ゼロの方程式2022年11月29日 20時07分11秒

今日、天文学史のメーリングリストに変わった投稿がありました。

現在、中国各地で習政権による「ゼロ・コロナ政策」への激しい抗議活動が起きていますが、デモの参加者は、何かメッセージを掲げても、報道の際は検閲で削除されてしまうので、最初から白紙を掲げてプロテストしている…と報じられています。しかし、中にはやっぱりメッセージを掲げる学生がいるらしく、件の投稿は、そのメッセージに反応したメンバーからのものでした。

そのメッセージがこちらです。


これは「フリードマン方程式」と呼ばれるもので、一般相対性理論によって導かれる宇宙膨張を表す方程式…だそうですが、その含意が分かりますか? 学生たちには、「どうだ、これが分かるか?」と、政権の無能ぶりを揶揄する気持ちもあるのかもしれませんが、政権の要人と同様、私にもさっぱりです。

リストメンバーの意見に耳を傾けると、眼前の膨張宇宙を認める限り、アインシュタインが忌み嫌った「宇宙項」は必ず存在し、その係数である「宇宙定数」もゼロにはできない。同様に、新型コロナをいくら忌み嫌っても、それをゼロにはできない…という主張がこめられているのでは?というのが一説。もうひとつは、単に Friedmann の名前をFreed man(解き放たれた人間)」に掛けているのだという説。

いずれももっともらしいし、まあ両方の意味がこもっているのかもしれません。
分かりにくいといえば、いかにも分かりにくいですが、落語の「考えオチ」みたいなもので、分かりにくいからこそ面白いともいえます。(さらにリンク先の記事では、「フリードマン方程式は「開かれた」(膨張する) 宇宙を表しているので、“自由で「開かれた」中国”を象徴しているのでは?」という別の意見も紹介しています。)

こういうのは一種のネットミームとして、思わず人に言いたくなりますけれど、理解できないまま触れ回るのも馬鹿っぽいので、フリードマン通の方に、より詳しい解説をお願いできればありがたいです。

コメント

_ S.U ― 2022年11月30日 07時06分25秒

この含意はなかなか難しいですね。私もわかりません。やはり、人々の動きや主張がとにかく膨張してほしいということでしょうか。

 こういう場合、私が推奨するなら「ゼロの方程式」は「ラプラス方程式」です。これは、フリードマン方程式とは違って、もっと、世俗的で電気機械設計に実用されているものです。記号で書くと、 
△φ=0 
です。
 △はラプラシアンという偏微分記号で、φはポテンシャル、簡単にいうと空間電圧と言ってよろしいです。何もない空間領域ではこんな簡単な形になりますが、これを具体的に解くとなると、周辺の外圧(周囲の電圧)と境界面で折り合いをつけないといけないので、周囲が複雑なら、内部ではさらに複雑な解になります。我々個人を取り巻く環境の効果というのは、個人がゼロであったとしても、そういうものではありますまいか。

_ 玉青 ― 2022年11月30日 19時23分32秒

ありがとうございます。「フリードマン通」と書いた時点で、これはもうS.Uさんしかないと思いましたが、この判じ物はなかなかどうして考えさせますね。でも、「真の答」は分からなくても、見る者をしてそうするように仕向けた時点で、件の学生さんの意図は十分に達せられたことでしょう。

>ラプラス方程式

その含意がこれまた分からないのを大いに遺憾とします。
しかし分からないながらも、境界面で折り合いをつけながらどうにかこうにかとは、また人間臭い話ですねえ。まさに人心の如し。

_ S.U ― 2022年12月01日 07時52分01秒

純粋な理学の方程式であってもそれらは天理人道をも示している、それは中国哲学の伝統的思考ですので、意外に現在の中国にも日本にも生きているのかもしれません。私としては多少なりともそのような志向をもって考えたいと思います。

 フリードマン通はご勘弁いただいてラプラス方程式のほうですが、ちょっと脱線をお許しください。一応、天文学史の話題です。このラプラスは、天王星の楕円軌道を早期に計算したピエール-シモン・ラプラスのことで、ラプラス方程式もほぼ同時期、1780年代~1790年頃に彼が発見したことになっています。ところが、現在、大学の物理・工学の電磁気学で教えているラプラス方程式は、19世紀前半に発見された「ガウスの発散定理」(これは数学の定理です)から導かれていて、時代の順序が合いません。私は、ラプラス方程式はガウスの天才的アイデアから導かれたと思っていたのですが、ラプラスが先に天体力学の関連で見つけていたということで驚きました。重力と電磁気学はともに逆二乗則なので同じ方程式が成り立つことは誰でも簡単にもわかることなので、天文起源でも謎ですが、ラプラスも天才なのでしょうから、経緯が解明されているにしても、その理解は簡単ではないでしょう。
 このあいだのオジギソウ=ミモザ以来、歴史順序の謎で病膏肓気味でちょっと頭がへたっていますが、こういうことも時にはあるのかということで記録させていただきます。

_ 玉青 ― 2022年12月02日 06時17分16秒

歴史順序の謎で大いに宸襟を悩ませてしまい申し訳ありません。
ラプラス方程式に関しては、まさに犬に論語、兎に祭文という体で、はかばかしいお返事ができないのを、再びみたび遺憾に思います。それでも、こうして記録にとどめていただければ、またどなたかの目に触れ、謎がほぐれ、さらにまた話題が一層広がることもあるでしょう。

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