ツイン星座早見盤2021年11月10日 21時23分19秒

小さな星図からの連想で、小さな星座早見盤を取り上げます。


これも数年前に届いた品です。
14×15cmのかわいいサイズですが、紺のクロス装に金文字が渋さを感じさせます。


全体は二つ折りになっていて、表紙を開くと、左に南の星空、右に北の星空が見開きで並んでいます。

(裏表紙。この星図は貼り付けてあるだけで、回転はしません)

ここでいう「南の星空」「北の星空」は、いわゆる「南天星座」「北天星座」の意味とはちょっと違って、ヨーロッパ(北緯50度付近)から見て、南を向いた時に見える星空と、北を向いた時に見える星空を、2枚の星図に描き分けたものです。(南を向けば左が東、北を向けば右が東になるので、2つの円形星図は互いに鏡像関係になっています。)

(南の空)

(北の空)

上の2枚はそれぞれ11月10日の夜8時に合わせたところ。いずれも「窓」の下辺が地平線で、上辺は天頂をちょっと超えたあたりです(気になるのは、この「窓」の形がどのように決まったのか、そこに合理性はあるのかで、私にはうまい説明が思い浮かびません)。参考までに、普通の星座早見盤だとどうなるか、同日同時刻のフィリップス社の早見盤を挙げておきます。


   ★

ここで改めて、表紙の文字情報を確認しておきます。


Taschen-Sternkarte (Doppelkarte) 
von G. Gebert, Oberlehrer. 
Altzedlisch (Westböhmen)
Selbstverlag


ポケット星図(二重星図)
上級教師 G. ゲバート(作)
アルトツェドリッシュ(西ボヘミア)
私家版

表記はドイツ語ですが、作られたのは西ボヘミア、現在のチェコです。アルトツェドリッシュは、現在はスタレー・セドリシュチェ(Staré Sedliště)と呼ばれる町のドイツ名。

ゲバートの肩書である「Oberlehrer」は、手元の辞書に「上級教師(功労のある小学校教諭の称号)」とあって、これはだいぶ古風な言い回しのようです。たぶん日本で言うところの「訓導」とか、そんな語感でしょう。いずれにしてもこの早見盤は、専門の天文学者ではない、一小学校の先生の手になるものです。

発行年は書かれていませんが、全体の感じとしては1900年前後、あるいは少し後ろにずらして20世紀の第1四半期といったところでしょう。おそらくは1918年にチェコスロバキア共和国が成立する前の、ハプスブルク治下の産物と想像します。

   ★

この珍品といってよい早見盤も、例のグリムウッド氏の星座早見盤ガイドLINK】にはちゃんと載っていて、さすがと思いました。


ただ、同書には「サイズ不明」とあって、氏も現物はお持ちでなかったようです。

…と思いながら、写真を見ているうちにハッとしました。
ここに写っているのは、今私の手元にある品と同じものではありませんか(余白の鉛筆書きまでそっくり同じです)。


一瞬「あれ?」と思いましたが、おそらくグリムウッド氏は、オークションの商品画像を資料として保存し(これは私も時々やります)、本を編むにあたって、それを利活用されたのでしょう。さらに想像をふくらませると、このとき私は、自覚せぬままグリムウッド氏に競り勝っていた可能性だってあります。

こうなると、「さすが」という思いがグルっと一周まわって自分にかえってくるわけで、何だか妙な気分ですが、それにしても世界は狭いなと思いました。

(この早見盤は、かつてウィーンのサロ・ルービンシュタイン古書店の棚に並んでいました。まったくの余談ですが、同店主のルービンシュタイン氏は1923年に没し、娘であるマルガレーテさんが跡を継いで商売を続けていたのですが、彼女は1942年に、ナチの手でテレジン強制収容所に送られ、1943年に絶命した…とネットは告げています【LINK】)

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