星はゆふづつ2023年06月06日 15時12分20秒

清少納言は金星(ゆふづつ)を、すばる・ひこぼしと並んで、見どころのあるものとしました。そのまばゆく澄んだ光は、清少納言ならずとも美しく感じることでしょう。

金星は今、夕暮れの西の空にあって見頃です。
6月4日には東方最大離角の位置に来て、望遠鏡でみると半月形をしていたはずです。これから金星は徐々に三日月形に細くなっていきますが、地球との距離が近づくので、明るさはむしろ増し、7月10日に最大光度マイナス4.5等級に達すると、星空情報は告げています。

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こんな絵葉書を見つけました。

(1910年発行のクロモリトグラフ)

「金星をご覧あれ。5セント」という看板をぶら下げた、望遠鏡の街頭実演家を描いたコミカルな絵葉書です。これは昔、実際にあった商売で、道行く人に望遠鏡で星を見せ、初歩的な天文学の知識をひとくさり語って聞かせて、お代を頂戴するというものです。


場面は、貧しげな風体の男が望遠鏡をのぞくと、樽の中から少年がさっと現れて、ロウソクの炎を金星と偽って見せているところ。三者三様の表情がドラマを感じさせます。まあ、こんな詐欺行為までが実景だったとは思いませんが、こうした見世物の客層が、主に貧しい人々だったのは事実らしいです。


右肩の「Things are looking up」というフレーズは、「こいつは運が向いてきたぞ」という意味の慣用句。金星はたしかに美の化身ですが、ラッキーシンボルというにはありふれているので、それを見たから格別どうということもないと思うのですが、この場合、腰をかがめて「looking up」している男の動作と慣用句を重ねて、一種のおかしみを狙っているのでしょう。

(絵葉書の裏面。版元はニューヨークのJ. J. Marks、「コミックス」シリーズNo.15と銘打たれています)

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宮廷住まいの清少納言とはいかにも縁遠い風情の絵葉書ですが、もし彼女がこれを見たら何と言ったでしょう?「いとをかし」か、「いとわろし」か、それとも「すさまじ(興ざめだ)」か?

まあ勝ち気な彼女も、晩年には「月見れば老いぬる身こそ悲しけれ つひには山の端に隠れつつ」などという歌を詠んで、人生の哀感を深く味わっていたようですから、このユーモラスな絵葉書の底ににじむペーソスも、十分伝わったんじゃないでしょうか。

コメント

_ S.U ― 2023年06月06日 16時28分14秒

これはまた、Venusを見せるというからには、例の「海辺の絵葉書」モノかと思いましたが、存外「真面目」なものだったのですね。また最近、どうも毒されすぎのようです(笑)。"Planet Venus"と書いてあるところが、私のような者への予防線かもしれません。

 ということは、ほんとうに月や金星を見せる商売もあったのかもしれませんね。おカネをとるのを問題にする人もあるかもしれませんが、私は金額が行為の値打ちを上げているとすれば、それはそれですばらしいことだと思います。また、天体を見て運気が向くというのであれば、古今東西を問わず、高貴な人も貧しい人も得心してくれるのものと期待します。

 ちなみに、1910年頃の5米セントは、金価格では当時の1米ドルが2円ですから、5セントは10銭とすれば、今の400円くらいになるでしょうか。昔は、器具類は高く、食材は安かったので比較は難しいですが、庶民が気軽に出すにしてはちょっと高いかもしれません。

_ 玉青 ― 2023年06月08日 06時32分37秒

あはは、まあ、現にこういう例がありましたからね。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/09/13/6980615

路上の望遠鏡商売については、今日の記事でも取り上げたので、ご笑覧ください。
そちらは1860年頃のイギリスの話で、1回覗くのに1ペニーだそうですから、現在の貨幣価値にすると50円~100円ぐらいで、これなら常識の範囲内かと。念のため、1910年の5セントを同じサイトで変換してもらったら、大体200円ぐらいだそうです(当時の1ドルを購買力を指標に換算すると、現在の30ドル相当の由。ただしこれは指標の取り方によって、20ドルから680ドルまで大きくばらけます)。まあ、200円にしても400円にしても、イギリスよりはお高めなんですが、絵葉書の場合は「特殊サービス代」として、助手の少年の人件費とロウソク代が加算されているのかもしれませんね。(笑)

なお、私が参照したのは以下のサイトです。
https://www.measuringworth.com/calculators/uscompare/

_ S.U ― 2023年06月08日 08時11分26秒

お値段の値打ちのお調べありがとうございます。
日本なら、かけそばとか、はがきとか、職人の日当とか、調べやすいものが案外普遍的な価格指標になりますが、ニューヨークではどうなんでしょうね。

 天体観望商売ですが、現在では、真面目な天体観望では、主催者がアマチュアでも公的・私企業的機関でも「覗かせる」という行為が有償というのはまずないと思いますが(施設なら入場料は取るかもしれませんが)、ストリートでプロが決まった料金を取るという実例もあるほうが科学文化としては豊かと言えるのではないかなと思います。特に底意はありませんが、我々も、文化振興のために、老後は天体観望商売をするというのはいかがでしょうか。(昨今の日本では、公の場所で大道商売はできそうにないので、適当な市街地に土地がないと無理でしょうね)

_ 玉青 ― 2023年06月10日 07時32分58秒

>天体望遠鏡商売

いよいよ、乗り出されますか!さっき調べた感じでは、常設の露店は許可が下りなくても、移動販売車なら結構いけるみたいですよ。
考えてみると、アマチュアの観望会ではなしに、おあしを取る商売となると、ひょっとして私なんかでも、「プロの天文家」を堂々と名乗れるわけで、憧れのセカンドライフは、意外に身近なところにあり…と気づきました。天体望遠鏡商売には、口説の技もだいぶ要りそうなので、ここで熊さん、八っつぁん、ご隠居総動員の落語趣味が活きてきますから、そっち方面の文化振興も大いに期待できそうです。(笑)

_ S.U ― 2023年06月12日 13時51分59秒

なるほど、移動式屋台で営業可能ということですね。
キッチンカーみたいなのをつくってそこに望遠鏡を積み、覗いてもらうということですね。接眼位置の変わらない、ナスミス式、クーデ式だと車に積んで車の側面から覗いてもらえそうです。ただ、有料の商売として元が取れるとは思えません。実際には従来型の望遠鏡を軽トラに積むくらいと思います。
 世の中には、「アストロカー」というのが
https://www.goto.co.jp/observatory/astrocar/
すでにあるそうですが、私の商売は「アストロ軽トラ」としてつつましく怪しげにやってみたいと思います!?

_ 玉青 ― 2023年06月12日 21時33分28秒

落語には、身をやつして、一種の趣味として小商いの真似事するお大尽が出てきた気がするんですが、我らの商売も何より風流重視、採算は度外視ですかね。
星を売る店ならぬ「星の行商」こそ、まさに粋の極みではないでしょうか。(笑)

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