牧野富太郎の名刺 ― 2023年04月08日 16時30分49秒
牧野富太郎でさらに話を続けます。
以前、牧野という人物に関心を持った際、彼のことを身近に感じたくて、その自筆書簡を手に入れたことがあります。その詳細を書こうと思うのですが、何せ昔の人の手紙ですから、ちょっと読みにくいところもあって、内容については次回に回します。
ただ、書簡を手に入れて、ちょっと得した気分になったのは、そこに彼の名刺が付いていたことです。
ただ1行「牧野富太郎」の姓名のみで、裏面も白紙です。
今の情報過多の名刺とはえらい違いですが、ものの本によると、こういう姓名のみ、あるいはせいぜい位階勲等のみを添えたカードは、「コーリングカード(calling card)」と称するもので、今のゴタゴタした名刺、すなわち「ビジネスカード」とは本来別物だそうです。
ビジネスカードというのは、文字通り商売向けに配るものであるのに対し、コーリングカードは他家を表敬訪問した際、名刺受けに置いてくるもので、そうした折には先方の夫妻に敬意を表して、2枚置いてくるのがエチケットだった…という話です(板坂元(著)『紳士の文房具』、小学館)。
今や「刺を通ずる」というのは、大分古風な言い回しに感じられますが、そういう振る舞いも、こういう名刺を渡してこそ絵になろうというものです。
この場合は、ちょっとした挨拶代わりに名刺を封書に同封して送ったのでしょうが、こうして時空を越えて刺を通ぜられると、何となく牧野富太郎と親しく面会し、その謦咳に接した気分になります。
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