望遠鏡と顕微鏡2021年03月04日 22時32分14秒

昨日の記事には、下の写真を添えると良かったかなと、後から思いました。


R.A. Proctorの『Half Hours with the Telescope』(1902)と、Edwin Lankesterの『Half Hours with the Microscope』(1898)。日本の新書版とほぼ同じサイズの、ごく小ぶりの本です。もちろん専門書ではないし、特にマニア向けの本でもありません。タイトルから分かるとおり、ひと時とは言わず、せめて半時を趣味に充てて楽しもうじゃないかと、一般の読者に呼びかけている本です。

このブックデザインは、当時、望遠鏡趣味と顕微鏡趣味を「好一対」のものと感じる人が、少なからずいたことを物語るようです。博物学が依然として隆盛だった頃ですから、せめてどちらか一方に通じていることが、紳士・淑女のたしなみだ…ぐらいの雰囲気だったかもしれません。

しかし、同じレンズを覗き込むのでも、両者の違いは歴然としていました。


望遠鏡の向こうに広がるのは、どこまでも深い闇と、かそけき光の粒と雲です。
いっぽう顕微鏡の視野を満たすのは、複雑な形象と鮮やかな色彩。

それぞれが世界の秘密を分有するビジョンとして、そこに優劣はないのでしょうが、やっぱり天文趣味は、地味は地味ですね(少なくとも眼視の場合はそうでしょう)。視力よりも想像力が求められる趣味だ…と呼ばれるゆえんです。

コメント

_ S.U ― 2021年03月05日 14時35分32秒

顕微鏡の世界は華やかで、望遠鏡の世界は地味!

 これは、意外な視点でした。
 私の経験では、天文も星雲の写真などけっこう派手でしたから。
 しかし、そうなったのは、高感度の天体写真がカラーで撮られるようになった1960年代以降のことなんですね。それは、まだ現役世代の話ですから、歴史上は天文は色が地味だったというのが正しいのでしょう。

 いっぽう、顕微鏡が色鮮やかなのは、せいぜいプランクトンくらいのスケールくらいまでで、さらに倍率を上げていくと可視光の波長程度の大きさになるので、色の出ようがないことになりますね。

_ 玉青 ― 2021年03月06日 07時14分08秒

たしかにプレパラートも薄片になればなるほど、色のない世界になってきますね。そして、コントラストを高めようと暗視野にすれば、そこにあるのは、かそけき光の粒や雲のようなもので、結局、望遠鏡の視野と同じ塩梅になってきます。それは見かけの類似以上のものではないとはいえ、そこにミクロとマクロの相同性のようなテーマを重ねて、世界の成り立ちに思いをはせた趣味人もいたかもしれませんね。

なお記事の方は、19世紀末あたりをイメージしてのものですから、低倍率の光学顕微鏡と小口径屈折(+眼視オンリー)を楽しんだ、平均的趣味人の体験の差異としてご理解ください。

_ S.U ― 2021年03月06日 09時02分43秒

確かに、暗視野の顕微鏡で、黄色い花粉に斜めから照明を当てると、月や金星のようですね。背景に青色フィルターを使って、そのようにして楽しみました。

 前にも書いたことあるかもしれませんが、私は、植物細胞観察用に「酢酸カーミン」を用意していました。これで、細胞壁がピンクに、細胞核が深紅に染まり実に美しかったです。昔の田舎でもよく手に入ったものだと思います。染色液はいつ頃から普及したのでしょうか。

 今日でも通販で売っているかなと思ってみると、何と、複数種の封入液セットが出ています。

https://www.vixen.co.jp/product/mcs103/

ビクセンさんエライ!(商品宣伝をしてしまってすみません)

_ 玉青 ― 2021年03月07日 09時56分00秒

医学・生物学領域における各種染色技法は、19世紀の第2四半期ぐらいから盛んになってきたようですよ(その名もずばり「染色体」の発見が1840年代だとか)。

そういえば…ということで思い出したのが、7年前の下の記事です。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/01/13/7191462
どうもS.Uさんも私も当時から似たような会話をしていて、何だか頼もしいようでもあり、そうでもないようでもあり(笑)。

_ S.U ― 2021年03月07日 19時24分15秒

うーん。過去に染色の議論をさせていただいたような記憶はありましたが、ここまでカンペキな議論をしていたとは、・・・ 過去の自分は、重要なところを押さえていたみたいで案外頼もしいです。これは、現在が落ちていることを意味するので、あまり喜ぶことではありませんね。

 幸いにして、顕微鏡趣味と望遠鏡趣味の比較については、過去を思い出すことによって、まだ深める余地はあるように思います。また、将来に取っておきましょう。

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