月下の恋人2025年01月20日 19時15分43秒

月と男女を描いた絵葉書は世間に無数にあって、本気で集めだすと、それだけで一大コレクションができることでしょう。

昔から月はロマンチックなものとされているので、月影さやけき晩に男女が睦言を交わすというのがデフォルトの設定で、下のような絵葉書がたぶん本来の姿でしょう。

(1922年のイギリスの消印が押された絵葉書。ロンドン南郊SevenoaksのJ. Salmon社製。オフセット印刷)

あるいは、下のようなべたべたした絵柄とか。

(20世紀初頭のドイツ製絵葉書。エンボス加工を施した多色石版。輸出仕様なので、消印はアメリカ国内になっています)

でも、この辺はなかなか一筋縄ではいかなくて、上の絵葉書にしても、しなだれかかる男と、それを抱きとめる女という描写に、伝統的な男女の役割規範から逸脱したものを感じる方が多いと思いますが、たしかにここには、何か皮肉な意図がこめられている気配があるのです。


それは月の表情からも感じ取れて、この歯をむき出しにした月は、男女の相愛を単に微笑ましく見守っているだけではないんじゃないか…という気がします。そのことは下の絵葉書になると一層明瞭で、この顔つきは決してカップルを祝福しているそれではないですよね。

(版元不明。20世紀初頭の多色石版刷)

「Mooning」という語は、一般的にはクレヨンしんちゃんみたいに、相手をコケにするために公衆の面前でお尻を丸出しにする行為を指すらしいですが、ここではそれとは違って、「Mooning over」の意味だと思います。「Mooning over」とは、「恋しい人のことを思ってぼんやり無駄な時間を過ごすこと」の意だとネットにはありました。そして「His Ownest Own!」というのは、「ぜったいに彼だけのもの!」という意味のようです。

要するにこの二人はデレデレの極致にあるわけですが、お月様はそれを突き放すような皮肉な笑いを浮かべて眺めています。たぶん、お月様は月の下で結ばれ、月の下で破局を迎えた無数のカップルを飽きるほど見ているので、いきおいそんな表情になるのでしょう。

その辺が昨日の絵葉書の描写とつながってくるわけです。

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