サツマイモの教え2024年06月16日 14時51分12秒

青い空に白い雲。
本物の夏の光があたりを満たし、気持ちがカラッとする日です。

お金のかからない夏の楽しみとして、今年はサツマイモの水栽培に挑戦しました。といって、難しいことは何もなくて、スーパーで買ってきたサツマイモをスパッと胴切りにして、水盤に活けておくだけです。


普段は下駄箱の上に飾ってありますが、たまには日光に当てようと、今日は玄関先に出しました。サツマイモの赤い肌と、浅緑の葉っぱの取り合わせも美しく、それが水の中から伸び上がっているのは、なかなか涼しげで好い風情です。

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やってみて分かったことがあります。


今回は1本のサツマイモ真っ二つにして、それぞれ水に漬けておいたのですが、芽の伸び方も根の勢いも、両者はまるで違います。向かって右のはずんずん遠慮なく伸びていますが、左側の芋は長いこと芽が出ないままで、最近になってようやく葉っぱが開きました。

サツマイモの「芋」は根っこが肥大したもので(ジャガイモは地下茎)、茎に近い部位と、根の先端に近い部位とで、その成長の仕方に異方性があります。すなわち、芋をそのまま土に埋めた場合、芽は必ず茎に近い方から出るし、ひげ根はその反対側から伸びます。

サツマイモを水栽培をするときも、その違いを見極めて、茎に近い方が上になるよう活けることが推奨されます。そうすれば、芽も根も素直に伸びて、成長も速いわけです。上の写真では右の芋がそれで、左側のは天地逆に活けたことになります。

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今回わかったのは、「天地逆でも、芋はやっぱり芽を出せる」という事実です。
芋の内部で、そのときいったい何が起きているのか? この写真だけ見ると、別に奇異なことはありませんが、この左側の芋は確かに「芽の出る側から根を伸ばし、根の出る側から芽を出す」という離れ業を演じたのです。きっと大変な苦労がそこにはあったでしょう。

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芋の適応力に驚くと同時に、これを見ると、いくぶん人間臭い連想も働きます。
この二つの芋は元々同じ芋ですから、遺伝的にはもちろんまったく同一です。それでも置かれた環境によって、これだけの差が生じました。

人が才能を開花させるのでも、その人が置かれた環境や初期条件を無視できないし、「才能さえあれば、どんな逆境でもはねのけて成功できる」とも言えません。この芋の場合は、たまたま芽が出たから良いようなものの、場合によってはこのまま立ち腐れになっていた可能性も十分あったのです。(実際、私も途中であきらめて、料理に使おうかと一時考えました。)

芋の葉っぱの向こうに、今朝見た教育とお金をめぐるニュースを想起しました。

(「銀河鉄道の夜」の話題はまた次回)

コメント

_ S.U ― 2024年06月17日 07時42分52秒

各細胞のDNAには、すべての遺伝情報が含まれている・・・
昔、初めてワトソン、クリックの発見を学習したときに、なんで生物にそんな必要があるのかと、即座に感じました。

この実験は、iPS細胞(あるいは体細胞クローン)の原理を体現したものなのでしょうか!?

_ 玉青 ― 2024年06月18日 06時04分02秒

この芋の茎がもうちょっと伸びたら、付け根から切って土に植えようと思っています。一種の挿し木です。そうすると切り口からまた根が生えてくる…ということは、芋の細胞は本来的に(どこの部位であっても)、芽にも根にも分化する能力があることになります。たぶん条件によって、一方の性質のみが発現し、他方の発現を抑制する仕組みが備わっているのでしょう。記事に挙げた「左の芋」は、そのリミッターの解除に芋自身手間取っていたのかな?と思います。まあ、挿し木に限らず、植物細胞は動物細胞よりもクローン化が容易なので、言ってみればどれもiPS細胞みたいなものかもしれませんね。

すべての細胞がすべての遺伝情報を保持していることに対して、「なぜその必要があるのか?」と問うのは、対象の目的因を問うことに他なりませんが、これは少しく回答困難な問いで(細胞に目的はありませんから)、せいぜい可能なのは「すべての生物は単細胞生物に由来し、我々の体細胞もたった1つの細胞がコピーを繰り返してできたものだから」という作用因的説明ではなかろうか…と、腕組みしながら思いました。

_ S.U ― 2024年06月18日 08時42分43秒

なるほど。
私は、単純に、芋が逆さに植えられても繁殖できるようにしていた、あるいは目的因を排除して古典ダーウィン的に言えば、その機能により自然選択された と考えたのですが、確かに、DNAがすべての細胞にあるのは、単細胞生物時代からの伝統ですから、ニワトリ卵論争の論理のように、どちらが正しいともいえないことになるのかもしれません。

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