緑の金星2020年01月15日 20時00分33秒

ふと気がつけば、日脚が目に見えて伸びてきました。
前は5時には真っ暗だったのに、今日は5時半になっても西の空がほんのり明るく、浅い朱、淡い黄緑、灰青から成るグラデーションの帯ができて、その上の濃紺の空に、金星が鮮やかに光っているのが美しく眺められました。

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私が初めて望遠鏡を手にしたのは、たしか小学2年生のときです。

それは母親がどこかで見つけてきた、メーカー不明のバッタ品で、口径は50ミリ。ただし、安物によくあるように、対物レンズの後ろに絞りが入っていたので、有効口径は30ミリぐらいしかなかったはずです。

それでも月のクレーターははっきり見えましたから、私は愛機の優秀さをあえて疑うことはしませんでした(でも、「天文ガイド」の広告と見比べて、ちょっぴり不安はありました)。

その愛機を金星に向けた子供時代の私は、ピントの合わせ方がよく分かっていなかったので、合焦ノブを回したら、金星像がボヤンと素敵に大きくなるのを見て、「すごいぞ、これが金星か!」と大喜びでした。(もちろんこれはピンボケの状態で、星像がいちばん小さくシャープに見える位置が、ピントの合った状態です。)

その巨大な金星は、レンズの色収差のせいで、目の覚めるようなエメラルド・グリーンをしていましたが、後にも先にも、あれほど美しい金星を見たことはありません。

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私の家は経済的に楽ではなかったので、あの望遠鏡は母親にとって、かなり思い切った買い物だったはずです。それでも子供が喜ぶと思って買ってきてくれたことに、感謝の気持ちしかありません。

認知症を患い、特養で暮らす現在の母親に、その気持ちを伝えるすべは残念ながらありません。それでも、ここに「ありがとう」と書いて、かすかな慰めとします。

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人が満足と喜びを味わうには、いかにわずかなものしか要さないか。
今宵の金星を見て、昔の自分の気持ちを、ふと思い出しました。