たのしい惑星めぐり ― 2023年01月31日 05時39分25秒
日本生まれの天文ゲームというと、以前、「少年倶楽部」や「日本少年」の付録についてきた、奇怪な火星探検双六を載せましたが【LINK】、数としてはやっぱり少なくて、若干寂しいものを感じていました。
しかし、ようやく長年の喝を癒やすに足る品を見つけました。
銀の玉をころがしながら、惑星探検の気分を味わおうという戦前のゲームです。
ガラスのはまった木箱全体は、約24.5×18.5cmと、ほぼB5サイズの大きさ。若草色に山吹と朱のやさしい配色が優美です。
ゲームを始めるには、まず盤面の下にたまった玉を、右下の「出口」から手前に出して、
左隅に整列させます。ここからいよいよゲームスタート。(本来、玉は12個あったはずですが、現状は9個しかありません。表面は銀色でも、陶質の脆い玉ですから、たぶん遊んでいるうちに割れてしまったのでしょう。)
このゲームの目的は、1番の地球、2番の月を手始めに、無数の落とし穴を巧みによけながら、順々に惑星を「征服」していき、最終目的地である太陽(12番)を目指すことです。
各惑星の穴は銀玉よりも小さいので、そこに玉がスポッとはまるようになっています。要は先日のエルメスの星座ゲームと同様、これは「忍耐ゲーム」系の遊びです。ただ、エルメスと違うのは、そこにトラップ要素が加わっているのと、玉をはめ込む順番が予め指定されている点です。
惑星の顔ぶれは海王星で終わっていて、その先は北斗星、彗星、太陽と続きます。
かつて「第9惑星」とされた冥王星が発見されたのは1930年ですから、このゲームはそれ以前、1920年代のものでしょう。時代でいえば大正末から昭和のはじめ頃。
★
このゲームには外箱も付属していて、表面の化粧紙はほとんど剥がれてしまっていますが、その断片が箱の中に残っていました。そこには「KCK」を商標とするメーカー(未詳)と、三越百貨店のラベルが貼られています。
戦前にこのゲームを三越で買ってもらえた男の子(たぶん男の子でしょう)は、結構なお坊ちゃんでしょうねえ。ある意味、今のエルメスよりもさらにセレブ感のあるアイテムかもしれません。
ここで私の脳裏には、杉浦非水(1876-1965)のポスターがぼんやり浮かんできます。
(「三越本店西館修築落成 新宿分店新築落成」、1925)
…とか、
(「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」、1927)
…とか。この手前に描かれた男の子や、その奥に見える制服制帽姿の少年なんかが、嬉々としてこういうゲームを買ってもらったんじゃないでしょうか。そして持ち主の少年は、子供の科学(1924年創刊)も購読していて、1927年9月に三越で開催された「模型の国」展覧会を訪れていたんじゃないか…というふうに、私の連想は続きます。
(「子供の科学」1927年11月号グラビア特集「誌上「模型の国」展覧会」より)
まさに往時の「山の手の少年文化」が匂い立つような一品です。
コメント
_ S.U ― 2023年02月01日 07時47分07秒
_ 玉青 ― 2023年02月04日 08時19分01秒
三越トイランドについては、ちょっと調べた範囲では分かりませんでした(三越の社史を調べれば出てくるかもしれませんが、まあそこまでする必要もないですね)。たぶん…ですが、1937年、日中開戦と同時に百貨店法(第1次百貨店法)ができて、百貨店の国家統制が始まりますが、それから太平洋戦争が始まるまでの数年間のうちに、トイランドも消滅したんではないでしょうか。
初発の方は、『明治・大正家庭史年表』(河出書房)に「大正6年(1917) 東京のデパートに玩具売場が出現」という記事が載っていて、この「デパート」が三越かどうかは書かれていませんが、一応これが上限と思います。ただ、三越も関東大震災によって被災し、その復興の過程で、かなり姿を変えたらしいので、トイランドの誕生は震災後のことかな…と、漠然と想像しています。
>銀玉鉄砲
あのパチンパチンとバネで玉を弾く音と感触、懐かしいですね。私もこのゲームの銀玉を見て、あれを思い出しました。まあ、私にしてもこのゲームを本気で楽しもうと思っているわけではないので、プラスチックの銀ダンに頼る必要は当面なさそうです。なお、このゲームで鉄球を使用していないのは、ガラス蓋の損傷を懸念したためでしょう(ゲームを始める際に玉を全部手前に出す過程で、必然的に玉とガラスがぶつかるので、力加減によっては危ないです)。
初発の方は、『明治・大正家庭史年表』(河出書房)に「大正6年(1917) 東京のデパートに玩具売場が出現」という記事が載っていて、この「デパート」が三越かどうかは書かれていませんが、一応これが上限と思います。ただ、三越も関東大震災によって被災し、その復興の過程で、かなり姿を変えたらしいので、トイランドの誕生は震災後のことかな…と、漠然と想像しています。
>銀玉鉄砲
あのパチンパチンとバネで玉を弾く音と感触、懐かしいですね。私もこのゲームの銀玉を見て、あれを思い出しました。まあ、私にしてもこのゲームを本気で楽しもうと思っているわけではないので、プラスチックの銀ダンに頼る必要は当面なさそうです。なお、このゲームで鉄球を使用していないのは、ガラス蓋の損傷を懸念したためでしょう(ゲームを始める際に玉を全部手前に出す過程で、必然的に玉とガラスがぶつかるので、力加減によっては危ないです)。
_ S.U ― 2023年02月04日 17時46分36秒
>百貨店法
お調べありがとうございます。
戦時中には百貨店の大々的な玩具売り場はなくなったでしょうから、我々の世代の興味としては、むしろ戦後いつ復活したかということになるかもしれません。私が物心ついたころの記憶に馴染みがあるのでは、京都の大丸がいちばん立派な百貨店でしたが、玩具売り場の記憶はありません。おそらく、昭和の戦後の私においては、百貨店より、街の商店街や路地のおもちゃ屋さん、駄菓子屋さん、模型専門店、それから縁日に来るテキ屋さんに心をとらえられていたものと思います。
>鉄球を使用していない
プラスチックじゃないから、安全性の点なのですね。あと、鉄球だと磁石で操作ができます。これは、利点とも言えますが、インチキの疑いをかけられたら欠点ともいえますね。
お調べありがとうございます。
戦時中には百貨店の大々的な玩具売り場はなくなったでしょうから、我々の世代の興味としては、むしろ戦後いつ復活したかということになるかもしれません。私が物心ついたころの記憶に馴染みがあるのでは、京都の大丸がいちばん立派な百貨店でしたが、玩具売り場の記憶はありません。おそらく、昭和の戦後の私においては、百貨店より、街の商店街や路地のおもちゃ屋さん、駄菓子屋さん、模型専門店、それから縁日に来るテキ屋さんに心をとらえられていたものと思います。
>鉄球を使用していない
プラスチックじゃないから、安全性の点なのですね。あと、鉄球だと磁石で操作ができます。これは、利点とも言えますが、インチキの疑いをかけられたら欠点ともいえますね。
_ 玉青 ― 2023年02月08日 19時16分53秒
>磁石で操作
「磁石ゴト」(磁石を使ったパチンコのイカサマ)を想起しますが、見方によっては、これぞ磁力応用の科学的惑星探査ですね(笑)。
「磁石ゴト」(磁石を使ったパチンコのイカサマ)を想起しますが、見方によっては、これぞ磁力応用の科学的惑星探査ですね(笑)。
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関連して、この滅失されたとおぼしき「銀玉」から、私が子どもの頃に流行った「銀玉鉄砲」を思い出しました。この弾丸は銀色をしていましたが、材質は鉄ではなく土くれのようなものでした。銀玉鉄砲は、バネの威力とコストの点で鉄は使用できなかったものと理解できますが、このゲームは鉄球でよかったのではないかと思います。ちなみに、銀玉鉄砲は1960年の発売で、1980年以降はプラスティック製のBB弾(銀色に塗装した物は銀ダンとも)に座を譲っています。実用上、12個揃えられるなら、銀ダンの代用をご検討ください。