虫を捕る少年へ2024年07月09日 05時47分02秒

(昨日のつづき)

地球研究室で購入したのは、吸虫管(きゅうちゅうかん)です。


昆虫採集用具のひとつで、ごく小さな虫を手でつぶさないよう、ガラス管で虫体を吸い込んで捕らえるというものです。


単純な構造ですから、身近な品で簡単に自作することもできるんですが、それでもお金を出して買ったのは、私にとって吸虫管は多分にシンボリックな品であり、実用品ではないからです。

(虫を誤って吸い込まないよう、吸い口側には目の細かい金網が付いています)

   ★

吸虫管にロマンを感じる人が世間にどれぐらいいるでしょうか?
でも、私がそこに見るのは紛れもなくロマンであり、子ども時代の憧れです。

昆虫採集に夢中だった私は、ごま塩の瓶と金魚のエアポンプ用のビニール管で吸虫管を自作し、インスタントコーヒー瓶を毒つぼ代わりに、あり合わせの発泡スチロールで展足した標本を、お菓子の平たい缶に並べて悦に入っていました。

その一方で、私はそれ専用の道具がこの世に存在し、専門店で売られていることも、本を通じて知っていました。子供でも行けるところにそうした店があれば…、そしてそれを買うお金さえあれば…。でも、私にはそうした店にアクセスする手段もお金もなかったし、親もあえてそれを買ってやろうとは言わなかったのです。

そんなことを恨めしく思うのは馬鹿らしいと思いますが、でも裕福な友達が市販の立派な道具や標本箱を持ち、夏休みに家族で採集旅行に出かけるのを横眼で見ていた、当時の自分の気持ちを考えると、何となくいじらしい気がします。

要するに、この吸虫管は、子ども時代の自分へのプレゼントなのです。
そして自分が吸虫管を買う気になったことがうれしかったのは、そればかりでなく、自分の中の昆虫少年がまだ健在だったことを確認できたからです。インナーチャイルドは吸虫管を買ってもらって喜んでいるし、インナーチャイルドが今でも元気でいることを知って、それを買い与えた大人の私もまたうれしかったのです。


コメント

_ 藤子 ― 2024年07月09日 09時33分56秒

心の中に隠れている小さな男の子が、永遠の夏休みのノスタルジーの中で、無邪気に昆虫達と触れ合い、戯れ遊んでいると良いですね🌱🦋🐞。

_ 玉青 ― 2024年07月10日 05時25分43秒

ありがとうございます。ぜひ彼にはいつまでも元気で、昆虫を追っていてほしいです。
そして、いつか彼と再びどこかで会えたらなあ…とも思います。ひょっとしたら、臨終のときがそれかもしれませんね。「ずいぶん齢をとっちゃったね」と笑う彼といっしょに入道雲の下を歩きながら、積もる話をしつつ、虫探しに興じてみたいです。

_ ofugutan ― 2024年07月13日 12時56分29秒

頷きながら読みました。
駅まで歩ける距離でもなく、電車も1時間1本の田舎の出身で、店が全然なく。本の中で目にする理科アイテムに私も憧れてました。

教育熱心な親でしたので、勝手に(笑)買われた顕微鏡は、その辺の植物やら蝶の鱗粉を採取して喜んで使ってましたし、書籍は欲しいだけ買ってもらえましたが。

なにぶん、一般的でない理科機器や標本などはどこに売ってるのか、どう入手すればいいのか情報もなく。物をねだれる性格でもなかったので。

宝飾店のある唯一のデパートにて、ガラス容器にたくさんの天然石が入ってて、ひとつ10円で売られてたんですが。宝飾店なんて大人の空間ですから、中学生のときドキドキしながら入って石を選んだのが背伸びした記憶です。

今だと海外含めてネットで調べてアクセスできるし、東京だとScience Roomみたいなショップもあって、親に何かひとつ買っていいよと言われ、目を輝かせて物色してる子どもを見ると、あたたかいようなせつないような気持ちになりますね。

私もやはり当時の理科少年なじぶんがまだじぶんの中にいることを自覚するのは嬉しい気持ちもあり、いま蒐集してるのも、インナーチャイルドを喜ばせている、当時の満たされなかったものを補完してる自覚もあります。

とはいえ、手に入らなかったから吸虫管を自作…みたいなことは、想いの凝縮された結晶ゆえの輝く記憶でもあるのかなと。

_ 玉青 ― 2024年07月14日 11時07分57秒

いやあ、ofugutanさんとは世代も少なからず異なると思いますが、それでも共感していただき、なんだか同志を得たようで嬉しいです。まあ理系グッズに限らず、どの分野でも「大人買い」というのは、買う人のインナーチャイルドを喜ばせている面はありますよね。子ども時代の私を、今の自分の部屋に招じ入れたら、どれほど目を輝かせるだろう…と想像することもあります。

記事では、理科少年だったかつての自分が、いまだ心の中で健在だと知って、大人の自分が嬉しかった…という形で文章にしましたが、逆に子供時代の自分を中心に考えると、大人になった自分が、今でも子ども時代の夢を忘れずにいてくれることが、何より嬉しいかもしれませんね(これは常連コメンテーターのS.Uさんにかつて教えていただき、深く印象に残ったことです)。きっとofugutanさんの心の奥に息づく、かつてのご自分も、今のofugutanさんの姿を知って喜んでおられることでしょうね。

いただいたコメントの最後の一文、心に沁みました。確かにあれは侘しいばかりでなく、誇らしさと輝きに満ちた、宝物のような記憶に違いありません。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック