あの名店がお隣にやってきた2023年09月09日 15時24分20秒

ブログをそろそろ再開…といいながら、なかなか再開しないのですが、物事の終わりというのは、得てしてこういうものかもしれませんね。炎が徐々に細くなって、ふっと消える感じといいますか。とはいえ、一息に吹き消すつもりもないので、この駄文もまだしばらくは続きます。

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最近、心に波風が立ったこと。

以前も何回か言及した Daniel Crouch Rare Books
私はたわむれに「倉内古書店」とか、「倉内さん」とか心の中で呼んでいますが、同社はそんなふうに馴れ馴れしく呼ぶのは本来畏れ多い相手で、ロンドン・メイフェア近くの一等地に店を構え、最近はニューヨークにもオフィスを設けている、古地図・古典籍の世界では押しも押されもせぬ超一級のディーラーです。

そのクラウチ古書店が、宝の山を抱えて、今、すぐ近くまで来ていると聞きました。
9月6日から9日まで、すなわち今週の水曜日からちょうど今日まで、ソウルで開かれている「フリーズ・ソウル」というイベントにブースを設けて、同社も出展しているのだそうです。

(9月7日付けの同社のX(ツイッター)ポスト。

(クラウチ古書店の取扱商品の一部。

フリーズ・ソウルは、美術雑誌『FRIEZE』の版元であるフリーズ社が例年開催しているアートフェアの一環で、今のところロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、そしてソウルが開催地となっており、ソウルでの開催は、昨年につづき今年で2回めだそうです。

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フリーズ・ソウルには、日本のアート・ディーラーも多数参加しているので、これがただちに日本の凋落を意味するわけでもないでしょうが、何しろこういう催しは、より多くのお金が落ちるところで開かれるのが常ですから、それが今ではトーキョーではなくソウルになった…というところに、なにがしかの感慨を覚えます。ことに先日の国立科学博物館のクラウドファンディングの一件以来、文化的貧困の淵に沈む日本の行く末に思いをはせていたので、よけい心に冷たい秋風が吹くわけです。

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まあ、日本一国の運命がどうであれ、世界規模で見たときに文化が栄えるのであれば大いに結構な話で、そうくよくよするにも及ばない…とは思うんですが、でも日本の貧困化と私自身の貧困化はかなりシンクロしているので、身辺に及ぶその影響は、決して小さいものではありません。

コメント

_ S.U ― 2023年09月10日 05時37分36秒

>日本一国の運命がどうであれ、世界規模で
 どうなんでしょうね。経済半可通めいたことで申しますと、日本では、円安不安、金融不安、物価高騰で、昔から評価が安定していると言われている比較的硬派の骨董資産所有の人気が増しつつあるということはありませんでしょうか。たとえば、時計、器械、自動車、刀剣、古銭などですが、これに、地図や科学古書も加えられないかと思います。円安は日本だけかもしれませんが、こういう不安に硬派の古物で対抗の兆候があるなら、世界同時ということもあるかもしれないと思います。あまり騒ぐと相場が上がるといけないので、このくらいにしておきます。
  
 いっぽう、四百四病で、文化もすたれ、科学研究も同様・・・ というのは、日本のみならず世界どこでも同じで、日本一人憂うるには足らずとも思いますが、昨今のようにあまり極端なことをすると、新興国も出てきているので、それでも相対的に後退していくのではないかと思います。一般に、他国が下がっているなら、自分が前に出るチャンスだと思わないといけないですけどね。

_ 玉青 ― 2023年09月10日 19時48分10秒

私も業者ではないので、仔細はわかりませんが、投資目的で骨董を買うというのは、日本では最早壊滅的状況じゃないでしょうか。昔の骨董ブーム(=骨董業界の活況)は、経済的成功を収めた人が、今度は文化的威信を求めて、いっぱしの「数寄者」として茶道具やら何やらに凝って、そこに大量のお金をつぎ込んだことによって成り立っていたのでしょうが(そういう大数寄者を真似する「中数寄者」や「小数寄者」も無数にいたわけです)、今はそういう人たちが絶滅してしまったので、業界も大いに逼迫しているように見えます。今や元気なのは、旧来の骨董業者ではなく、遺品整理の買取業者だけですね。

まあ、今でも高額な骨董品はあって、数百万円の値を付けるものも目にしますけれど、ブームの頃だったら、それらには数千万円の値がついていたはずで、価値の目減りは否定のしようがありません。常識的に考えて、そういう右肩下がりの品に投資する人はいないので、ますますマーケットがシュリンクするという、今はそういうフェーズじゃないでしょうか。

まあ、これも分野によりけりで、海外でも価値を認められている、浮世絵とか、琳派とか、伊万里とか、一部の現代アートとかは、海外マーケットの下支えがあるのでいいのですが、黒ずんだ茶道具とか、日本生まれの洋画なんかは本当にドメスティックな価値しかないので、値段は低落するばかりでしょう。いずれにしても、日本経済の将来にはまったく期待が持てないので、今後は海外マーケットでの評価を、今以上に気にせざるを得ないでしょうね。

例に挙げられた古地図と科学古書ですが、古地図は絵画同様、すでに成熟した市場があり、今後も相場が大きく動くことはないでしょう。科学古書の方は相対的に価値が浮動的で、人々の興味関心によって値動きがありえますが、でも古書市場全体が海外も含めて今は苦境にあるので、一部の例外(誰でも知っているような歴史的出版物など)を除き、大勢としては右肩下がりでしょう。

もちろん長い目で見れば、今は二束三文のものが、ある日大化けする可能性もあるし、そうやって安く買い集めたものが、後に一大名品コレクションとして博物館・美術館に収まる例は多いので、あえて「逆張り」する手もなくはないと思いますが、それはもはや投機であり、博打に近いですね。火傷の危険が高いです。

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以上は「金目の話」に限定してのことです。
私のように投資とは、はなから無縁な人間にとっては、自分が良いと思える品を、自分があがなえる値段で買えればそれで十分で、それ以上のことを考えると道を誤ると自戒しています。ですから、今後の値動きを考えて、買い控えたり、買い急いだりということはないですね。ただ、それだけに今の円安は本当に苦しくて、それだけはなんとかしてほしいというのが本音です。

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ところで…なのですが、記事の再開に注力するため、しばらくコメントへのお返事を休止します。(ご覧のように、コメントへのお返事もつい長くなりがちで、記事本編よりもそちらに力が入ってしまうという本末転倒を避けるためです。)どうぞご理解の程よろしくお願いいたします。

_ S.U ― 2023年09月11日 07時03分47秒

ご説明ありがとうございます。
骨董品一般で、投資目的というのは確かに廃れていると私も思います。買った人が儲かるものではなく、遺品整理で高齢者から高齢者に移動することによって業者が存続しているのが実態らしいですね。

 私の言う硬派の骨董品としては、売ることを前提にせず、時代、人類を越えた普遍的で安定した価値のある所持品として捕らえるのが正しい(何がどう正しいのかはわかりませんが)のではないかと思います。さらに大上段に構えますと、国の通貨、債券、金融マネーといえども、昨今は現物の裏付けのないもので、せいぜい誰かからの借金くらいの裏付けしかないのに対し、古地図や科学古書は一国の科学技術の実力の歴史を示す物ですから、こちらのほうが確固とした裏付けがあると言えると思います。安定した資産と社会が認めるようになれば一石二鳥、貧乏して生活に困った時は売れば一石三鳥くらいになればいいと思います。あまり宣伝すると、やはり相場が上がりそうですので、このくらいにしておきます。

 コメントの件、了解いたしました。私のコメントは、いわば関連横ヤリですので、放置していただいて問題ございません。それでも、内容が深刻そうな相談や質問の時だけは、できればお相手いただければありがたいです^^;。

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