夏の果ての雲の色2020年08月31日 07時00分05秒

秋は空から下りてくる―。

以前ブログの中で呟いた言葉ですが、これは我ながら名言。暑さに汗をぬぐいながらも、ふと細かい鱗雲や、刷毛ではいたような筋雲が、高い空に浮かんでいるのを見ると、「ああ秋も近いな」としみじみ思います。山里だと、赤とんぼが山から下りてきたり、山のいただきから木の葉が色づいたりするので秋を感じるのでしょうが、都会でも雲の景色は自然の理をあらわして、いたって正直なものです。

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ですから、「晩夏雲(ばんかのくも)」と題された次の歌を知ったときは、大いにうれしかったし、その透徹した観察眼にシンパシーを感じました。

  白雲のみねのけしきはかはりける
    そらより夏はくれんとすらむ

目に焼き付くような純白の入道雲に、いつか秋色がまじり、地上に先駆けて、まず空の彼方から夏は暮れようとしている…。鮮明な印象を伴う歌です。


この歌を詠み、短冊に筆をふるったのは、黒田清綱(1830-1917)
いわゆる維新の功臣の一人で、薩摩出身の官僚として、最後は枢密顧問官をつとめた人。その一方で和歌をよくし、歌人としても一家を成しました。画家の黒田清輝はその養嗣子です。

私は元薩摩藩士と聞くと、つい豪傑肌の人を想像してしまうので、こういうこまやかな歌の存在を知って、意外に思うと同時に、己の不明を大いに恥じました。

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今日で8月も終わり。いよいよ本物の秋がやってきます。


【9月1日付記】

上の短冊の読み方について。上の読みは、売り主である古本屋さんが教えてくれたものですが、私には「峰のけしき」の「は」の字が読み取れません(作者が書き洩らしたか?まあ、そういうことも無くはないでしょう)。そして「かはりける」の結びが正しければ、「峰のけしき」とでもすべきところですが、決め手に欠けるので、ここでは疑問を記すにとどめます。