子どもたちはプラネタリウムをめざす2023年05月03日 10時43分50秒

紳士・淑女の社交場だったプラネタリウムが、子どもたちの人気スポットになったのはいつか? いつ…とはっきり言うこともできませんが、たぶんベビーブーマー世代が学童期を迎えると同時に、スペースエイジの熱狂が重なった時代が、その画期だったんじゃないでしょうか(まったくの想像ですが)。

1935年にオープンした、ニューヨークのヘイデン・プラネタリウムも、下の絵葉書を見るかぎり、当初はだいぶ大人のムードを漂わせていました。


それが1967年には、下のようにすっかりキッズ・フレンドリーな、ファミリー向け施設に変わっていました。


上のイラストを含むページ全体がこちら↓です。


「ベッツィー・マコール、プラネタリウムにいく」と題した雑誌広告です(「マコールズ」、1967年4月号掲載)。

「マコールズ(McCall’s)」というのは、1950~60年代を全盛期とする、アメリカの「家庭画報」みたいな女性月刊誌で、20世紀いっぱい発行が続いたそうですが、この雑誌から生まれた人気キャラクターが、「ベッツィー・マコール」です。雑誌の付録というか、雑誌の中に彼女の登場するページがあって、厚紙に貼って切り抜くと、着せ替え人形になるという仕掛けで、しかもベッツィーの着る服は、すなわち自社製品の宣伝にもなっているという、なかなか商売上手な企画です。

広告の中身は、ベッツィーが休日にパパとプラネタリウムに行った…という体裁の記事になっており、なんとなく面白そうだったので、全文訳してみるとこんな感じです(適当に改段落)。

 「春休みにパパとニューヨークまでお出かけして、プラネタリウムに行ったの。あんなにドキドキしたのは生まれて初めて。大きなホールの灯りが消えると、お星さまとお月さまと惑星たちがいる宇宙の真ん中にいるみたいだった。いろいろ解説してくれた天文学の先生は、ヘス博士っていうの。ヘス博士は昔パパの先生だったんだって。

ねえ、知ってる?1時間に何千マイルも何万マイルも飛ぶ宇宙船に乗っても、火星につくには3か月ぐらいかかるんだって。それでも火星はいちばん近い惑星なのよ!空でいちばん明るい星座の名前もさっき覚えたわ。しし座って言うの。「しし」っていうのはライオンのことね。でもライオンを見ようと思ったら、きっと想像力がいるわ。それといちばんワクワクしたのは、今月は本物の空にもすごいことがたくさん起きるってこと。4月22日は流星雨だし、4月23日には月食があるの。でも私たちは月食の最初のほうしか見られないんだって。アフリカあたりに住んでれば全部見られるんだけどね。

ショーが終わって灯りがついてから、パパは私を博士に会わせてくれたんだけど、どぎどきしちゃって「いつか月まで行きたいです」って言うのが精一杯だったわ。ヘス博士は「うん、きっと行けるよ、ベッツィー」だって。ねえ、すごくない?」

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児童文化におけるプラネタリウムの意義やシンボリズムというのは、本気で論じようとするとかなり大きなテーマになる気がします。まだ調べたことはありませんが、プラネタリウムが主要な舞台になっている漫画や小説で、主人公が少年・少女であるものを数え上げるだけでも相当な数になるでしょう。

なお、ベッツィーが言葉を交わした「ヘス博士」というのは、Dr. Fred C. Hess(1920-2007)という実在の人物で、ヘイデン・プラネタリウムで活躍した名物プラネタリアンです。