理科室の棚から…電流計のこと2020年06月27日 07時22分37秒

暑いですね。そして蒸します。
最近、理科室の話題が少なかったですが、ちょっと理科室で涼もうと思います。

   ★

とはいえ、現実の私の部屋はかなり乱雑で、涼しいというよりも、暑苦しく、むさくるしいです。この前も、棚の奥の本を取るために、その前に置かれた物を、せっせとどかしてたんですが、その堆積の中に、古い理科器具が埃をかぶって――あまつさえ蜘蛛の巣までかかって――いるのを再発見し、「おやおや」と思ったのでした。

昔標榜していた「理科室風書斎」は、その後「理科準備室風」になり、さらに「物置風」となって、風趣の点では、だいぶ退化したことを認めないわけにはいきません。寂しいことですが、これも宇宙を貫く真理、「熱力学第二法則」の実例なので、抗うことは難しいです。

ともあれ、そこで再発見したものを採り上げます。

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アンティークな宇宙船のような姿をした電流計。


ガラスドームの中にコイルと磁針が仕組まれ、その両サイドに電線をつなぐ端子が鈍く光っています。そして下部には、島津の紋所に由来する丸に十字の島津製作所のロゴ。

手元に島津製作所が発行した『理化学器械使用法』という冊子があります。小学校の理科授業で使う機器類の操作法を説明した本です。そこに、同じタイプの品が小さく載っていました。この本は明治43年(1910)が初版、手元のは大正5年(1916)の第5版なので、我が家の電流計も、その頃に遡る品かな…と想像しています。

(隣の「白熱電灯」も目を引きます。大正時代には、電球もありふれた存在になっていたでしょうが、そこには依然「科学」の匂いがありました。)

せっかくですから、この電流計の働きについて、当時の人の説明に耳を傾けましょう(原文には句読点が一切ないので、適宜補いました)。

 「電流の為めに磁針が傾く角度の大小によりて電流の強弱を測るものにして、度盛したる円盤の中央にコイルを置き、その中心に小磁針を支へ、之れと直角に指針を取付け、磁針の傾きを円盤状に示さしむ。先づコイルの面を磁針の方向と一致せしめ(指針を目盛の0と一致せしむべし)、コイルに電流を通ずれば、指針の示す目盛によりて電流の強弱を知る事を得べし。此種の電流計を正切電流計といふ。」(上掲書p.72)

「正切」は「正接」と書かれることが多いですが、三角関数でいう「タンジェント」のことです。コイルに電流を流したときの磁針の振れ角を読むと、その角度のタンジェントが電流の強さになる(=電流の強さが磁針の振れ角のタンジェントに比例する)ことを利用した電流計を、「正切(正接)電流計」と呼ぶのだそうです(注)




木、真鍮、ガラスの作り出す小世界。
電流計は、もちろん電流さえ測れれば良いわけですが、そういう機能を越えて、素材の質感やら何やら、「風趣」にこだわるのが理科室趣味というもので、そこに涼やかな感じがあるわけです。

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とはいえ、私が実際に経験した理科室には、こうした風情は薄れていて、私の記憶の中の電流計は、こちらの姿に近いです。

(こちらも同じく島津製)

これも1950年代のものらしく、十分懐かしいは懐かしいです。
そして、デジタル化が著しい現在でも、理科の授業で使う電流計は似たような姿をしていて、ピョコピョコ動く指針をアナログ的に読んでいる(らしい)のは、ちょっとホッとできる気がします。


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(注) この箇所は、永平幸雄・川合葉子(編著)『近代日本と物理実験機器―京都大学所蔵明治・大正期物理実験機器』(京都大学学術出版会、2001)を参照しました。

コメント

_ S.U ― 2020年06月27日 08時27分02秒

>デジタル化が著しい現在でも、理科の授業で使う電流計は似たような姿をしていて、ピョコピョコ動く指針をアナログ的に読んでいる(らしい)

そうなんですね。こちらのほうが売れるのでしょうね。
 先生方の意地にも近い心意気を感じます。

 コイルがさりげなく見えるのがすばらしいです。原理の説明は授業ではないかもしれませんが、電磁石の実験もあるので、勘のいい児童は中の仕組みを人知れず考えることでしょう。

_ 玉青 ― 2020年06月28日 12時36分51秒

電磁石は「工作」と結びついていたので、単純に楽しいということもありましたが、そこからパラドキシカルな電気ブザーの動作原理に腕組みしたり、スピーカーとマイクが実は同じものだと知った時の驚きなんかもあって、いろいろ子供心に鮮やかな印象を残しました。

思えば、かつてそこで電気力と磁気力がひとつになり、「力」の統一に向けた壮大なストーリーが始まったわけですから、見かけは単純ですが、決してあだやおろそかには出来ない存在ですよね。「すべては電磁石にはじまる」…と大まじめに呟きたいです。

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