ペーパーテレスコープ ― 2023年02月04日 08時19分08秒
「月月火水木金金」という文字を目にすると、私の脳内では即座に「げぇつげぇつかーすいもくきんきーん」という歌声が、メロディつきで再生されます。あれは、「隣組」と同類の戦時国策歌謡と思ってましたが(実際そういう側面もあるのでしょうが)、元はれっきとした海軍生まれの軍歌だそうですね。
まあ、軍歌の話をしたいわけではなくて、突如仕事が立て込んだせいで、脳内であのメロディが繰り返し再生され、発狂しそうである…という、そんな話です。
そんなわけで、なかなか記事を書くのもおぼつきませんが、有り体にいって仕事よりも天文古玩の世界に遊ぶほうが楽しいので、隙間時間を見つけてやっぱり記事を書いてみます。
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最近届いた1枚のシガレットカード。
(ペンは大きさ比較用)
英国コープ社(Cope Bors & Co)の製品で、同社は1848年から1952年まで、約100年間にわたって存続したリバプールのタバコメーカーです。他のメーカーと同様、ここもシガレットカードを煙草のおまけに付けて、大いに販売促進を狙いました。
(カードの裏面)
上のカードは1925年に出た「おもちゃモデルシリーズ」の1枚で、他社のシガレットカードと差別化を図るため、切り抜いて組み立てると小さなおもちゃができるのを売りにしていました。いわばシガレットカードとグリコのおまけのハイブリッドみたいなものですね。
(eBayの商品写真より)
いろいろな屋台店とか、乗り物とか、遊具とか、カラフルで楽しいシリーズですが、今回はその中から1枚だけ望遠鏡のカードを買いました。これも線にそって切り抜いて、要所を折り曲げて、ちょちょいと糊付けすれば、可愛くてしかも立派な望遠鏡が完成します。
望遠鏡の構造としてどうなの?という細部の詮索はおいて、ここに漂う愛らしさといったらどうでしょう。そして、1920年代の子どもたちにとって、望遠鏡は夢と憧れであったことも、このカードからわかります。
たのしい惑星めぐり ― 2023年01月31日 05時39分25秒
日本生まれの天文ゲームというと、以前、「少年倶楽部」や「日本少年」の付録についてきた、奇怪な火星探検双六を載せましたが【LINK】、数としてはやっぱり少なくて、若干寂しいものを感じていました。
しかし、ようやく長年の喝を癒やすに足る品を見つけました。
銀の玉をころがしながら、惑星探検の気分を味わおうという戦前のゲームです。
ガラスのはまった木箱全体は、約24.5×18.5cmと、ほぼB5サイズの大きさ。若草色に山吹と朱のやさしい配色が優美です。
ゲームを始めるには、まず盤面の下にたまった玉を、右下の「出口」から手前に出して、
左隅に整列させます。ここからいよいよゲームスタート。(本来、玉は12個あったはずですが、現状は9個しかありません。表面は銀色でも、陶質の脆い玉ですから、たぶん遊んでいるうちに割れてしまったのでしょう。)
このゲームの目的は、1番の地球、2番の月を手始めに、無数の落とし穴を巧みによけながら、順々に惑星を「征服」していき、最終目的地である太陽(12番)を目指すことです。
各惑星の穴は銀玉よりも小さいので、そこに玉がスポッとはまるようになっています。要は先日のエルメスの星座ゲームと同様、これは「忍耐ゲーム」系の遊びです。ただ、エルメスと違うのは、そこにトラップ要素が加わっているのと、玉をはめ込む順番が予め指定されている点です。
惑星の顔ぶれは海王星で終わっていて、その先は北斗星、彗星、太陽と続きます。
かつて「第9惑星」とされた冥王星が発見されたのは1930年ですから、このゲームはそれ以前、1920年代のものでしょう。時代でいえば大正末から昭和のはじめ頃。
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このゲームには外箱も付属していて、表面の化粧紙はほとんど剥がれてしまっていますが、その断片が箱の中に残っていました。そこには「KCK」を商標とするメーカー(未詳)と、三越百貨店のラベルが貼られています。
戦前にこのゲームを三越で買ってもらえた男の子(たぶん男の子でしょう)は、結構なお坊ちゃんでしょうねえ。ある意味、今のエルメスよりもさらにセレブ感のあるアイテムかもしれません。
ここで私の脳裏には、杉浦非水(1876-1965)のポスターがぼんやり浮かんできます。
(「三越本店西館修築落成 新宿分店新築落成」、1925)
…とか、
(「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」、1927)
…とか。この手前に描かれた男の子や、その奥に見える制服制帽姿の少年なんかが、嬉々としてこういうゲームを買ってもらったんじゃないでしょうか。そして持ち主の少年は、子供の科学(1924年創刊)も購読していて、1927年9月に三越で開催された「模型の国」展覧会を訪れていたんじゃないか…というふうに、私の連想は続きます。
(「子供の科学」1927年11月号グラビア特集「誌上「模型の国」展覧会」より)
まさに往時の「山の手の少年文化」が匂い立つような一品です。
天文ゲームの世界を眺める…赤い天文カード(後編) ― 2023年01月29日 07時26分48秒
(久しぶりに青い人と赤い人が登場)
なるほどな。だけどお前さんの推理には、大事な点が抜け落ちているよ。
ああ、ビックリした。君、一体いつからそこにいるんだい?
いつからも何も、さっきからずっと声をかけているのに、大声で何かブツブツ言って、お前さんのほうが気づかなかっただけだろ。
ごめん、ごめん。ちょっとゲームの謎解きに熱中しすぎた。…で、何だい?その大事な点っていうのは?
お前さんがいうように、このゲームをトランプ代わりにするんだったら、こんなカードは最初から要らないってことさ。ふつうにトランプを使って遊んだらいいじゃないか。
ああ、そうか。まあ、確かにそうだね。
ここは作り手の立場に立って考えてみろよ。
うん、マサチューセッツのランクトン氏だね。
このカードの背後には、たしかに或る種の教育的意図がある。だとしたら、ゲームのプレーヤーは、ただカードを与えられて、数合わせや数並べをするんじゃなくて、その前に「知識を獲得した褒賞としてカードを手に入れる」というプロセスがないと、どうもうまくない。
どういうことだい?
俺の考えはこうだ。そもそも空には88もの星座がある。太陽系にだって、小惑星や彗星が無数にぐるぐる回っている。だったら、ハーフサイズなんてケチなことを言わずに、フルサイズのトランプだってできるし、そうしようと思えば、もっと大掛かりなカードセットだって作れるはずだ。
ああ、そうだね。
それをしなかったのは、ランクトンは子供でも気軽にゲームに参加できるよう、あえて枚数を26枚に抑えたのさ。先回りして言うと、ランクトンは子どもたちに、この26枚のカード情報を、そっくり記憶させたかったんだ。
で、それがどう遊びと結びつくんだい?
俺だって別に正解を知ってるわけじゃないよ。でもたとえばだ、場の中央にカードを裏返して山札を作る。
ふむふむ。
で、「親」がそこから1枚引いて、何かヒントを言うんだ。そうして、そのカードが何かを当てたプレーヤーが、それをもらえる…というふうにすれば、あとは数合わせでも数並べでも、あるいは単純にいちばんたくさんカードを取ったプレーヤーが勝ちでも、お好きなように遊べるってわけさ。
へえ、なるほど。でもさ、ヒントを出すにしても、カードにびっしり説明が書いてあるオリオンとかヴァルカンならいいけど、北極星とか北斗七星には、ほとんど何も書いてないよ?「スペース」カードなんて、これ、ヒントの出しようがあるの?
忘れちゃいけない。この手のゲームには、ルールブックが付き物だろ? この場合は、たぶん天文学の初歩を解いたテキストブック的小冊子だろう。おそらくそこに、難しいヒントから簡単なヒントまで、各カードごとにヒントの出し方が書かれてたんだと思う。
うーん、何だか都合のいい仮定のような気もするけど、でも当時ゲームって確かにそういうのが多いよね。じゃあついでに聞くけど、彗星とか日食とかの番外カードはどう使うんだい?
そりゃ単純にワイルドカードでいいさ。
★
…とかなんとか、上の二人は何となく謎を解いた気分になっていますが、まあ当たるも八卦当たらぬも八卦。それよりも、このカードがたたえている古風な天文趣味の佳趣を我々としてはまず味わうべきで、それにくらべれば、謎解き自体はオマケみたいなものかもしれません。
天文ゲームの世界を眺める…赤い天文カード(中編) ― 2023年01月28日 08時51分59秒
このカードの出版情報は、彗星カードに書かれていました。
発行は1874年。ゲームの正式なタイトルは『Game of the Universe』で、これはまあそのまんまですね。発行者は、マサチューセッツ州ウスター在住の Albert S. Lanckton なる人物。発行所として「Publishing Headquarters」(出版本部)という組織名らしきものも見えますが、その住所は私書箱扱いで、どうも私家版ないし個人出版ぽい感じです。
あまり部数も出なかったのか、私はこのカードセットを、後にも先にもこの1セットしか見たことがありません。さすがに全米ゲームコレクター協会(AGCA)の『ゲームカタログ:1950年までのアメリカのゲーム』(第8版、1998)にはちゃんと載っていましたが、でもランクトン氏が手掛けたゲームは、この「宇宙のゲーム」が唯一なので、彼は専業のゲーム業者というよりも、教育関係の人だったんじゃないかなあ…と、ぼんやり想像しています。
彗星カードもそうなんですが、たとえばオリオンのカードには、次のような一文が書かれています。
「凍てつく冬がその紺碧の空を拡げるとき、いざオリオンの巨大な姿が現れる。その黄金のベルトは目にもまばゆく、幅広の短剣は鮮やかな光を放つ。」
「彼の足元には光り輝く河〔エリダヌス〕が流れ、怒れる牡牛は間近で猛っている。彼の背後ではプロキオン〔小犬〕が吠え、シリウス〔大犬〕が唸り、さらに正面では鯨の怪物が咆哮を上げている。」
「彼の足元には光り輝く河〔エリダヌス〕が流れ、怒れる牡牛は間近で猛っている。彼の背後ではプロキオン〔小犬〕が吠え、シリウス〔大犬〕が唸り、さらに正面では鯨の怪物が咆哮を上げている。」
こうした表現からも、美文調のフレーズで天文学の知識(ここでは星座の配置)を教えようという著者の教育的配慮が、色濃く感じられます。
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手元にあるのは全部で21枚で、とりあえずカードの肩の数字の順に並べるとこんな感じです。
こうして眺めてみると、このカードには明らかに2つの系列(スート)があることがわかります。
(0~3のカード)
1つは惑星(太陽系)のシリーズで、
0・ヴァルカン(かつて水星軌道のさらに内側にあると考えられた幻の惑星)から始まって、1・月、2・水星、(3・欠)、4・金星、5・地球、(6・欠)、7・海王星、8・土星、(9・欠)、10・太陽と並んでいます。さらに番外として、彗星と日食のカードがあって、都合13枚です。
数字の並びと惑星の配列が一致しないことが気になりますが、ここに登場しない惑星は火星、木星、天王星の3つで、欠けているカードも3枚なので、数はちょうどピッタリ合います。
(4~7のカード)
もう1つは恒星(星座)のシリーズで、こちらは
(0・欠)、1・天の川(2枚重複)、2・北極星、3・北斗七星、4・くじら座、5・りゅう座、6・しし座、7・わし座、8・おとめ座、9・オリオン座、(10・欠)という並びで、番外として「スペース」というカードがあります。
ここで欠落しているのは2枚で、あえて0番の代わりに1番の天の川を2枚入れてあるとすれば(その理由は不明)、欠落カードは1枚です。たぶんこれも星座のカードでしょう。それと恒星シリーズと惑星シリーズが対になるなら、さらにもう1枚番外カードがあったはずで(「新星NOVA」とかじゃないでしょうか)、それを加えると、こちらも都合13枚になります。
(8~10と番外カード)
結局のところ、これはハーフサイズのトランプのようなもので、数合わせでも数並べでも、トランプでできる遊びなら、ババ抜きや七並べ、あるいは神経衰弱でも、ポーカーでも、たいていの遊びができそうです。
(…と推理したところで、突如「後編」に続きます)
天文ゲームの世界を眺める…赤い天文カード(前編) ― 2023年01月25日 06時21分06秒
このブログで紹介する機会は少ないですが、天文ゲームは、個人的にかなり意識して集めています。天文ゲームのコレクターが世界中にどれぐらいいるかは不明ですが、私は確実に(両足を含めて)20本の指には入っているでしょうし、ひょっとしたら10本指に入っているかもしれません。というか、集めている人は世界で10人未満じゃないでしょうか。
もちろん世間には名うてのゲーム・コレクターも多く、そういう人は天文モチーフのゲーム「も」守備範囲にしているでしょうから、私の手元の品が世界でも有数のものだ…と主張できるわけではありません(たぶん、そうした人のコレクションの方が、量的には充実していると思います)。
しかし、「天文ゲーム専門のコレクター」というニッチなフィールドを打ち立て、その限りにおいて、私は大いに鶏口牛後の気概を持っているのです。(なんだかひどく力んでいますが、こういうのは、さらに太陽系ゲームのコレクターとか、彗星ゲームのコレクター、果てはハレー彗星ゲームのコレクター…というふうに、いくらでもフィールドを細分化できますから、鶏口牛後を気取るのは簡単です。)
さて、能書きはこれぐらいにして、これまで載せてなかった天文ゲームの実物をいくつか見てみます。
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まずはカードゲームの例です。
そもそも天文モチーフのカードゲームは、古今東西なかなか数が多いです。
そこには天文学の基礎を教えるための、教育目的の需要もあったし、19世紀以降、宇宙が科学的ロマンの対象として、なんとなく「カッコいい」ものとなるにつれて、いきおいカードのデザインにも、それが採り入れられていったわけです。
下は19世紀のアメリカで生まれた、ちょっと不思議なカードゲーム。
(カードサイズは各95×66mm、だいたい普通のトランプと同じです)
このカードは謎が多いので、その謎を次回おもむろに探ってみます。
(この項つづく)
セレブな星座 ― 2023年01月19日 18時42分07秒
このところ人の褌ばかりのような気がするので、自前の品も載せます。
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いきなりですが、エルメスです。エルメスというのは、あのエルメス。
先日、生まれて初めてエルメスの製品を買いました。
これが何かというと、中身は他愛ないミニゲームです。
ただ、それが星図モチーフだったので、私の視野に入ったのでした。
英語だとpatience game、日本語だと忍耐ゲームと訳すのか、星図上に小さなくぼみが5つ作ってあって、そこに銀の小球を転がしてはめ込むという、単純だけれど結構難しいゲームです。
星図部拡大。蛇使いも獅子も大熊も、みんな向かって左を向いています。つまり地上から空を見上げた時とは左右が逆転しており、これは天球儀と同じ表現です。また円形星図の中心は、天の北極ではなくて黄極(黄道北極)になっています。
こうした構図の星図は多いので、デザイナーが直接何をお手本にしたかは分かりませんが、星座絵の感じは、ヨハン・ドッペルマイヤーが著した下の星図によく似ています。
(Johann Gabriel Doppelmayr, 「Hemisphaerium Coeli Boreale」, Homann's Heirs (Nuremberg), 1742. 出典:Altea Galleryのサイトより寸借)
そもそも、エルメスがなんでこんなゲームを作ったかは、箱の蓋の裏に書かれていました。
何でも1999年に「エルメス、星を巡る旅展1999」というイベントがあって、星座モチーフの品がいろいろ販売されたのでしょう。このゲームはその折に、オマケ的な記念グッズとしてイベント会場内で売られたものらしいです。
私はエルメスと聞いても、昔の電車男をかすかに思い出すぐらいが関の山でしたが、電車男が世に出たのが2004年で、このゲームはそれよりも古い1999年の品ですから、結構古いは古いですね。
私の忍耐心の証として、完成したカシオペヤ座も載せておきます。
ぎょちょうもく、申すか申すか ― 2022年08月13日 11時00分30秒
みんなで輪になって座り、魚・鳥・木の名前を言い合う「魚鳥木(ぎょちょうもく)」という伝承遊びがあります。考えてみれば、あれはなかなか博物趣味に富んだ遊びでした。
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ドイツのカードゲームを見ながら、そんなことを思い出しました。
外箱には愛らしいベニテングタケの絵の脇に「Naturgeschichtliches Quartett Spiel」(博物学カルテットゲーム)とあって、さらに、「美麗な多色カード。花、虫、鳥、などなど」、「印刷・発行 エルンスト・カウフマン社 バーデン州ラール市/ニューヨーク、スプルースストリート7-11」と書かれています。
カウフマン社は1816年の創業。驚くべきことに現在も盛業中です【公式サイト】。
初代はあの石版技術の発明者・ゼネフェルダーに直接学び、その後、多色石版の流行とともに事業を拡大し、ニューヨークを含む海外に出店したのは1880年のことだそうです。このカードゲームも1880~90年代のものと思います。
中身のカードは、いろいろな生物が4枚1グループになっていて、全15グループ、総計60枚のカードから成ります。
Iグループは甲虫の仲間です。絵の下に2列4行にわたって生物名が書かれていますが、一番上に書かれているのが、当該カードの生物名です。左側はドイツ語、右側はフランス語の一般名。そして残り3行が、同じグループを構成する他の生物名で、これを手がかりに「仲間集め」をするわけです。
上段からV(果樹)、VI(野菜)、VII(実のなる木)の各グループ。
同じくXII(キノコ)、XIII(野の花)、XIV(ベリー類)。
カウフマン社ご自慢の多色石版技術が光っています。
中にはちょっと不思議なグループもあって、中段(IX)の鳥の巣も突飛だし、上段(VIII)は蝶グループのようですが、左端には蛾が1匹まじっています。まあ、分類学的に両者は同じ仲間だし、ドイツ語では蝶と蛾を区別しないので、これは理解できます。でも、下段(X)の蜂グループに、トンボが1匹まじっているのは、かなり苦しいです。
このXIグループになると、毛虫、アリ、クモ、バッタと、強いて言えば「雑多な虫」でしょうが、もはやグループの体をなしていません。
まあ、ごく少数のカードで博物趣味を語るとすれば、多少正確さが犠牲になるのもやむを得ません。それよりも、こういう愛らしいカードで身近な生物に対する関心を育み、ゲームを通じて「分類」という作業に慣れ親しむのは、大いに是とすべきことで、その意気に感じます。
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以下、おまけです。
カルテットゲームは、カードをやりとりしながら、4枚1グループの「仲間」をできるだけ揃えた人が勝ちという遊びです。これまで天文モチーフのカルテットゲームを集めていた関係で、手元には既に何種類もあるのですが、実のところ、その詳細な遊び方はよく知りませんでした。この機会にそれを調べてみたので、メモ書きしておきます。
カルテットゲーム(Quartett Spiel)は、上述のように4枚1グループの「仲間」集めをすることからその名があります。でも、ゲームの性質を考えると、これは別に5枚1グループでも、6枚1グループでもよく、またグループ数も、たまたま今回のものは15グループですが、これまた任意のグループ数で差し支えないわけです。
カルテットゲームはドイツの専売特許ではなくて、英米にも、フランスにもあって、英語圏だと「ゴーフィッシュ」の名称がポピュラーで、そう聞くと、私もかすかに遊んだ記憶があります。あれは普通のトランプを使って、同じ数字のカード4枚をグループに見立てて遊ぶカルテットゲームの一種だったわけです。
あるいは「ハッピー・ファミリーズ」という、専用のカードを使って遊ぶゲームもあります。こちらは「○○家」の家族メンバーを揃えていくという遊びですが、こちらは5枚で1グループだったり、6枚で1グループだったり、いろいろバリエーションがあります。
で、私は知らなかったのですが、この「ハッピー・ファミリーズ」は日本にも古くから移入されていて、「家族合わせ」の名称で、戦前から親しまれていたそうです。その家族合わせゲームの詳細を、ネットで解説されている方がいて、そこから遡って本家のカルテットゲームの遊び方も、ようやく見当が付いた次第です。
■伝統ゲーム紹介:家族合わせ(概要)
■同:家族合わせの遊び方
(ここには3種類の遊び方が解説されています。カルテットゲームもきっと同じでしょう。)
愛鳥趣味と鳥のゲーム ― 2022年08月11日 14時56分42秒
バードウォッチングを楽しんだりする愛鳥趣味というのがあります。
手っ取り早く、ウィキペディアの「野鳥観察」の項【LINK】を参照すると、以下のように記述されています。
「趣味としての探鳥は、1889年英国王立鳥類保護協会が設立され、野鳥を捕殺したり飼育することを禁止しようということで、鳥を見て楽しむことが奨励された。20世紀に入り、欧米を中心に広がった。日本においては、昭和10年〔1935〕ごろ中西悟堂らによって提唱され現在に至る。」
まあ大枠はこういうことなのですが、さらに「英国王立鳥類保護協会(RSPB)」のサイトを見に行ったら、私がぼんやり考えていたこととは、いささか違うことが書かれていて、大いに蒙をひらかれました。
■The Royal Society for the Protection of Birds(RSPB)のサイトより
「Our history」のページトップ
「Our history」のページトップ
同協会の歴史のページには、冒頭に2人の女性の写真が掲げられています。
左の女性はEmily Williamson(1855-1936)、右の女性はEtta Lemon(”Etta”は通称。本名はMargaretta Louisa Lemon、1860-1953)で、さらにもう一人、Eliza Phillips(1823-1916)を加えた3人の女性がRSPBの創設者です。
協会が創設された1889年当時、はなやかなファッションの世界では、鳥の羽毛や鮮やかな飾り羽が大量に消費されていました。そのため、野生の鳥類、コサギやカンムリカイツブリ、ゴクラクチョウなどは実際絶滅の危機に瀕していたのです。しかも、そうした深刻な事態に対して、男性のみに門戸を開いていた英国鳥類学会は、何のアクションも起こさない―。そのことに業を煮やした末に、彼女たちは立ち上がったのです。
その動きは一時の激情にかられたものではなく、非常に息の長いものでした。
1904年には勅許を得て「王立」を名乗ることが許され、鳥類保護協会は「王立鳥類保護協会」になり、そして多年の努力が実って、「羽毛輸入(禁止)法(The Importation of Plumage (Prohibition) Act)」が議会で成立したのは、実に1921年のことでした。
ピ-ターラビットの作者、ビアトリクス・ポッター(1866-1943)は、若い頃生物学への関心が強く、特にキノコの研究では立派な業績も上げていたのに、学会が女性の参加を拒んだために、やむなく絵本作家に転じたことはよく知られています。それだけ学問の世界が女性に対して抑圧的だったわけです。その抑圧されたエネルギーが正当な出口を見出した時、いかに大きなことが成就されるか、RSPBの歴史はそのことも物語っているように思います。
そしてこの間、世界の潮流も大きく変わりました。1899年にはドイツ鳥類保護協会とオランダ鳥類保護協会が、1905年にはアメリカではオーデュボン協会が、1912年にはフランス鳥類保護連盟が誕生し、民間主導の自然保護運動は商業主義に対抗し、多くの成果を挙げたのでした。(この段落は、日本大百科全書「動物保護」の項を参照しました。)
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穏やかな愛鳥趣味の背後に目を向ければ、そこには熱い歴史があります。
下はそんな熱い時代に生まれた「鳥のゲーム(Game of Birds)」です。
(チョコレート色の箱の大きさは9.5×20.5cm)
発売元の「パーカー・ブラザース」は、1880年代創業のアメリカの老舗ゲームメーカーで、1935年にはあの「モノポリー」を手がけて大儲けしたそうです。同社が20世紀の始めに売り出したのがこの鳥のゲームで、これも当時かなり売れたらしく、今でもeBayでは普通に売られています。
このゲームが人気を博したという事実と、上のような鳥類保護の歴史を考え合わせると、この他愛ないカードゲームに対する見方もいくぶん変わる気がします。
(黄色のチップがビニール袋に入っているのは、後の持ち主の工夫です)
トランプと同様、カードは4種類のスートから成り、各スートは1~13の数字が振られています(すなわちカードは全部で52枚です)。4つのスートはAシリーズ、Bシリーズ、Cシリーズ、Dシリーズと呼ばれ、Aは「攻撃的な鳥(fighting birds)」、Bは「派手な色の鳥(birds of bright plumage)」、Cは「森や荒れ地に住む鳥(birds who haunt the woods or wilds)」、Dは「身近な鳴く鳥(our song birds)」を表しています。
(A~Cの3種のスートについて、1番から5番まで並べたところ)
ゲームは、すべてのカードをプレイヤーに配ったあと、プレイヤーが順番に「親」となって、1枚ずつ手札を場に出しながら進みます。場に出すのは、原則として「親」が出したのと同じスートのカードですが、スートA(攻撃的な鳥)はいつでも出すことができ、他にAのカードが出ていなければ、その場のカードを全取りできます(A同士だと数字の大きい方が勝ちます)。しかし、やみくもカードを取ればいいというわけではなくて、カードの中にはババ、すなわち手元にあると減点になるカードがいくつかあって、それをどのタイミングで相手に取らせるか、その辺の駆け引きがゲームを面白くしています。
(ゲームの詳細はこちら【LINK】を参照のこと。)
(2つ折り4ページのゲーム解説。左上に写っているのはカードの裏面で、すべてのカードで共通です)
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日ごろ登場しないものを簡単に紹介しようと思いましたが、他愛ないように見えても、調べ始めると、やっぱりいろいろな歴史がそこにはあって、モノがたりは尽きることがありません。
小さな星座カードのはなし ― 2021年11月08日 20時37分22秒
数年前――より正確にいうと6年前、ある星座カードのセットを買いました。
「Connais-tu les etoiles?」(君は星を知っているか?)と題したこのカードは、パリのすぐ南、ブリュノワの町にあるマルク・ヴィダル(Marc Vidal)【LINK】という、レトロ玩具(日本でいう駄菓子屋で売っているような品)の専門のメーカーが作ったものです。
買ったときは、ここがレトロ玩具専門とは知らなかったので、「今のご時世、こんな紙カードの需要があるんかいな?」と他人事ながら心配になりました。でも、だからこそ意気に感じて買わねばならない気がしたのです。それに当時は天文ゲームに熱中していた時期なので、そのヴァリエーションに加えてもいいかな…とも思いました。
外箱は8×10cm、中に入っているカードは7×9.5cmの定期券サイズです。
内容は月ごとの星空カードが12枚と、主要星座の説明カードが同じく12枚、さらに全体の解説カードが1枚の計25枚。
カードはすべて両面刷りで、星空カードは表と裏で北天と南天を描き分け、また星座カードは表裏で別星座を扱っているので、登場するのは全部で24星座です。
…と、ここまでは尋常の紹介記事です。
確かにかわいらしい品ではありますが、このカードについては、一応これで話が終わりの「はず」でした。
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しかし狭い世界を生きていると、いろいろ見聞きするもので、この「Connais-tu les etoiles?」には‘本家’があることを最近知りました。
それがこちらです。
(中央の白い輪っかは輪染み)
版元はパリのスイユ出版(Éditions du Seuil)。
同社は1935年の創業で、この品も1935~50年頃に出たものでしょう。
カードは全部で20枚の両面刷り、そこに2つ折りの索引カードが付属し、全体は薄紙のカバーに包まれています。カードの大きさは7×10cmと、新版よりもわずかに横長。
趣のあるカラー印刷は石版刷り。
内容は「星座の見つけ方」がメインで、小さなガイド星図集といったところです。(結局、本家と新版の共通点はパッケージデザインだけで、内容はそれぞれオリジナルです。)
また各星図の中に主要メシエ天体が赤刷りされているのも特徴で、メシエ天体は一部を除き肉眼では見えませんから、このカードは望遠鏡を使えるアマチュア天文家を想定読者としていたはずです。
版元のスイユ社は、人文・社会系の良心的な出版社とのことですが、こうした児童向け天文カードを手掛けた経緯は不明です。あるいは暗い時代に灯をともしたかったのでしょうか。
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地味な星座カードに、地味な「本家」があった…
まあ、えらく細かい話ですし、他人からしたら「それがどうした」という類のことでしょうけれど、自分にとってはこれも立派な発見で、かなり嬉しかったです。
火星探検双六(5) ― 2021年02月25日 08時50分04秒
(昨日のつづき)
(「10 見張」)
(「11 火星軍総動員」「12 物すごい海中城」)
火星の恐るべき科学力は、ロボット兵士を作り出すに至っています。そのロボット部隊に動員が下り、海中にそびえる軍事要塞から次々に飛来。
「13 海蛇艇の包囲」
さらに人型ロボットは、巨大な龍型ロボットを操作して、鼻息荒く主人公に襲い掛かってきます。メガホンで投降を呼びかける人型ロボットに対し、ハッチから日の丸を振って、攻撃の意思がないことを示す少年たち。
「14 なかなほり」「15 火星国の大歓迎」
至誠天に通ず。少年たちの純な心が相手を動かし、一転して和解です。
あとはひたすら歓迎の嵐。
(「16 王様に謁見」)
これが以前言及した場面です。ふたりは豪華な馬車で王宮に向かい、王様に拝謁し、うやうやしく黄金造りの太刀を献上します。(火星人はタコ型ではなく、完全に人の姿です。)
(「17 火星の市街」)
空中回廊で結ばれた超高層ビル群。この辺は地球の未来都市のイメージと同じです。
(「18 魚のお舟」)
(「19 人造音楽師」)
(「20 お別れの大宴会」)
火星の娯楽、珍味佳肴を堪能して、二人はいよいよ地球に帰還します。
(「21 上り 日本へ!日本へ!」)
嗚呼、威風堂々たる我らが日本男児。
何となく鬼が島から意気揚々と引き上げる桃太郎的なものを感じます。
それにしてもこの麒麟型の乗り物は何なんですかね?日少号は?
日少号は置き土産として、代わりに火星人に麒麟号をもらったということでしょうか。
★
今からちょうど90年前に出た1枚の双六。
ここでパーサビアランスのことを考えると、90年という時の重みに、頭が一瞬くらっとします。1世紀も経たないうちに、世の中はこうも変わるのですね。
しかも、一層驚くべきことは、この双六が出た30年後には、アメリカがアポロ計画をスタートさせ、それから10年もしないうちに、人間が月まで行ってしまったことです。
アポロの頃、この双六で遊んだ子供たちは、まだ40代、50代で社会の現役でした。当時のお父さんたちは、いったいどんな思いでアポロを見上げ、また自分の子供時代を振り返ったのでしょう?…まあ、実際は双六どころの話ではなく、その後の硝煙と機械油と空腹の記憶で、子供時代の思い出などかき消されてしまったかもですが、戦後の宇宙開発ブームを、当時の大人たちもこぞって歓呼したのは、おそらくこういう双六(に象徴される経験)の下地があったからでしょう。
(この項おわり)
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