火星探検双六(2)2021年02月22日 21時38分47秒

(昨日のつづき)

おさらいとして、昨日の全体図を載せておきます。


双六なので、当然途中で行きつ戻りつがあるのですが、とりあえずマス目に沿って進みます。


地球を出発した飛行艇が訪れるのは、まず順当に月です。
ただ、その月は西洋風の「顔のある三日月」で、この旅がリアルな「科学的冒険譚」というよりも、「天界ファンタジー」であることを示唆しています。この辺は描き手の意識の問題であり(樺島画伯は明治21年の生まれです)、「少年倶楽部」という雑誌の性格もあるのでしょう。(これが「子供の科学」の付録だったら、もうちょっと違ったのかなあ…と思います。)


そして、月の次に訪れるのがなぜか土星で、さらに金星を経て、火星へ向かうというのは、順序としてメチャクチャなのですが、そこは天界ファンタジーです。そして途中で彗星に行き会い、いよいよ「火星国」に入ります。


火星国は、石積みの西洋風の塔が並ぶ場所とイメージされており、完全にファンタジックな夢の国です。


そして王国の首都らしき場所に入城し、「大運河巡遊船」に迎え入れられる場面が「上り」です。確かにそこは威容を誇る都ではありますが、いかにもサイエンスの匂いが希薄で、単なる「お伽の国」として描かれているようです。

もちろん、火星を科学文明の栄える場所として描くのも、まったくのファンタジーですから、そこは五十歩百歩と言えますけれど、後の「タコ足の火星人が、透明なヘルメットをかぶって『$#?@%#;+?~&@??』と喋っている」イメージとの懸隔は大きく、少なからず奇異な感じがします。

これが時代相なのか、それともやっぱり画家の資質の問題なのか、その辺を考えるために、もう1枚の火星探検双六を見てみます。

(この項つづく)

コメント

_ S.U ― 2021年02月23日 12時40分04秒

この塔が火星国だったのですか!

私はそれには考えが及ばず、地上からバベルの塔が雷雲を貫いて立っているのかと思いました。

_ 玉青 ― 2021年02月24日 18時57分39秒

>地上からバベルの塔が雷雲を貫いて立っている

地球のどこかに高い高い塔が立っていて、それをどこまでも登っていくと、いつか火星にたどり着ける…。実に素敵なイメージですね。一説によると、世界の中心にそびえ立つ須弥山の高さは60万キロ弱で、月よりもずっと高いですが、それでも火星には全然届きませんから、火星まで塔を築くのはなかなか大変そうです。でも、黄河をさかのぼると銀河に通じているという話もありますし(http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/06/16/)、やりようによっては可能かもしれませんね。

ちなみに(あんまりちなむ必要もないんですが)、ジャックが上った豆の木は、せいぜい雲の上どまりでしたが、日本の昔話にある、男の鼻がグングン伸びる話(天狗の羽団扇であおいだり、不思議な太鼓をトントン叩いたりすると伸びます)だと、伸びた鼻はこれまた天の川まで達して、天の川に架かる橋の欄干に打ち付けられるそうですから、火星ぐらいなら楽勝で、やっぱりこれはやりようなのでしょう。

_ S.U ― 2021年02月24日 19時52分43秒

(笑)じゃぁ、当然昔からあってしかるべき範囲の想像力でしたね。

 ところで、お話しついでに、やや脱線ですが、江戸川乱歩に「火星の運河」という短編があります。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/57506_61255.html
初出が1926年とありますので、これらの双六ができた頃です。

で、これは乱歩の冒険ファンタジーかと思って読むと、全然お門違いの感覚的な作品で、火星旅行はまったく関係ありません。ネタバレになりますが、運河の色と形象が気味が悪いという連想だけの話です。「パノラマ島綺譚(奇談)」や「黒蜥蜴」で異境的冒険ファンタジーを書く乱歩でさえ、当時の火星のイメージはこのくらいだったということかもしれません。

_ 玉青 ― 2021年02月25日 08時49分48秒

なるほど、たしかに火星は全然関係ないですね(笑)。
でも関係ないのに、あえてそれをタイトルに持ってきたというのは、乱歩は火星の運河によっぽど不気味な印象を持ってたんでしょうかね。

乱歩の関心は、結局のところ「人間」に終始し、一見科学的なテーマを扱っても、最後は登場人物の内面に話を持って行ってしまうので、SF的感性とは相いれない気がするんですが、乱歩とSFとの関係には、少なからぬ人が関心を持っているらしく、下のようなまとめサイトがあるのを、さっき知りました。

■初期日本SFと江戸川乱歩(他探偵文壇)とのかかわり - Togetter
https://togetter.com/li/636675

_ S.U ― 2021年02月25日 16時57分37秒

乱歩はSFとは相容れないという可能性は、結果的なことかもしれませんが面白いですね。日本の科学思想普及の点からまた研究できればと思います。

 乱歩が一種のハイテク・スリラーを目指し、それに成功したことも事実ですが、科学的論理で頑張るか不条理感覚で頑張るか、この二股には本人も苦労したことと思います。パイオニアにしてここまで頑張るところがやはり偉人なのだと思います。

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