アストロラーベ再見(4)2022年03月14日 17時53分18秒

アストロラーベと星座早見盤は何が違うのか?
その一つは星座の表示方式の違いです。

星座早見盤は、地上から見た通りの星空がそこに表示されます。ですから、使う時はこんな風に↓頭上にかざして、実際の星空と見比べることができます。星座早見が「星見の友」と呼ばれるゆえんです。

(星の手帳社刊「ポケット星座早見盤」解説より。 https://hoshinotechou.jp/products/planisphere/

しかし、アストロラーベは違います。
南の空に浮かぶオリオン座付近でくらべてみます。

(星座早見盤)

(アストロラーベ)

星座早見盤と比較すると、左右(東西)が逆転した鏡像になっています。オリオンの向きも逆なら、オリオンと対峙する牡牛も、実際とは逆の左方向から走り寄ってきます。

これは天球儀やアーミラリースフィアと同じ表示方法で、昔から、「アストロラーベは、アーミラリースフィアをロバが踏んづけてぺしゃんこになったのを見て発明されたんだ」という伝説が好んで語られてきました。(堅苦しくいうと、「天球儀を正射方位図法で平面化したものがアストロラーベだ」…とか何とか、そんな話になると思います。)

左右が逆だと使いにくい気がするんですが、アストロラーベは「星見の友」ではなくて、あくまでも天体の位置計算の道具なので、これはこれで良いのでしょう。

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それに、一見使いにくそうでも、実際に使ってみると、意外にそうでもありません。
というのは、上ではオリオンを正立させたために、左右(東西)が逆転して見えましたが、実際はこんなふう↓に表示されるからです。つまり、オリオンは天頂方向に頭を向けて、逆立ち状態です。


ここで、丸い鏡――凸面鏡を考えましょう――を、お盆のように水平に持って南面し、そこに星空が映っていると想像してみてください。鏡に映る星座は、確かにこの星図と同じ配置になるはずです。

今度は上下が逆転する代わりに、左右(東西)の向きは正しくなって、ちゃんとオリオンの左(東)にシリウスやプロキオンが輝き、右手(西)に牡牛が位置しています。

「星見の友」として使うとしたら、星座早見盤は頭上にかざして眺めるもの、アストロラーベはお腹の位置で構えて、鏡を覗き込むような気分で使うもの…と考えると、分かりやすいように思いました。

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でも…と、もう一度話をひっくり返しますが、これは星座がしっかり描かれたモダン・アストロラーベだから言えることで、星のまばらな正統派アストロラーベを「星見の友」に使うのは、やっぱり厳しいと思います。

たとえば、14世紀のアストロラーベを本歌取りしたブセボロードさんの作品だと、オリオン座周辺は下のような感じです。クネっとした“とげ”の先端が、それぞれ恒星の位置を表しているのですが、ここから実際の星空を想像するのは難しいでしょう。

(上段左から: Menkar(メンカー;くじら座α星)、Aldeboram(アルデバランの異綴)、Elgevze(ベテルギウスの異称)、Algomeiza(プロキオンの異称)
下段左から: Avgetenar(アンゲテナルの異綴;エリダヌス座τ星)、 Rigil(リゲルの異綴)、Alhabor(シリウスの異称))

(この項つづく。次回完結予定)