空のコロナ2020年03月01日 08時39分00秒

話題のコロナウイルスですが、その直径はおよそ100ナノメートル、すなわち0.0001ミリ。人間を地球大まで拡大して、ようやくウイルスが人間大になる計算ですから、小さいといえば実に小さいです。そんなちっぽけな存在に斃される人間のもろさと、ウイルスの恐るべき攻撃力を改めて感じます。

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一方、人々が空に見上げるコロナといえば「かんむり座(Corona Borealis)」

コロナ(corona)は、もともとラテン語で、英語のクラウン(crown)もその派生語です。
かんむり座は、わりと地味めの星座ですけれど、その主だった星は、太陽よりもさらに大きく、その光は100~300光年のかなたから届くと聞くと、宇宙はやっぱり大したものです。ウイルスに比べれば巨大な人間も、宇宙の中では当然ウイルスよりもさらにちっぽけな存在です。

かんむり座は夏の星座で、ちょうど夏休み初日の夜8時ころ、天頂近くに来ます。
今でも早起きすれば、夜明け前の空に高々と見えるはずですが、私はものぐさなので、春のかんむり座を見たことはありません。

星座神話の世界だと、かんむり座は、クレタの王女アリアドネをめとった酒神ディオニュソスが、彼女のために贈った冠ということになっています。星座絵だと、それこそ立派な冠として描かれることが多いですが、ラテン語のコロナ(あるいはギリシャ語のステファノス)は、「リース」が原義だとか。


ドイツのヨハン・バイエルが出した星図帳 『ウラノメトリア』 (1603)は、ちゃんと可憐な「花かんむり」として描いており、遠い神話世界の女性には、たしかにこちらの方が似つかわしい気がします。

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社会の行く末も心配ですが、そんな下界の心配をよそに、星はめぐり、季節は移ろっていきます。鳥たちはつがいになって巣作りの準備に入り、先週はウグイスが良い声で鳴いていました。子どもたちが野原で遊び、花かんむりを作って楽しむ穏やかな世が、早く戻ってきてほしいです。

コロナの今(その1)2020年03月14日 11時18分31秒

「コロナって、結局今どうなっているのかな?」
その点が、毎日報道を見てても、非常に分かりにくいです。

「なんだかんだ言って、行政も医療機関も頑張ってるんじゃないの?」という声も聞こえてくるのですが、まあ頑張ってないとは言わないにしても、何をどう頑張っているのかが見えにくい。

その分かりにくさの原因は、結局、具体的な感染状況がブラックボックスなので、今が流行のどの時期にあたるのか、今どれぐらい危機的な状況にあるのか、さっぱり分からないという点に尽きます。

たとえば、下はよくニュースで見かける図。先月、厚労省が示したものです。

(出典:日本経済新聞 2020/2/23)

では、実際のところ、患者数はどんなカーブを描いているのか?
下は上の図が登場してから半月後の状況です。

(出典:日本経済新聞 2020/3/11)

これを以て、「日本は新型コロナの抑え込みに成功している」と思う人は少ないわけで、前々から言われているように、「検査をしなければ感染者は把握できない」ことを示すだけの図になっています。

下もネット上でよく見かける図です。


各国の感染事例数を、報告事例が200を超えた日を起点に描いた増加曲線です。日本の特異性が際立っているとして、注目を集めた図です。

出典はイタリアのピサ大学所属のAlessandro Strumia(1969-)氏が、ツイッター上で公開したもので、氏は高エネルギー物理学が専門の方ですが、独自の関心に基づき、作図されたようです。その後、3月10日付けのアップデート版も公開されています。


これを見ても全体の傾向は変わらず、中国・韓国は既にピークアウトしたという報道が可視化されたのと、日本の特異な状況が依然として目立っています。

一体なぜこんなことになっているのか?

(その2に続く)

コロナの今(その2)2020年03月14日 11時23分54秒

今の日本の検査体制は、おおむね以下のようになっています。

(出典:東京都福祉保健局のサイトより )

一般の人が、「熱と咳が続くなあ…コロナじゃあるまいか?」と心配になったとき、どうすれば検査を受けられるのか。東京都の例で言うと、検査に至るまでには、以下の3つの「関門」があります。

 ①新型コロナコールセンターに電話
 ②新型コロナ受診相談窓口(保健所)に電話
 ③新型コロナ外来を受診

①~③のどこかではねられると、検査すら受けることができません。
で、件の心配した人はどうするかといえば、とりあえず普通の風邪か、インフルエンザか、それとも他の感染症か、それを診てもらうために、一般の医療機関を受診することになります。潜在的にはコロナの可能性があるにも関わらず…です。

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3月11日付けの厚労省通知、「新型コロナウイルス感染症が疑われる者の診療に関する留意点について」LINK)を読むと、そうした患者さんを受け入れる、一般の医療機関の「心構え」が説かれています(太字は引用者)。

 「基本的に誰もがこの新型コロナウイルスを保有している可能性があることを考慮して、全ての患者の診療において、標準予防策であるサージカルマスクの着用と手指衛生の励行を徹底すること。」

 「原則として、診察した患者が新型コロナウイルス感染症患者であることが後に判明した場合であっても、〔上記〕に基づいた感染予防策を適切に講じていれば、濃厚接触者には該当しないこと。」

要するに、新型コロナの患者が来るかもしれんが、医療関係者はマスクと手洗いだけしてればよろしい、仮に後からコロナと判明しても、それさえしていれば、濃厚接触には当たらない…というのですが、こんなにユルユルで本当に大丈夫かなあと思います。

そして、「患者が発熱や上気道症状を有しているということのみを理由に、当該患者の診療を拒否することは、応招義務を定めた医師法〔…〕及び歯科医師法〔…〕における診療を拒否する「正当な事由」に該当しない」から、しっかり診ないとアカンぞ…と命じられて、お医者さんも大変だなあと思うし、待合室で相席になる他の患者さんのことも、大いに心配です。

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ところで、3月6日に、新型コロナの検査に保険が適用されることになった…というニュースがありました。そして、お医者さんが検査の必要を認めれば、保健所を通さずに検査ができるようになった…とも聞きました。

これだけだと、かかりつけのお医者さんに行って、「先生、心配だから検査してくださいよ」と言えば、すぐにも検査が受けられるような感じですが、実際は全然違います。

国の通知(LINK)によれば、保健所を通さずに検査ができるのは、「当面の間…帰国者・接触者外来及び帰国者・接触者外来と同様の機能を有する医療機関として都道府県が認めた医療機関」だけです。

そして、それ以外の一般の医療機関に、新型コロナが疑われる人が来た場合は、「原則として…帰国者・接触者相談センターへ一度電話で連絡の上、同外来を受診していただきたいが、帰国者・接触者外来に患者が殺到することのないよう留意しつつ、直接、帰国者・接触者外来を紹介することとしても差し支えない」と述べています。

結局、基本的な流れは従前と変わりがなく、帰国者・接触者外来等のお医者さんが、「よし検査だ!」と言わない限り、検査を受けられない仕組みはそのままです。

(注)ここで言葉を整理しておくと、「帰国者・接触者相談センター」というのは、そういう独立したセンターがあるわけではなくて、要するに保健所のことです。現在、各地の保健所が「相談センター」という看板を急きょ掲げて、相談に応じています。また、「帰国者・接触者外来」というのは、各都道府県が指定した、新型コロナに対応する医療機関のことで、どこがそうかは原則非公開で、秘密にされています(「直接紹介してもいい」というのですから、各医療機関には通知が行ってるのでしょう)。

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以下は、2月26日にコロナ雑感として書いたことの一部。

 「そもそも論で言うと、現在は検査機関イコール医療機関になっているから、医療機関に人が押し寄せる結果を招いているのであって、両者を分離しても支障はないし、むしろ分離した方が効率的なことは多々あると思います。そこで適切な(必要なら多段階の)スクリーニングを実施して、必要な人だけ医療機関につなぐ体制が望ましいことは言うまでもなく、そのことに反対する人は少ないでしょう。(ここでいう「検査機関」とは、衛研のような検体処理機関ではなくて、被検者から検体を採取する機関という意味です。)」

 「独立した検査機関というと、何か巨大な箱モノを想像されるかもしれませんが、要は人の動きと空気の流れを制御し、清潔区域と不潔区域を明確にするだけのことですから、別にささやかな建物でも、既存の施設でも構わないのです。そこは一般の病院のように、いろいろな目的で、人がランダムに移動する空間ではありませんから、はるかに単純な構造で済むはずです(健診や人間ドックの場面を想像してください)。」

この記事を書いた後で、韓国の、さらにドイツの、「ドライブスルー式検査場」のニュースに接して、わが意を得たりと思わず膝を叩きました。

しかし、日本ではそうした方向に舵を切る動きは、今に至るまで全くありません。
依然として、検査は病院で行うものであり、潜在的感染者が医療機関に集中する構造的問題には、まったく手が付けられていません。

(その3につづく)

コロナの今(その3)2020年03月14日 11時36分44秒

日本における検査に関する一指針として、「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年3月12日暫定版)」LINK)というのが、国立感染症研究所のサイトで公表されています(作成者は同研究所・感染症疫学センターです)。

A4で4ページほどの短いものですから、読むのは簡単です。
でも、読んでも何だか内容が分かりにくいです。「積極的疫学調査」というぐらいですから、これから積極的に検査もバンバンやるのかな?と思って読むと、どうも勝手が違います。

積極的疫学調査の主体(誰がその調査をするのか)は、保健所です。
その目的は、調査によってクラスターの発生を把握し、クラスターに関係する施設の休業やイベントの自粛等の対応を、自治体として要請するためだと言います。

それによって感染拡大を防ごうという趣旨は理解できますけれど、これは疫学調査という言葉から通常イメージされるような、「集団内での感染者発生率の推計」を目的としたものでは全くありません。

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この調査の対象となるのは、「患者(確定例)」と「濃厚接触者」ですが、濃厚接触者のうち症状が出てない人は、原則として新型コロナの検査は行わないと、この実施要領では定めています。「患者(確定例)」の同居家族も、一般的な健康観察や行動自粛の要請のみでOKだというのです。

なぜなら、「無症状者に検査を行う場合、ウイルスが存在してもどのタイミングで検出出来るかは不明であり、検査陰性が感染を否定することにはならない」からであり、「積極的症例探索の対象者の範囲を過剰に拡大し、事例全ての対応を行おうとすると、関係者の負担が大きくなり、実施自体が困難となることが危惧されるから」です。

何だかもっともらしいですが、特に後者の理由は、日本のリソース不足に対して白旗を掲げているに等しく、あんまり上から目線で言うようなことでもありません。

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今回、「その1」から「その3」までメモ書きしましたが、日本は本当に検査をやらないし、やろうというモチベーションもないんだなあと、改めて感じました。

ここで「その1」に戻って、再び以下の図です。



「うーむ、大丈夫なんだろうか…」と、ここでまたもや腕組みすることになるのです。

(この項いったん終わり)