壮麗な天体写真2019年05月31日 05時52分30秒



実は昨日の写真↑には「仲間はずれ」が混じっています。一番下に写っているのがそれです。

(No.11 Neb. about η Argus, 3/3/92)

ラベルに書かれた「アルゴ座イータ星周辺の星雲」とは、すなわち今の「イータカリーナ星雲」のことで、昔のアルゴ座の一部に当たる「りゅうこつ座」のイータ星を取り巻くように広がる巨大な星雲です。撮影日は1892年3月3日。

これもグリッドを重ね焼きした天体写真ですが、こちらの撮影者はデイビッド・ギル(Sir David Gill、1843-1914)。彼はアマチュアではなく、れっきとしたプロの天文学者です。1879年から南アフリカの喜望峰で南天観測を続け、その成果を『ケープ写真掃天星表』(1896-1900)にまとめました。上の1枚も、当然その元になった写真でしょう。

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上の写真、壮麗の一語に尽きます。
しかし、現代の我々がこれを見て感じる感じ方と、同時代の人が感じた感じ方は、かなり違うでしょう。ズバリ言ってしまうと、我々の目には、もはやこの壮麗な写真も、“ありふれたイメージ”に過ぎないと思います(「ああ、テレビや雑誌やネットでよく見るアレね」…というわけです)。

しかし、19世紀人の心の内に分け入ってみたらどうか?

恒星宇宙を見つめる巨大なガラスの瞳(望遠鏡)は既に存在したものの、受光手段の方は、血の通った肉眼しかない…という時代が、19世紀に入っても長く続きました。機材は大型化しても、結局目で見えるものが全てだったのです。

その後、19世紀も第4四半期に入ってようやく、乾板式の「ガラスの網膜」と、対象を長時間追尾できる「金属の眼筋」が発展し、人類は初めて無数の星と星間ガスが一面にうねる宇宙像に接することができるようになりました。そのドラマチックな画面が、どれほど当時の人々を興奮させたか。写真術は天文学に革命をもたらすと同時に、世間の宇宙イメージにも革命的変化をもたらしたのです。

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…と、見てきたように書いていますが、この辺は同時代の証言を少し拾ってみる必要があります。たぶん当時の一般向け天文書を通覧すれば、いろいろ興味深い証言が得られることでしょう(例によって竜頭蛇尾)。