星座絵の系譜(4)…フラムスティードのさらにその先へ2020年07月23日 20時25分11秒

星座絵は特殊なものですから、お手本なしに描くことは難しいでしょう。とすれば、フラムスティードの星座絵は、何を参考にして描かれたのか?まあ、描いたのはフラムスティード本人ではなくて絵師ですが、絵師がお手本にしたものが、きっとどこかにあるはずです。

フラムスティードの前には、「ビッグフォー」に属する2人の巨人、すなわちバイエルヘヴェリウスがいますから、その直接・間接の影響は、真っ先に検討しなければなりません。また、星座絵のアーティスティックな表現にかけては、天球儀に一日の長がありますから、そちらへの目配せも必要です。でも、まずは先人の言に耳を傾けて、ここでもデボラ・ワーナー氏の『The Sky Explored』(1979)を参照してみます(以下、適当訳)。

 「1696年までに、フラムスティードは自身の言葉によれば、『星座絵をデザインするため、画才に富む者を求めていた。何となれば、ほぼ100年になろうかという昔、ティコ〔・ブラーエ〕の時代以降、初めてそれを絵にしたバイエルは、あらゆる星表がそれを訳し、それに従ってきたところの、かのプトレマイオスの記述とは、明らかに矛盾する形で描いていたし、他のすべての星図作者はバイエルを所持しているからだ。

2,3人の計算役を我が身に授けてくれた天祐は、また才覚のある、だが病弱な若者(ウェストン氏)を私の元に送り届け、彼はこの仕事に没頭した。私の命により、彼は星座図を見事に描いた。ある優れたデザイナーの述べたところによると、ウェストン氏は何も指図を受けることなく、下図を完璧に描き上げたそうだ。』

トーマス・ウェストンによる星図は、実際に使われることはなかったが、その後の版の基礎となったことは間違いない。1703年から4年にかけて、フラムスティードは星図のうちの幾枚かを描き直そうと思い、ウェストンがそれを準備し、P.ヴァンサム(『卓越した、だが高齢の製図家』)が星座を描いた。」(p.82)

こうして準備が進められた星図出版ですが、ニュートンやハレーとのいさかいのせいで、実際の出版は遅れに遅れました。『天球図譜』が最終的に陽の目を見たのは1729年、フラムスティードの没後10年目のことです。この間、

 「フラムスティードの星表と草稿図に基づき、アブラハム・シャープが座標を描き、恒星をプロットした。その上にジェームズ・ソーンヒル卿が(そして彼が疲れると、他の逸名画家が)星座絵を描いた。最後に、あまり腕の良くないロンドンとアムステルダムの彫師に銅版を彫らせ――というのも、セネックス〔=当時一流の地図製作者〕は、ハレーの親友だったため、その任にふさわしくないと考えられたのだ――、星図印刷の首尾が整った。」(同)

フラムスティードがバイエルを意識し、星座絵の面でも、それを凌駕する作品を狙っていたことが分かります。ただ、結局のところ、彼が何を手本にしたかは不明のままで、フラムスティード星図のそのまた「仏」探しは、実物に当って考えるしかなさそうです。

   ★

AがBを模倣したかどうかを判断するには、白鳥のように変異に乏しく、実物を写せば自ずと似てしまうものを比べても、あまり役に立ちません。はくちょう座をたどる旅は、いったん打ち切りです。

代わりに、「ありふれているけれども、その姿が多様で、いろいろな表現を許容するもの」とか、「空想上の存在で、実物を見て描くことが不可能なもの」を採り上げることにします。ここで指標とするのは、「かに座」「くじら座」です(鯨は現実の生物ですが、当時はたぶんに空想的存在でした)。いずれも、図像学的にしばしば問題になる星座で、前者については「カニ型 vs.ザリガニ型」、後者については「怪魚型 vs.海獣型」の間で、長いこと表現が揺れてきました。

改めてジェミーソン『星図帳』(『ウラニアの鏡』もほぼ同じ)、ボーデ『ウラノグラフィア』、フォルタン版『天球図譜』(フラムスティードの原版もほぼ同じ)で、その姿を確認しておきます。(以下、星図の縮尺は不同です。)

(1822年、ジェミーソン『星図帳』)

(1801年、ボーデ『ウラノグラフィア』)

(1766年、フォルタン版・フラムスティード『天球図譜』)

いずれも「カニ型」と「海獣型」で、そのポーズからも、すべて同一系統に属するものと判断できます。「え、本当?ずいぶん違うんじゃないの?」と、思われるかもしれませんが、この後、いろいろなカニとクジラを見ていただくと、「なるほど、似ているね」と思っていただけるでしょう。

さて問題は、フラムスティードのさらにその先がどうなっているか?です。

(この項さらにつづく)

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