お手軽な天文時計2021年02月03日 18時13分51秒

本物の天文時計を手にするのは、なかなか大変なことです。
ネックとなるのはもちろんお金。手元で愛でようと思えば、必然的に小型の置時計、ないし掛時計ということになりますが、どちらにしても昔の王侯貴族の身辺にあったような品は、それこそ天文学的値段ですし、今出来のものでも、ちょっと気の利いた品となれば、やっぱりウン十万円要求してくるので、気軽に楽しむことは難しいです。

しかし、何事も道はあります。例えば下の時計はどうでしょう。


ガラス蓋付きの木枠の向こうに中世チックな文字盤が見えます。


上の文字盤では、時刻と月の満ち欠けを、


下の文字盤では、黄道上における太陽の位置を教えてくれるというもので、天文時計の基本を押さえています。「Astrology Clock」の名の通り、カラフルな星座絵のほかに、惑星記号を随所にあしらって、なかなかそれらしいムードを醸し出しています。

   ★

この時計について、たぶん最も詳しい説明は、「全米時計コレクター協会(National Association of Watch & Clock Collectors, Inc.)」のページに掲載されているものです(LINK)。

発売は1975年ごろで、当然そう古いものではありません。


ですから裏面を見ると、ちょっと散文的というか、安手な感じがありますが、それはやむを得ないでしょう。電源はAC電源で、アメリカ製なので、定格電圧は120ボルト。100ボルトでも普通に動く気はしますが、モノが時計だけに変圧器をかませた方が良いかもしれず、まだ実際に動かしたことはありません。

製造元はアメリカのコネチカット州の電化製品メーカー、メカトロニクス社(Mech'a'tronicsではなく、社名はMechtronicsと綴ります)で、同社の「フェアフィールド時計製造部門」が手掛けたものです。しかしネット情報が至極乏しくて、ここは今のところ謎のメーカーです。

乏しいネット情報を総合すると、同社は1967年創業で、オーナーのRichard J. Fellinger氏は既に2017年に77歳で亡くなられた由。いずれにしても、同社が時計製造を手掛けたのは、1970年代半ば~80年頃の、ごく短期間に限られるようです。そのわりに今でも製品をよくeBayで見かけるのは、一時相当大量に作られたことを物語りますが、それほど繁盛していた時計製造から、同社がなぜ撤退したかは謎です。

ちなみに、この「アストロロジー・クロック」、eBayだと1万円台で手に入るので、相当なハイ・コストパフォーマンスです。

   ★

ついでながら、本製品の特許番号から、特許申請書類を見つけたので、資料としてリンクしておきます(LINK)。

とりあえず、冒頭のアブストラクトとメカニズムの概略図は以下。



チェーンとホイールを上手く使うことで、1個のモーターで3つのダイヤルを正確かつ安価に動かせるというのが味噌のようです。ハイ・コストパフォーマンスの理由はこれです。

でも…と思います。上で「時計製造から、同社がなぜ撤退したかは謎」と書きましたが、ひょっとしたら、この工夫こそが、その理由なのかもしれません。というのも、こんな簡単な仕組みで乗り切れるほど、時計製造は甘い世界ではなかろう…という気がするからです。つまり、発想は良かったけれども、精度が十分出せなかった、それが同社の時計部門が短命で終わった理由ではないでしょうか。まあ、1秒も動かさない前から決めつけてはいけませんが、なんとなくそんな気がします。

コメント

_ S.U ― 2021年02月04日 06時57分52秒

以下も寝ながら考えたことですが、工業技術に関することで寝言ではないはずです。

 この「クロック」は、交流電源周波数シンクロナスモーターを使った「交流時計」ではないかと思います。この種は日本では1970年代にだけどっと流行ったように思います。私も1つ持っていました。米国でも同様だとすると、撤退の理由は電動機にあるのだと思います。たとえば、このメーカーはシンクロナスモーター主体のメーカーだったとか(確認していません)。モーターが壊れていなければ60Hzの交流電源で動くものと思います。

 ただし、1970年代だけ流行ったというのは、私の記憶にあるだけで、客観的には(米国も日本も)すぐには確認できません。交流電源を置時計に利用するという発想がいかにも戦後アメリカ的で、1960年代までの日本には置時計をコンセントに差すという発想はなかった(機械+電池式はすでにあった)、1970年代後半以後は水晶時計の電池で動くのが圧倒的安価で買えるようになったので廃れたと考えると状況的には無理はないと思います。

_ 玉青 ― 2021年02月05日 21時13分15秒

あ、きっとそれに違いありません。
この時計は電源コードとモーターが直結で、整流も変圧もなさそうなので、ちょっと違和感があったのですが、なるほどシンクロナスモーターというやつなのですね。我が家はちょうど60Hzエリアですから、60Hzで動くなら好都合です。今度ちょいとコンセントに挿してみようと思います(現物は今現在箱詰めされて棚の上なので、すぐには試すことができません。部屋が狭いと、こういところが困ります)。

_ S.U ― 2021年02月06日 07時25分57秒

「交流時計」は、動力やライトに電力が気にせず使えて電池交換も不要というのが利点で、時間精度もよかったのですが、1970年代はまだ停電がしばしばあって、停電があったのに気づかないと、それだけ遅れて知らん顔して動いているので存外信用ならないものでした。それでトラブルを体験して、これも流行らなくなった理由の一つかもしれません。

_ 玉青 ― 2021年02月06日 14時38分28秒

>停電

おお、これまた思わぬ伏兵ですね。逆に今はその点は大丈夫そうですが、クォーツ式全盛の中にあって、復活の目はどうもなさそうですね。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック