ルナ・ソサエティのこと(5)2022年10月16日 05時22分36秒

今回の記事を書くにあたって、同時代資料として、工作舎の雑誌『遊』を何冊か注文しました。最初は図書館で読もうと思ったのですが、何としたことか、近場の図書館はどこも所蔵してなかったので、やむなく身銭を切ったのです。


当時の『遊』は隔月刊で、私が各地の古本屋さんから送ってもらったのは、1978年8月刊の1002号から、1979年12月刊の1010号まで、全部で7冊です(1006号と1008号は未入手)。

我ながら執念深いですが、その甲斐は確かにありました。

まず、各号の表紙の裏のスペースに、ジャパン・ルナ・ソサエティの特設ページが、毎号連載されているのを見つけました。といっても、折々の活動記録などではなくて、同会の精神を体現したとおぼしいアート作品を掲載するページです。その連載第1回、「No.壹」と題された1002号掲載作は、こんなコラージュ作品でした。

(selection:松岡正剛、design:羽良多平吉)

ほかにも、↓とか、↓↓とか、いかにも工作舎っぽいなと感じます。

(左1005号、右1007号。いずれも同上)

(1009号 illustration:タイガー立石、design:木村久美子)

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そればかりではありません。

(『遊』通巻1003号より)

雑誌『遊』には、巻末近くに「遊線放送局」と題して、いわゆる「編集部だより」のようなコーナーが設けられていて、そこに『遊』と工作舎周辺の動向が毎号載っているのですが、そこに、時折ジャパン・ルナ・ソサエティ(JLS)のことが載っているのに気付きました(一昨日の晩見つけたのがこれです)。

本当に小さな記事と写真ですが、これぞ心底知りたかった、同時代のリアルな活動記録であり、紛れもない「公式記録」に他なりません。未見の号も含めれば、さらに情報は増えることでしょう。


●満月の昇りし頃「ジャパン・ルナ・ソサイエティ〔ママ〕」を工作舎にて開催。
(1005号より「11月15日」の項)

(同号掲載の写真。左端、松岡正剛氏)

●定例「JLS」とあわせて、「ち組」撮影パーティーを土星の間で開催。エルご一統、東郷健、チェリーらの本格ホモ・エロス派の大同団結により、撮影も順調。舎内スタッフも、メーク・アップを変え衣装を変え、モデルとして気を吐く。
(1007号より「3月14日」の項)

●ジャパン・ルナ・ソサエティ開催。山尾悠子、岡山より上京初参加。全員で月を季題の句会を楽しむ。
(1009号より「7月10日」の項)

(同号掲載写真。中央が山尾悠子氏?)

1005号の写真など、何だかふつうに酒盛りをしているだけのようにも見えます。いや、ふつうに酒盛りをしていただけといえば、確かにそのとおりなのでしょう。でも、その酒の席で話された話題が何か?というのが、この場合、決定的に重要なわけです。

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上の記事を読むと、ジャパン・ルナ・ソサエティは、松岡正剛氏の居宅である「ブロックハウス」だけでなく、工作舎の社屋でも催されていたことが分かります。
そのブロックハウスについては、こんな記事が1002号の「遊線放送局」に載っていました。1978年3月~5月の活動記録欄です。

(3月後半)
●ブロックハウスに在庫用倉庫をつくる。ブロックハウスとは、松岡、まりの・るうにい、内田、田辺、岡田が共同生活をするブロック材でつくられた一軒家。工作舎から七分。一部宿泊可。
●ブロックハウスにピッチの仔が三匹誕生。都合七匹。
(4月)
●仔猫に命名。松岡は“天”、村田は“マクシミリアン”、森下は“ピー”、木村が“ネコちゃん”。
(5月)
●ブロックハウスに北里大の殿川朝子入居。岡田、田辺が出居。

(1002号より)

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「みんな若いなあ…」と、昨日も書いた「若さ」をここでも感じないわけにはいきません。
松岡氏とその周辺の人々ばかりでなく、当時は日本全体が若かった。そのエネルギーが経済成長と文化的活況を生み出していたことは論を俟たず、2022年の社会との落差をいやでも感じます。

ジャパン・ルナ・ソサエティ(に象徴される70年代カルチャー)は、総じて若者らしい稚気に満ちていた…と言って言えないことはないでしょう。でも、今の私にはそれが光り輝いて見えるし、心底羨ましいなあと思います。

どうでしょう、ここで新たに「ジャパン・ルナ・ソサエティ」を名乗るのというのは?
「ジャパン・ルナ・ソサエティ」はたぶん商標登録もされていないし、名称独占の対象でもないでしょうから、そうしても罰は当たらないんじゃないでしょうか。

キリスト教の中には、我々がふつうにイメージする「見える教会」とは別に、霊的で永遠に存在する「見えない教会」の存在を主張する教派があります。ジャパン・ルナ・ソサエティも、いわば「見えない協会」として常に存在し、あなたも、私も、彼も、彼女も月を愛する人はその普遍的な会員なのだ…と考えてみてはどうか? 

(この項おわり)

【2022.10.27付記】
当初は記事の末尾に、さらに短い文章と画像が置かれていましたが、内容に事実誤認があったので、削除します。