船と星2022年02月26日 08時59分16秒

染付の話ばかりで何ですが、ついでなのでもう少し話を続けます。

例の鬼と星と五経の図。似たような絵柄が、皿やら碗やら、あちこちに登場するということは、あれは一種の吉祥文様として描かれ、受容されたのだろう…ということを、前回の記事のコメント欄で書きました。

日用の器に登場するのは、たいていは松竹梅のようなおめでたい絵か、あるいは前々回の「赤壁賦」のように、風雅な画題のどちらかで、そこには「佳図」の意識が明瞭です。(そこからひるがえって、あれは「鬼」ではなくて、水と実りをもたらす「雷様」じゃないか…というやりとりもさせていただきました。)

   ★

絵付けに星が登場する場合も、やっぱり縁起の良さとか、風流な景物という意味合いで描き込まれているはずで、それがやや明瞭な例を挙げます。

(径17.5cm、高さ8cm)

(底面)

時代ははっきりしませんが、幕末頃のものでしょうか。
器形としては鉢と呼ぶべき品で、見込みには旗をなびかせて堂々と進む船と、空に輝く北斗が描かれています。あまり柄杓の形には見えませんが、古図の北斗で、これぐらいの形のくずれは普通で、七星ではなく八星なのは、輔星のアルコルを加えているからでしょう。

(側面に描かれた蝙蝠。「蝠」が「福」に通じるとかで、これまた代表的な吉祥図)

北斗七星は妙見菩薩の象徴であり、北極星と共に道教的宇宙における至高の存在としてあつく崇敬されました。さらに時刻と方位を知る目印として、実生活でも重視された星です。

ということは、これは航海の無事を祈り、平穏裡に航海が成就したことを祝う絵柄だと思います。まあ、実際にこれが船乗りの家で使われる必要はなくて、「順風満帆」な「おめでたい絵」というメッセージが使い手に伝われば、作り手の意図は十分成功したことになるでしょう。

   ★

星に願いを…といえばディズニーの歌のタイトルですが、古今東西その思いは共通しています。ウクライナでも、多くの人が祈るような気持ちで星を見上げていることでしょう。そして多くの国でもそのはずです。

コメント

_ S.U ― 2022年02月27日 09時50分33秒

そういや 北斗七星を「船」の形とみる「船星」という和名もありましたね。船と柄杓は両立しそうにないのでこれらは別ものなのでしょうが、船と北斗は、形状上の連想もできたかもしれません。

 中国にも北斗七星を船の形というの見方があったかどうかは存じません。この佳図のモチーフは大陸由来なのでしょうか。

 それから、ウクライナの件ですが、御ブログの場をお借りして、ロシア政府に、事情、理由、条件のいかんを問わず、ただちに武器を収め、これ以上の人命を危険にさらすことなく、ウクライナから兵を撤収させることを求めます。

_ 玉青 ― 2022年02月27日 11時40分47秒

この船は唐船っぽいですし、「船に北斗」の絵柄自体、中国に「本歌」があった可能性は大きいですね。ついでにさっき検索したら、現代でも「船に北斗」の器は連綿と作り続けられているようで、下のようなカップを見つけました。
https://www.iichi.com/listing/item/293570
こちらは船の絵がオランダ船に置き換わっていて、染付の絵柄の変奏というのは面白いものだと思いました。

(ロシアへの非難声明、ご賛同いただきありがとうございます。何とかこれ以上の惨禍が避けられますように。)

_ S.U ― 2022年02月28日 07時14分35秒

船と北斗は中国由来なのですね。中国も宋の時代は、遠洋海運国だったので、北斗が役に立ったことでしょう。

 民間に普及する陶器や掛け軸の絵柄は、玉青さんが切り開かれつつある、中国天文学と日本天文民俗との関連をさぐる新たな切り口であると見ております。今後ともよろしくお願いします。

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