名碗披露2020年12月31日 15時19分07秒

雪が霏々として降る静かな大晦日です。

茶道の茶会に招かれると、茶を一服喫した後で「お道具拝見」となり、亭主自慢の碗やら掛物やらを感心した面持ちで眺め、箱書きとともにその由来を聞かされる…ということになるらしいです。茶会に招かれたことがないので、しかとは分かりませんが。

かく言う私も、このたび世にも稀なる名碗を手に入れたので、大いに自慢に及ぼうと思います。ただし、これはお茶を飲むお碗じゃありません。星を眺めるためのお碗です。

   ★

今年の5月ごろ、戦後日本の星座早見盤について集中的に記事を書いていました。
資料が乏しい中、その中で渡辺教具製の「お椀型早見盤」についても、分かっていることを書きました(※)


同社のお椀型早見盤は、バージョンアップを繰り返しながら、少しずつ進化してきましたが、以前の記事で書いたように、そこには大きく7つの段階があって、その絶対年代は以下の通りと推測しています。

渡辺教具製 星座早見盤編年表 2020.06.17版】
〇第1期 1955年頃?~1960年前後?(始期・終期とも曖昧)
〇第2期 1960年前後?~1962年頃(始期は曖昧)
〇第3期 1962年頃~1975年頃
〇第4期 1975年頃~1980年
〇第5期 1980年~2000年
〇第6期 2000年~? 
〇第7期 ?~現在
※第6期と第7期は、現在両方とも市場に並んでいて、正確な交代時期は不明。

(※)細かいことを言うと、木でこしらえたのが「椀」、焼き物が「碗」で、さらに金属製の「わん」には「鋺」という別の字があります。渡辺教具さんのは厳密には「お鋺」でしょうが、面倒なので以下「お椀」で統一します。

   ★

私が今回見つけたのは、幻の「第1期」のお椀です。


まだ特許取得前、そして同社が株式会社に改組する前の製品です。
しかもですね、このお椀には箱と箱書きが付属するのです。


この箱は、非常に珍しいです。世に二つとない…とまでは言いませんが、少なくとも私は初めて見ました。この箱はいずれ崩壊しそうなので、資料的意味合いから、詳細をここに載せておきます。


「星座早見盤」のレタリングが懐かしい。


問題の裏面の解説はこうなっています(文字が読み取れるよう、大きなサイズで画像をアップしました)。「本星座盤の特色」として、「ほんとうに大空をあをいているような感じを与えること。」「とても見やすく、楽しいこと。」と書かれています。ああ、しみじみ良いですね。何にせよ、楽しいことは大事です。

ただし、この箱書きをもってしても、正確な製造年は依然不明です。この紙質、文字遣い・言葉遣いの雰囲気から、1950年代前半(昭和20年代後半)に遡らせても良いように思うのですが、どんなものでしょうか。

それ以外の細部も見ておきます。


「冠」「蛇つかい」「牛かい」…。星座表記に漢字が入るのが古風です。


「南の魚」の「魚」の字がいいですね。「いんどん」は「いんど人」の間違いで、今の「インディアン座」のことですが、この辺も大らかといえば大らか。


以前気になった裏面はこんな感じ。解説の文字はやっぱり一切ありません。
この品が古物商の手に渡ったということは、取りも直さず、永井くん・永井さんも既に鬼籍に入られたか…。

   ★


ちょっと先回りして、12月31日から1月1日へと日付が変わる深夜0時に目盛りを合わせてみます。


星の配置は、まだ戦争の記憶が濃かったあの時代と何も変わりません。
人の世は変われども、星の世界は変わらぬもの哉―。
天をつらぬく棒のごとき銀河を眺めながら、明年もどうぞよろしくお願いいたします。