寝ぼけ声2023年08月29日 18時23分35秒

「ひょっとして、あいつは暑さで頓死したな?」と思われたかもしれません。
しかし、こうして無事生きています。生物界には冬眠と対になる「夏眠」というのがありますが、私も酷暑を避けてしばらく夏眠状態にあったわけです。でも、8月も終わりですから、そろそろ夏眠から覚めなくてはなりません。春の啓蟄に対し、秋の啓蟄がもう一つほしいところです。

しかし夏眠から覚めてあたりを見渡すと、世の中どうも芳しくないニュースが多いですね。目覚めの一言も、ちょっと無粋なところから始めます。

   ★

昔、中学だか高校だかの頃、アイザック・アシモフが「疑似科学」に論駁する本を読んで、おおいに溜飲を下げたことがあります。いわゆる「とんでも学説」を、まさに快刀乱麻を断つように切り捨てていく様は痛快であり、なんだか読んでいる自分まで賢くなったような気がしたものです。実際、アシモフはものすごく頭の切れる人だったのでしょう。

ただ、その中でひとつモヤっとするエピソードがありました。
健康食品に関する文章で、アシモフはヨーグルトが身体にいいという説を一蹴して、「ヨーグルトには牛乳に含まれる以上の栄養素はない!」と切って捨てていました。

それはそれで正しい陳述です。
腸内フローラの研究史は17世紀のレーウェンフックにまで遡るそうですが、その機能に関する研究はだいぶ紆余曲折があって、「ヨーグルトは不老長寿の霊薬」みたいな怪しげな言説も入り混じっていたので、アシモフがそれを疑似科学と切って捨てたのは、理解できなくもないです。ただ、結果的に彼が「食品がもたらすプラスの効果は、すべて栄養素の効果に還元できる」としたのは、あまりにも単純素朴な考えで、そこには大きな見落としがありました。

いかに既存の科学知識で武装しても――その武装がどれほど完璧なものであっても――そこには常に思考の盲点がありうるし、ときにその盲点は、広大な視野の欠落であると後に判明することもあります。アシモフほどの人でも、そこから逃れることはできませんでした。

この一件は私にとって非常に重要な教訓になっていて、今でも折に触れて思い出します。

   ★

原発「処理水」の海洋放出をめぐって、ネット上で半可通めいた人々が議論しているのを見ると、やっぱり上のことを思い出します。

最初に私の立場をはっきりさせておくと、私は海洋放出に反対です。
海洋中の物質動態は今も不明な点だらけのはずで、環境への影響を考えれば、放出には常に謙抑的であるべきです。それをごく狭い了見にもとづいて、「大丈夫、大丈夫!」と見切り発車するのは、盲者蛇に怖じずというか、蛮勇と呼ぶほかないのではないでしょうか。

   ★

仮に海洋放出のすべてのプロセスがオープンな状況で進んでも、上の疑念は残ります。ましてや、現在コトを司っているのは民間の一企業(および彼らと多くの利害を共有する関係者)なのです。

そこには巨額の賠償責任を逃れたいという、非常に大きなバイアスが常にかかっている事実を忘れるべきではありません。その意見はたとえ科学的相貌を帯びていても、およそ公平無私なものとは言えないし、そのことをカッコに入れたまま議論するのは相当危なっかしいと思います。

   ★

以上の文章は詮ずるところ情報量ゼロであり、なにか無責任な発言に聞こえるかもしれませんが、ことの重要性に鑑み、あえて「無知を正しく畏れよ」と私は申し上げたいです。

(記事の方は徐々に平常運転に戻します。)

コメント

_ S.U ― 2023年08月30日 08時05分59秒

おはようございます。
「夏眠」と「処理水」については、前件のスレッドで触れさせていただきました。

ここでは、この場をお借りして、我々の天文同好会の会誌の新号を発行したというご紹介をさせていただきます。上のURLでご笑覧を賜りますれば幸甚です。

_ 玉青 ― 2023年08月31日 18時14分04秒

それにしても、こんな暑さが毎年続くと、驚くほど短期間で(数百世代のうちに?)夏眠行動が、多くの生物種において獲得されるんじゃないか…と思ったりします。人間もエアコンが使えなくなったら、たぶんそうなるでしょう(そうでなければ、文字通り死んでしまいます)。

「銀河鉄道」のご案内ありがとうございました。今号も読み応えがありました。
S.Uさんは囲碁もやられるのですね!私は囲碁というゲームに憧れのような感情を抱いているのですが、何度説明を聞いてもルールが理解できません。将棋は定石を知らなくても、駒の動かし方さえ分かれば遊べますが、囲碁は自分が一体何をやっているのか、何だかフワフワしています。でも、S.Uさんの解説を拝読し、ちょっぴり分かった気がしました。

記事の方はぼちぼち書きつけていきますので、旧に変わらずよろしくお願いいたします。

_ S.U ― 2023年09月01日 05時37分58秒

>夏眠
そういえば、家の外壁や窓などに生きてるか死んでるかわからない小さなカタツムリがへばりついているのをしばしば見ますが、あれも夏眠だそうですね。人間の近い将来の姿を見たような気がしました。

>囲碁~フワフワ
 我らが会誌をご覧たまわりありがとうございます。
囲碁は、AIにでも付き合ってもらって終局までやってみないと生き死にのルールは理解できないと思います。最終盤でも斜め方向の石のつながりがX状に切り合うと、生きていた石群が一瞬にして死にます。定石は覚えなくても打てます。定石がわからず不利になりそうなら、そこは放置してまったく別のところに打てばいいのです。
 
 ご指摘を受け、石の並びの「フワフワ」感も「宇宙」だなと思いました。宇宙遊泳か空中楼閣のような頼りない感じは、プロ棋士も感じているようで、昔の話になりますが、武宮正樹九段は、「宇宙流」という大きな空中楼閣を組み立てる戦法でよく勝ったそうです。プロさえフワフワして難解なのにアマには大人気だったそうです。

_ 玉青 ― 2023年09月09日 12時06分14秒

ありがとうございます。
フワフワしていても一向に差し支えないと伺い、大いに勇気づけられました。ならば私も自分なりの宇宙流で、大いにフワフワしてみようと思います(笑)。

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