カボチャ天球儀2018年11月26日 06時47分57秒

ブログは休止しても、相変わらずモノは遠慮なしに買っているので、ときに珍妙な思いに打たれることがあります。先日も、「うーむ、これは…」と心の中で大いに唸りました。

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今日も過去記事の後追いですが、2年前、こんな珍妙なものを見つけました。

■何だか分からないけどスゴイ天球儀

何がスゴイかというと、モノが小さなカボチャを使った天球儀だったからです。

(画像再掲)

これをeBayに出品していたのは、アメリカのワシントン州にあるガラクタ屋さんみたいな店で、店主氏も「何だか分からないけどスゴイでしょう」と、自信があるんだか、ないんだかはっきりしない口調で、宣伝に努めていました。仕入れてはみたものの、彼にも結局最後まで正体不明のままだったのでしょう。

で、当時の私は「まさか、カボチャの天球儀を作る専門の職人がいるわけもないし、手先の器用な人が手慰みにこしらえたんだろう」と、軽く考えていました。

(同)

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ところがです。
つい先日、カボチャで作られた天球儀の2例目を目にしました。

場所はワシントン州じゃありません(ワシントン州というのは、ワシントンD.C.とは関係なくて、合衆国の西北端、カナダと境を接するアメリカでも一番隅っこの州です)。今度は何とフランスのパリです。

(商品写真を寸借)

大きさは直径5センチで、アメリカのものと同一。
そして、星図のタッチもどことなく似ています。

フランスの売り手氏――彼もまた何でも商うブロカント屋のようです――の口上の根拠は不明ですが、彼は「18世紀の後半から19世紀前半に作られたものだ」と、自信満々に語っていました。

(同)

いずれにしても、カボチャの天球儀が、遠く離れたワシントン州とパリに出現したということは、私の想像のはるか上を行く「カボチャで天球儀を作る専門の職人」が、やはりどこかにいたことを窺わせます。

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しかも、いっそう謎めいていることに、アメリカのカボチャは“普通の天球儀”、すなわち天球にちりばめられた星々を、神の視点で宇宙の外から眺めた構図になっているのに、今度のフランスのカボチャはその「裏焼き」で、人の視点で地上から眺めたのと同じ姿に描かれています(注)。

(手元にある「普通の天球儀」の星座絵)

(フランス版。大熊、小熊の向きが普通と逆です)

同じ職人、あるいは職人集団が制作していたら、こういうことは普通起こらないと思うのですが、彼(彼ら)は顧客のニーズに応えて、多彩なカボチャ天球儀を手掛けていたのでしょうか? 果たしてカボチャ天球儀の一大生産拠点はどこか? それはどんな客を相手に売られていたのか? 買った客は、いったいカボチャ天球儀を何に使ったのか?

――謎は深まるばかりですが、いつか3例目、4例目が見つかったら、その謎も解けるかもしれません。

私の現時点での想像は、日本のひょうたん細工みたいに、かつて欧米のどこかに、農閑余業としてカボチャ細工を手掛け、土産物として売る村があった…というものです。もちろん、彼らは天球儀専業ではなかったと思いますが、天球儀がファッショナブルな時代にあって(19世紀以前)、意外にカボチャ天球儀は、都会の人に受けたのかもしれません。

ちなみにアメリカのカボチャは、即落価格70ドルでずっと店ざらしになっていましたが、その後めでたく売れました。フランスのカボチャは、1ユーロからスタートしてグングン値を上げ、最終的に122ユーロ、日本円で1万5千円余りで落札されました。カボチャ天球儀は、現代にあっても意外に需要があるようです。(もちろん、買ったのは私ではありません。)


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(注)こうした「人間中心主義的天球儀」の不思議さについては、以前も書きました。

■水色天球儀の秘密