風流高楊枝2024年07月07日 06時38分27秒

七夕ということで、風雅を気取って掛軸をかけました。


なんとなくモヤモヤとして、遠目には何が描かれているのか、さっぱりわかりません。


ここまで近づいて、はじめて文机に梶の葉、その脇に秋草と燭台が描かれていることが分かります。七夕の景物をさらっと淡彩で描いているのですが、今回しげしげと眺めて、「うーむ、これは…」と思いました。

どうも文机の足の描き方が変だし、燭台の柱も曲がっている上、台座との関係も不自然です。要するにデッサンが狂っている。それにこれは屋外ではなく、縁側の光景のはずなのに、秋草が床から直接生えているのが、いかにも奇妙。


箱書きには「八十一翁 文翠書之」とあって、谷文晁門下の榊原文翠(文政8-明治42/1824-1909)が、明治37年(1904)に描いたことになっているのですが、職業画家がこんな下手な絵を描くはずはないので、要は粗悪な偽物でしょう。

榊原文翠といっても、今ではその名を知る人も少ないでしょうから、「そんな無名の人の偽物を作って、何かメリットはあるの?」と思われるかもしれませんが、当時にあってはそれなりの画家でしたから、やっぱり贋作を作る意味と旨味はあったわけです。

   ★

そんなわけで、風流の道もなかなか険しいです。
でも贋物でもなんでも、今宵は七夕の二星に捧げものをすることこそ肝要。風流の真似とて書画を飾らば即ち風流なり、これはこれで良しとしましょう。


 天の川 初秋風の 通ふらん
  雲井の庭の 星合の影

「雲井(雲居)の庭」は、かしこき宮中の庭の意。ステロタイプな凡歌にすぎませんが、宮中の庭から牽牛・織女の星を見上げ、天の川のほとりには、今頃初秋の風が吹いているだろう…と想像するのは、たしかに涼しげではあります。

なお、詠み手の「よしため」は未詳。ひょっとしたら、これもでっちあげで、そもそもそんな人はいないのかもしれません。まこと、すべては夏の夜の夢のごとし。

コメント

_ .S.U ― 2024年07月08日 05時30分35秒

昨夜、空を見上げると視界の半分以上が曇りで、織女星だけが見えました。片方しか見ないのはげんくそが悪いと思って、数分粘ったら、牽牛も雲の切れ目から現れましたので、ほっとして部屋に戻りました。

 この時期に「初秋風」と言われると異様に思いますが、「天の川」「七夕」は秋の季語ということでよろしいのでしょう。それでも納得はいきませんが、「旧暦の7月」は初秋なのだから仕方がないということです。しかし、現代の感覚では、いくらゆずっても、秋は立秋以降ですから、やはり納得がいきません。現代の俳人は何を基準に新しい季語の季節配当を決めるのでしょうか。
 旧暦での七夕(旧7月7日)が立秋より早くなるパターンがないか調べてみたら、そういう確率は低めなものの、2022年は立秋以前に旧暦七夕があり、これは見解によって、夏とも秋ともなることがわかりました。

 それから、逆の例ですが、「夏の土用」というのが立秋の直前にあって、鰻を食べたりしますよね。「土用」も「鰻」も夏の季語ですが、土用の丑の日が(特に二の丑が)旧暦7月にはいることはしばしばあり、今年の新暦8月5日はそれにあたります。まあ、季語は文学作品中のことなので、実際の時期とずれていてもそこは修辞を優先していいのでしょう。

_ 玉青 ― 2024年07月09日 05時45分18秒

夏の土用は「立秋の前だから夏」という単純な理屈なんでしょうけれど、七夕は微妙ですね。七夕の場合は、立春、立夏…の四立の節目とは別に、1~3月を春、4~6月を夏…と3か月ずつ四季に配当する考え方に基づき、7月の行事だからすなわち秋とされて、江戸時代に歳時記が編まれた際も、それが踏襲されたというのは、仰る通りと思います。

問題は新暦採用後なんですが、俳句の世界では原則2~4月が春、5~7月が夏…ということに一応定まったので、今や七夕も夏の行事でいいはずですが、正月行事が「春」に分類されざるを得ないように、「七夕=秋」の伝統も、もはや動かせないレベルなのでしょう(戦前は月遅れや旧暦で七夕行事を営むところも多かったという事情もあると思います。)

_ S.U ― 2024年07月09日 08時45分20秒

日本の生活や行事の暦には、新暦と旧暦があり、そして中を取り持つものとして二十四節気(+雑節)があり、日本の季節に関する文化は、その「つまみ食い」になっているわけですね。「『つまみ食い』とは卑怯なりー」ですが、まあまあということで、それを含めて日本文化の知恵と滋味なのでしょう。ただ、それがどれほど卑怯か、どれほど滋味かは、天文学から文化・民俗・社会史まで動員した総合判断になって、いろいろほじくる楽しさがあるように思います。

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