時計の版画集(後編)2021年02月01日 06時58分34秒

堀田良平氏の『自鳴鐘書票廿四時』の内容を見てみます。
ちなみに書名の「自鳴鐘」とは、昔のボンボン時計のように、報時機能の付いた時計のことですが、いかにも語感が古めかしいですね。何でも、戦国時代には南蛮より渡来していたそうですから、まあ古いのも道理です。


時計がきざむ時刻の数にちなんで、ここに集められたのは22作家、24枚の蔵書票です。


巻頭の一枚。京都の徳力富吉郎(1902-2000)による板目木版画。
以下に登場する蔵書票は大小さまざまですが、それらが1枚ずつ和紙に貼付されています。この徳力氏の作品は大きい方で、紙片全体のサイズは13.5×8cmあります。


関根寿雄作の板目木版画。
アーミラリースフィア型の日時計を描いた作品。関根氏については、以前『星宿海』という星座の版画集を紹介したことがありますが(LINK)、天文モチーフに関して一家言ありそうな方です。


栗田政裕作、木口木版画。
栗田氏は、黒々とした木口木版によって、夜の世界や宇宙をテーマにした作品を多く手掛けている方らしく、この作品も星空を背景に、幻想的な時計が造形されています。


清水敦作、銅版画。
壁面日時計を描いた優しい雰囲気の作品。鶏はもちろん「時を告げる者」の寓意でしょう。隅にエディションナンバーが「4/100」と入っていて、この蔵書票は100枚刷られたようです。この『自鳴鐘書票廿四時』は、全部で15部刊行されただけなので、残りの85枚が本来の蔵書票用という計算です(たぶん)。


神崎温順(かみさきすなお)作、染色作品。
これは染物を応用した「型絵染」で、型紙と顔料で和紙を染めて作るので、版木を使った版画とは工程が異なります。

   ★

時計の話題は、何よりも太陽と地球の動きとの関連で取り上げているわけですが、そればかりでなく、時計はそれ自体興味深いものです。

人間の作った品で、最も複雑なものが機械式時計…という時代が長かったので、時計は見る者の空想をいろいろ誘いました。金属ケースの中で、絶えず部品がカチカチ、クルクル動いているのを見ると、いろいろな事物――たとえば人体――をそこに重ねて見たくなるし、さらに「この世界には、人間には窺い知れないけれども、確かに見えざる機構があるはずだ」という観念を誘発し、時計は宇宙の比喩にも使われました。

果たして“究極のウォッチメーカー”である<神>はいるのか、いないのか。
まあ、いないのかもしれませんが、作り手なしに、これほど複雑な「時計」が自ずと出来上がったとしたら、それはそれで驚くべきことです。

コメント

_ S.U ― 2021年02月01日 18時32分54秒

櫓時計や自鳴鐘は確かに金満美術品だと思うのですが、尺時計は機能一点張りではないでしょうか。柱にかけて、天符式で菱形の駒を動かす小さな商家にあったような尺時計がほしいです。
 駒以外は美術的要素はなくてもかまいませんが、上のほうにガラス戸がついているのが普通みたいです。これがないと動いているのかどうか不安になるのでしょう。

 骨董品として売っています。絶対に買えない値段ではありませんが、買って置いといてどうするという程度の値段ではあります。

_ 玉青 ― 2021年02月02日 06時49分18秒

尺時計、実にカッコいいですね。直線的なデザインは、櫓時計よりもよほどスマートです。まさに機能美。私もぜひ手元に置きたいと思いますが、でも値段の方はあまりスマートではないですね。せめて動かないジャンク品でもいいので、格安で手に入ったら、オブジェとして眺めたいです。

_ S.U ― 2021年02月03日 08時01分02秒

尺時計の菱形の駒が縦向きにまっすぐ並んでいる様は何かに似ている・・・と思っていたのですが、これはソロバンの珠なんですね・・・ シンプルな尺時計の駒が判で押したように菱形なのは、ソロバンの珠を模した物で、これは「時は金なり」という格言を体現したものなのではないでしょうか。

 以上は私が寝ながら考えた文字通り「寝言」ですが、小さな商家にあったような尺時計に質実剛健を感じるのはソロバンのイメージが中継されているのかもしれません。

_ 玉青 ― 2021年02月03日 18時13分32秒

不定時法に対応した時計をどう作るか?「そう難しく考えるな。季節ごとに文字盤の方を動かせばいいじゃないか」…というコロンブスの卵的発想で乗り越えたところが、尺時計の見事なところでもありますね。そして、ひし形の駒をスライドして上下させるとなれば、見る者は自ずとソロバンの珠を連想したでしょうし、いったんそうなると、後続品はますますソロバンのデザインに近づくというわけで、ソロバン説は「寝言」でなしに、存外当たってるんじゃないですかね。

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