日時計を学ぶ2020年12月23日 06時32分56秒

棒の影の動きを見れば、時の流れが分かり、
影の長さの変化を見れば、季節の推移が知れる。
この棒こそ、間違いなく最初の天体観測器具でしょう。

影の動きとは、要するに太陽の動きです。
太陽が南中すれば「お昼だなあ」と思うし、日が傾けば「今日も一日が終わった」と思う。太陽こそが天然の時計であり、それを知る補助具が、地面に突き立てた一本の棒です。この棒が徐々に洗練されて、後世さまざまな日時計が生まれました。

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…と何の疑問もなく思い込んでいましたが、安野光雅さんは「ちがう」と言います。「太陽が時計なのではない。――地球こそが時計なのだ」と。

言われてみれば確かにその通りで、機械のように精密に回転しているのは地球の方で、太陽はじっとそこにあるだけです。日時計とは、太陽を目印に地球の回転を読み取る、「地球時計」に他ならないのでした。これも視点を変えることの大切さを物語ります。ささやかなエウレカですね。


上のことを教えてくれたのは、安野氏の『地球は日時計』という絵本です。
福音館の「月刊たくさんのふしぎ」シリーズの1985年11月号として出たもので、正確にいうと、これは「本」ではなく「雑誌」です。


この「たくさんのふしぎ」シリーズは、のちにハードカバーの単行本として再刊されるのが普通ですが、この作品が単行本化されることはありませんでした。あの安野光雅氏の秀作がなぜ?と思いますが、それは本書が紙とハサミと糊を必要とする「工作絵本」だったからでしょう(…と想像します)。


安野氏は、北極点に立つ棒の影を想像させるところから始め、中緯度地帯や赤道ではどうすれば良いかを問い、実際に手を動かすことで、日時計(地球時計!)の仕組みを子供たちに会得させます。

手のひらに乗るちっぽけな日時計から、巨大な地球の自転と公転、そして地軸の傾きまでも、ありありと想像させるところが、この本の妙味です。とはいえ、ハードカバーの立派な本をチョキチョキするのは、作り手側も、読み手側も、少なからず抵抗感があったのでしょう。

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この本の単行本化は、翌1986年にイギリスで実現しました。

(『The Earth is a Sundial』、The Bodley Head (London) 刊)

それは「工作絵本」ではなく、最初からすべて組み立て済みの「仕掛け絵本」とすることによって可能となりました。これは大変手間とコストのかかる方法であり、そのため印刷と製本はシンガポールに外注しています。



原著の『地球は日時計』は、今では手に入れにくい本になってしまっています。
でも、イギリスで出たものが日本で出ないはずはないので、遅ればせながら、これはぜひ日本語版が出て欲しいですね。