なぜ天文古書を?(前編)2022年09月06日 19時17分47秒


(英国王立天文学会の図書室。同学会のfacebook投稿より。正面は同学会の初代事務局長を務めたFrancis Baily(1774‐1844)の肖像)

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このブログが始まったのは2006年1月で、もう16年も前のことです。
そのちょっと前、2005年12月に、「Cloudy Nights」(※)の片隅で、1つのはかなげなスレッドが立ちました。

(※)Cloudy Nights」というのは、アメリカをベースとするアマチュア天文家の巨大掲示板・兼・情報サイトです。

スレ主はハンドルネーム「ガンダルフ」、ことスチュアートさんという方です。17年前から響いてくる、その声に耳を傾けてみます。(私がこの投稿に気づいたのは数日前ですから、なんだか17光年先から届いたメッセージのような気がします。)

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 「多くの天文家は本棚の一つや二つ持っているでしょうし、それを見れば趣味の進展具合も分ろうというものです。

しかし、天文古書を集めている人となると、一体どれぐらいいるものでしょうか?そしてその理由は?

天文古書は、クラシック望遠鏡とはいくぶん異なる点があります。すなわち、そこに書かれた情報はあらかた時代遅れになりつつあるし、説明されている理論の中には、最新の研究成果―いわば後知恵(笑)―を身につけた現代の天文ファンには荒唐無稽に思えるものもあるでしょう。 それに対して、たいていのクラシック望遠鏡は、今でも十分実用になりますし、現行品に代わる立派な選択肢となりうるものがたくさんあります。

では、なぜ天文古書を集めるのでしょう?過去とのつながりを保つため?偉大な天文学者や、私たちアマチュアの先人の心を学ぶため?書物愛や装丁が好みだから?それとも現代の天文学の知識を、広い視野から捉えるため?

個人的なことを言えば、私は自分自身の研究上の興味から細々と収集を行っています。以前蒐集した本の多くは、英国天文学史学会(Society for the History of Astronomy)のロバート・ボール卿参考図書館(Sir Robert Ball reference library)に寄贈してしまいましたが、現時点では、もっぱら以下の3つのテーマに力点を置いています。

1. 月とその歴史、観測、探査
2. 天文学者であり放送作家でもあるパトリック・ムーア卿の作品
3. 科学者でありSF作家であるアーサー・C・クラーク卿の作品

あなたは昔の天文学や宇宙の本を集めていますか?誰の、何の本を?なぜ?

それとも、そのような本はまったく時間の無駄だと考え、趣味の参考書としては、最新のテキストだけを持っているのでしょうか?

スチュアート」

(ロバート・ボール卿参考図書館の内部。英国天文学史学会のサイトより)

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一口に天文アンティークといっても、古書と望遠鏡では意味合いが違う…という指摘は、これまであまり考えたことがありませんでしたが、言われてみれば確かにその通りです。要はアンティーク望遠鏡は実用性があるが、天文古書には実用性がない、ということでしょう。そして、その「実用性」を欠いた天文古書をあえて集めるとすれば、その理由は何か?というのが、スチュアートさんの問いです。

これに対して、当時の人々が何と答え、今の私自身ならどう答えるか?
それを腕組みしながら考えてみます。

(この項つづく)

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