スプートニクは時を超えて2022年08月29日 06時01分24秒

(昨日のつづき)

昨日のマッチ箱ホルダーには、実は「兄弟」がいます。


写真の右に写っているのがそれで、表面のデザインはまったく同じ。ただ、サイズは二回りほど大きく、約10×7.5cmあります。材質はやっぱりアルミで、そこにメッキをしているのですが、金色が昨日の品よりも派手で、金きらした感じです。
この2つは、別の機会に、別の人から購入しました。


中央の黒いポッチを押すと…


こんなふうに、パカッと二つに開きます。
こちらはマッチではなく「タバコの友」。すなわち、紙巻きたばこを入れておくための「シガレット・ケース」です。マッチと煙草の関係を考えれば、両者はまさに兄弟分。

   ★

…と、ここまではうるわしい兄弟愛の物語で、めでたしめでたしなのですが、私が気になったのは、このシガレットケースがひどく新しく見えたことです。


傷もないし、メッキも剥げてないし、全体にピカピカしています。
「うーん、これは当時のデッドストック品なのかなあ…」とも思いましたが、ふと気づいたのはゴム紐です。一般にゴム製品は劣化が激しいので、ミッドセンチュリーのゴム紐がそのまま残っているはずはありません。それなのにこのゴム紐は、いまだ十分な弾力を保っているのです。

結局、これは「ご当時もの」ではなくて、その後の復刻品なのでしょう。
中国だと、毛沢東グッズをはじめとする「プロパガンダ・アート」が、今でも土産物として製造・販売されていますが、たぶんロシアも事情は同じで、共産主義時代を懐古するレトロな商品として、あるいは物好きな外国人向けに、こういう品が今も流通しているのだと思います。

まあ、デザインさえ良ければ復刻品でも構わないよという人もいるでしょうが、オリジナルの「ご当時もの」を探すならば、その辺をちょっと注意したほうがいいと、老婆心ながら申し上げます。


【付記】

昨日、今日と続けざまに登場した謎のロケット。
実際に打ち上げに使ったロケットと全然形が違うじゃないか…と不審に思いましたが、S.Uさんから頂戴したコメントによって、疑問が氷解しました。

謎を解くかぎは、ソ連製ロケットの姿は、高度な機密に属したという事実です。
人工衛星の姿はメディアで喧伝しても、ロケットの方は軍事技術と一体でしたし、アメリカとはげしい宇宙開発競争を繰り広げていた手前、ソ連としては「手の内は決して見せないぞ」という姿勢で臨んでいたのです。結局、一般の国民にとっても、それは厚いベールの向こうの存在で、絵を描こうにも想像で描くしかなかった…というのが真相でしょう。

その意味でも、昨日のマッチ箱ホルダーは、当時の世相を映す鏡となっています。
(今や北朝鮮でも、ミサイル発射場面をことさら放映して、それがメディア戦略にもなっていることを思うと、隔世の感があります。まあ、今でも最先端の軍事研究となれば、どこの国でも秘密裡にやっているはずなので、そこは相変わらずです。)

コメント

_ S.U ― 2022年08月29日 08時54分24秒

昨日のコメントをご引用くださりありがとうございます。ソ連のロケットの機体が機密であったことに加え、もう少しわかっていることがありますので、追加させていただきます。以下、調べ不足により、半分は推定です。推定には一応の根拠はありますが、話半分というかご参考程度にお願いします。

 それは、1960年頃には、人間が乗る宇宙船(犬が乗る場合もその練習だから同じ)は、ミサイル応用のロケットではなく、有翼の機体を使うのが正統かつ理想と考えられたのではないかということです。宇宙船は、民生用なら旅客飛行機、軍事用なら中長航続偵察機の発展と捉えるのが自然でしょうから、相当の面積の主翼を持つ発想からスタートしたのではないかと思います。戦闘機ではないので、無事に帰還することが第一で、それには帰還時に滑空するのが上策で、逆に言うと、ICBMのバクダンの代わりに人間を乗せるなどとんでもない下策で、実際の事実がそうであってもそれは恥ずかしいのでとても公にはできない、という事情があったものと思います。ただ、開発競争の激化により、現実は逆のほうになりました。

 ガガーリンは、帰還時にカプセルから座席ごと放出されてパラシュートで帰還しましたが、これは、ボストーク1号宇宙船がエンジンを積んでいなかったため、安全に着地できるかわからなかったためで、この事実はガガーリンが英雄となった後も長らく隠匿されていました。これは当時の国際的な人間飛行の基準(モラル的なもの?)と合致しなかったためと考えられています。今日では世界初の偉業にちがいないのでそこにケチをつける人はいませんが。

 だとしますと、架空のデザイン画で主翼の先についているのは、おそらくジェットエンジンだと思います。主翼の下では大気圏突入時に破損しそうなので、主翼の先端になったのでしょう。なお、ソ連のブランにはジェットエンジンがついていました(スペースシャトルは水素ロケット)が、主翼の下ではなく、お尻のほうでした。このへんは、むしろ、軍用機に詳しい人の意見を聞くべきかもしれません。

_ S.U ― 2022年08月29日 09時05分05秒

別方面の追記:
 さて、ソ連に同じデザインの新旧の品があるという件ですが、私も数年前に乗り換えでモスクワの国際空港(シェレメチボ)のキオスクみたいなお土産屋さんに寄った時、1つのショーウィンドウのかなりの面積を旧ソ連ふうのレーニンの肖像のバッジなどが占めていたのを見ました。そんなに高くなかったので買おうかと思いましたが、たくさんあったので複製品だと思って、やめました。ただ、そういうソ連の旧品のホンモノがあったとして、今のロシアで高値で取引されているのか二束三文なのかは知りません。市街にはホンモノがありそうに思います。

_ 玉青 ― 2022年08月30日 19時04分24秒

重ねてのご教示ありがとうございました。
手の内を見せないというのは、最新の技術を盗まれない用心というばかりでなく、「恥ずかしくて見せられない」場合もあるわけですね(笑)。

>レーニンの肖像

復刻品、やっぱりありそうですねえ。まあ、ごくありふれたものだとしても、こういうものは夜明けの星のごとく、日を追って減っていきますし、商売をするとなると、商品の安定供給が重要になるでしょうから、「それなら手っ取り早く自分で作ってしまえ」という発想になるのかもしれませんね。

_ S.U ― 2022年08月31日 12時53分26秒

>「恥ずかしくて見せられない」
 スプートニク2号当時、ソ連の関係者やトップが実際に恥ずかしいと思ったか、はたしてそれだけの心の余裕があったかどうかはわかりませんが、アメリカには知られたくないと思ったと思います。ところが、アメリカも、結局はバクダンの代わりに人を乗せて、公表したので、その後は恥ずかしいことはなくなったはずです。

 マルクスの唯物論のテーゼに「下部構造が上部構造を決定する」というのがありますが、この下部構造を利用可能な技術とし、上部構造を人間のモラルとすれば、ソ連の関係者はこれが正しいことが証明されて満足だったのではないかと思います。

_ 玉青 ― 2022年09月02日 09時00分49秒

>下部構造が上部構造を決定する

まさに「衣食足りて礼節を知る」、「貧すれば鈍す」ですかねえ。
「ボロは着てても心は錦」、「武士は食わねど何とやら」とも言いますけれど、世間一般では「鈍す」派が大勢を占めるように見受けられます。もちろん、当時の技術者にもプライドがあったと思うのですが、結局いけいけどんどんの「鈍す」派に押し切られたんでしょうか。ひるがえって、現代の我々は礼節を知る状態に至っているのか、それとも相変わらず鈍しているのか、その辺も省みる必要がありそうですね。

_ S.U ― 2022年09月03日 09時22分19秒

>現代の我々は礼節を知る状態に至っているのか、それとも相変わらず鈍しているのか

 もとのマルクスは、哲学と経済学の両方の観点をある程度別個に目指していたと思うので、上部構造は、哲学としては「個人の道徳観」となり、経済学では「社会の平均的な経済的行動の志向」ということになるのではないかと思います。(専門に勉強していないのであやふやです)

 前者に照らしてみれば、最近の日本人一般は、ひと頃ほどの銭ゲバとか身分不相応な出費はなりをひそめる傾向にあり、おそらく諦観の下部構造からか、おカネに左右されないモラルに移行しているのではないかと思います。しかし、後者でみれば、少子化は進むばかりで消費不況も続き、インフレや老後不安の下部構造が、心理的な経済動向にしっかり反映しているように思います。道徳と平均的行動にギャップの開きがあるなら、政治的にはなかなか処置無しのような気がします。

_ 玉青 ― 2022年09月03日 10時52分59秒

このじり貧の時代にあって、人々は、そして私はどう振る舞うべきか?
何だか今日の記事にもつながるお話で身に沁みます。

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