月の流れ星 ― 2020年12月27日 09時59分00秒
差し渡し2.5cmほどの小さな月のピンバッジ。
不思議なデザインです。月が尾を曳いて翔ぶなんて。
まあ、デザインした人はあまり深く考えず、漠然と夜空をイメージして、月と流星を合体させただけかもしれません。
でも、次のような絵を見ると、またちょっと見方が変わります。
(ジャン=ピエール・ヴェルデ(著)『天文不思議集』(創元社、1992)より)
邦訳の巻末注によると、「天空現象の眺め。ヘナン・コレクション。パリ国立図書館」とあって、たぶん16世紀頃の本の挿絵だと思います。
キャプションには、「月が火星の前を通過することがあるが、この現象を昔の人が見て解釈すると上の絵のようになる。火星は赤い星で戦争の神である。月は炎を吹き出し、炎の先にはするどい槍が出ている。」とあります。
月の横顔と炎の位置関係は逆ですが、このピンバッジにも立派な「槍」が生えていますし、何だか剣呑ですね。
【12月28日付記】
この「炎に包まれた槍」を、火星のシンボライズと見たのは、本の著者の勘違いらしく、その正体は、流れ星の親玉である火球であり、それを目撃したのはあのノストラダムスだ…という事実を、コメント欄で「パリの暇人」さんにお教えいただきました。ここに訂正をしておきます。詳細はコメント欄をご覧ください。
★
月による火星の掩蔽(火星食)は、割と頻繁に起こっていて、国立天文台の惑星食のページ【LINK】から最近の火星食を抜き出すと、以下の通りです。
2019年07月04日 火星食 白昼の現象 関東以西で見える
2021年12月03日 火星食 白昼の現象 全国で見える
2022年07月22日 火星食 日の入り後 本州の一部で見える
2024年05月05日 火星食 白昼の現象 全国で見える
2025年02月10日 火星食 日の出の頃 北海道、日本海側の一部で見える
2030年06月01日 火星食 白昼の現象 南西諸島の一部を除く全国で見える
2021年12月03日 火星食 白昼の現象 全国で見える
2022年07月22日 火星食 日の入り後 本州の一部で見える
2024年05月05日 火星食 白昼の現象 全国で見える
2025年02月10日 火星食 日の出の頃 北海道、日本海側の一部で見える
2030年06月01日 火星食 白昼の現象 南西諸島の一部を除く全国で見える
“頻繁”とはいえ、昼間だとそもそも火星は目に見えませんから、月がその前をよぎったことも分かりません。好条件で観測できるのはやっぱり相当稀な現象で、古人の目を引いたのでしょう。
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【閑語】
幕末の日本ではコレラが大流行して、大勢の人が亡くなりました。
庶人これを「コロリ」と称し、時代が明治となってからも、コロリはたびたび猛威を振るい、それらを「一コロリ」とか「三コロリ」と唱えたものだそうです。
今の世も一コロナ、二コロナ、三コロナと、新型コロナは三度の流行を繰り返し、人々の心に暗い影を落としています。
大地震があり、流行り病があり、攘夷を叫ぶ輩が横行し、士道退廃が極まり…本当に今は幕末の世を見る心地がします。これでスカイツリーのてっぺんから伊勢の御札が降ってきたら、ええじゃないかの狂騒が始まるのでは…と思ったりしますが、昔と今とで違うのは、暗い時代になっても宗教的なものが流行らないことです。その代わりに陰謀論が大流行りで、多分それが宗教の代替物になっているのでしょう。
コメント
_ パリの暇人 ― 2020年12月28日 05時15分07秒
_ 玉青 ― 2020年12月28日 06時53分54秒
何と!お話を伺うと、上のキャプションは誤解だらけですね。一体どこでこんな不思議な混線が生じたのでしょうか。ともあれ、貴重なご教示をありがとうございました。さっそく本文にも注を付けておきました。
パリの暇人様には、今年も本当にお世話になりました。かくも拙いブログですが、来年もまた素敵なお話と共に、眼福にあずかれれば幸いです。年末にはまだしばし間がありますが、どうか良いお年を!
パリの暇人様には、今年も本当にお世話になりました。かくも拙いブログですが、来年もまた素敵なお話と共に、眼福にあずかれれば幸いです。年末にはまだしばし間がありますが、どうか良いお年を!
_ S.U ― 2020年12月28日 08時24分15秒
では、結局、このピンバッジの尾を引いた月は何なのでしょうか。
月ではなく、全体が彗星というのはどうでしょうか。三日月型の彗星が見えたという話は聞きませんが、一応あたってみる価値はあるようには思います。
こちらのことですが、上記URL(S.U)に我々の天文同好会の新号を発行しました。またご笑覧いただければありがたいです。
また、同同好会トップページ(HP)のリンクに2021年のめぼしい天文現象のご紹介をしました。2021/12/3の火星食は、太陽にかなり近いところの現象で、火星も暗い時期なので、観察は困難と思います。
月ではなく、全体が彗星というのはどうでしょうか。三日月型の彗星が見えたという話は聞きませんが、一応あたってみる価値はあるようには思います。
こちらのことですが、上記URL(S.U)に我々の天文同好会の新号を発行しました。またご笑覧いただければありがたいです。
また、同同好会トップページ(HP)のリンクに2021年のめぼしい天文現象のご紹介をしました。2021/12/3の火星食は、太陽にかなり近いところの現象で、火星も暗い時期なので、観察は困難と思います。
_ 玉青 ― 2020年12月28日 21時16分40秒
>結局、このピンバッジの尾を引いた月は何なのでしょうか
まあ、ただのピンバッジですから、そう突き詰めて考えるにも及びますまい。文中に書いたように、漠然と夜空をイメージして、月と流星を合体させただけ…というのが私の考えです。
ときに「銀河鉄道」最新号をご紹介いただき、ありがとうございました。早速拝読しました。S.Uさんのロケット体験は、その片鱗こそ、このコメント欄でも窺えましたけれど、その全貌は今回初めて知ったと思います。いやあ何と言うか、昭和の正統派ですね!
私もロケット花火の水平発射なんかは、大いに面白がった記憶がありますが、これはロケットそのものへの関心とは、ちょっと別種の面白さでしょう。そしてセルロイドロケットは話に聞くばかりで、残念ながら実体験がありません。この齢でチャレンジもできませんし、まったく惜しいことをしました。
まあ、ただのピンバッジですから、そう突き詰めて考えるにも及びますまい。文中に書いたように、漠然と夜空をイメージして、月と流星を合体させただけ…というのが私の考えです。
ときに「銀河鉄道」最新号をご紹介いただき、ありがとうございました。早速拝読しました。S.Uさんのロケット体験は、その片鱗こそ、このコメント欄でも窺えましたけれど、その全貌は今回初めて知ったと思います。いやあ何と言うか、昭和の正統派ですね!
私もロケット花火の水平発射なんかは、大いに面白がった記憶がありますが、これはロケットそのものへの関心とは、ちょっと別種の面白さでしょう。そしてセルロイドロケットは話に聞くばかりで、残念ながら実体験がありません。この齢でチャレンジもできませんし、まったく惜しいことをしました。
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"天文不思議集"のこの図は、かの有名なノストラダムスが、1554年3月10日の19-20時に、南仏のサロン-ド-プロヴァンス(ノストラダムスの終焉の地)で目撃した、月の近傍を通過した大火球なのです。この火球について、プロヴァンス知事・クロード伯爵に書き送った1554年3月19日付のノストラダムスのフランス語で書かれた手紙のドイツ語訳(1555年頃、ニュルンベルク刊)の挿画です。火星云々というのは原著者のなにかの勘違いかと思います。
それでは良いお年をお迎えください。