイツ。現物が見つからないので、購入時の商品写真を流用。)

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8月15日は、終戦記念日とお盆が重なります。
今宵は曇天で星は見えそうにありませんが、いずれ空が澄んだら、星を見上げて静かに死者を――戦死者もそうでない死者も――悼むことにします。