宇宙科学戦争かるた(後編)2026年01月12日 11時23分02秒

本日は2連投です。
他愛ないカルタにあまり拘泥する必要もないと思いますが、乗りかかった船なので、ここでこのカルタの素性についてメモしておきます。

ここで問題になるのは、文字情報が極端に少なくて、いつどこで作られたものか、皆目わからないことです。


目を皿のようにしても、唯一の手掛かりは、この丸に富印(マルトミと読むのだと思います)が発行元だということのみ。発行年や、マルトミがどこにある会社かは、どこにも表示がありません。これについては、強力な検索ツールである国会図書館のデジタルコレクションも無力でした。

ただし、マルトミのカルタは、検索するといろいろ出てきます。「もうすぐ学校かるた」、「ことばあそびメロディーかるた」、「お伽噺かるた」、「日本世界ナンバーワンかるた」、「スポーツかるた」、「幼稚園かるた」、「よい子のかるた」…等々。同社はどうやら子供向けのカルタ専業のメーカーだったようです。

【2026.2.1付記】 この「マルトミ」については、タカラトミーの前身の1つである「トミー(旧・富山玩具)」の系列会社である「富山商事」がカルタも扱っており、同社のことではないか…という有力情報が寄せられました。詳細は本記事に対するSii Taaさんのコメントをご参照ください。

で、同社の製品のひとつに以下のマークを見つけました(メルカリで売られていた品の画像の一部をお借りしています)。


STマークは「Safety Toy」の頭文字から来ており、業界団体である日本玩具協会が定めた玩具安全基準に適合する品として、1971年10月からその表示が始まったものです(『レジャー年鑑 1973-1974』(エコセン、1973)参照)。

「宇宙科学戦争かるた」にその表示がないということは、それ以前の品であることを示しており、これが「宇宙科学戦争かるた」の制作下限です。

   ★

つづいて制作年代の上限を考える上で、気になる言葉をいくつか挙げてみます。


すなわち「ナパーム弾」、「大陸間(弾道)ミサイル」、「サイボーグ」。
その淵源はともかく、これらの言葉が一般の人々の口の端に上るようになった時期は、国会図書館のデジタルコレクションで初期の用例を見れば、ある程度推測がつきます。
調べてみると、ナパーム弾は1951年頃、大陸間ミサイルは1957年頃、そしてサイボーグは1960年頃から、一般向けの書籍や雑誌に登場しています。

「サイボーグ」の用例について、史料のスクリーンショットを貼っておきます。

(出典:法学書院編集部(編)『現代語辞典 : これだけは知っておきたい 1961年版』、法学書院、1960)

「サイボーグ」は、上掲書末尾の「追補Ⅱ」に記載されており、当時は文字通り出来立てほやほやの新語です。その後、急速に少年雑誌等でも目にするようになりました(サイボーグ009の連載開始は1964年だそうです)。私は不案内だったのですが、この語は当時の宇宙開発ブームの流れの中、人類が宇宙に進出する方途として語られていたようです。

このことから「宇宙科学戦争かるた」の制作上限は1960年であり、先の下限と合せて、ざっくり1960年代の品と見ていいと思います。

【おまけ】

ところで、今回、レトロな子供向けカルタについて調べていて、その残存数が極めて多いこと、しかも帯封つきの品がやたらとあることを不思議に思いました。昭和レトログッズには一定の需要があるはずですが、供給過多のせいか、この手のものは帯封付きの美品でもあまり値が付かない感じです。

その疑問は、以下の記事を拝見して氷解しました。

■(近代カルタ文化の研究 第6章 第2節)
 (1)戦後社会での「いろはかるた」の展開

なぜこれほど大量にカルタが残っているかといえば、もちろん大量に作られたからで、当時は全国の幼稚園や学校でカルタをまとめて買い上げて、子供たちにクリスマス・プレゼントやお年玉として配布していたという背景があったのでした。さらにその背後には、「カルタは毎年新しいものを買って遊ぶもの」という観念もあったようです。

私も当時の子ども文化の一端に触れたはずですが、残念ながらそうしたリアルな記憶はありません。でも、確かに凧は毎年新しいのを買っていたので、きっと同じような感覚だったのでしょう(羽子板は旧慣を守る家では今も毎年買い換えていると思います)。

カルタは、何といっても教育システムに組み込まれていましたから、その流通量は膨大で、カルタ専業メーカーという存在があり得たのもそのせいでしょう。
ただ、教育カルタなどというのはあまり面白いものではないので、配布されても手付かずのまま放置という場合も多く、それが店頭デッドストック品とともに市場に流れ、今や販売サイトには帯封付きの美品があふれている…というわけです。

コメント

_ S.U ― 2026年01月12日 18時53分36秒

興味深いカルタですね。こういう雰囲気のものは初めて見ました。軽々には判断がつきませんが、流れ上、ロケットと宇宙船だけはコメントしておきたいと思います。
・「ろ」のロケットは、液体多段式とおぼしきのがタイタンI型、尾翼付きが、パーシングを参考にしたものではないかと思いますが、よくわかりません。他のモデルを参考にしたとも考えられます。
・「う」の着陸機は、なんとなくですが、むかしルナ10号あるいはベネラ(金星)号のオービターとして公表されたのに近い気がします。ただし、実物はこんな形はしていません。また、両号とも周回機なので着陸用の足はないはずです。当時のソ連が、これに似たウソの想像図を出していたならおもしろいと思いますが、現在ネットでそれを立証することはできません。
・「お」の「サイドワインダー」は、よく知られた空対空ミサイルですが、こういう真ん中に燃料タンクをおいてクラスターとして飛行するオプションは知りません。そもそも固体なので、タンクは不要で、クラスターにするなら多段式でないと意味がないと思います。ソ連のプロトンロケットがこのアイデアに近いですが、ソ連の情報が日本に入っていたとは思えません。

 それから、ほんの私の主観のご参考ですが、1960年代の漫画に無理に対応させるなら、月刊誌連載とTVアニメで人気のあった「遊星仮面」に似たムードがあると思います。「サイボーグ」も登場したようです。でも、私は熱心な読者視聴者ではなかったので、詳細はよく覚えていません。
 「遊星仮面」の主題歌は、「戦争をやめろ」で始まり、アナクロ軍国主義ではありませんでした。また、太平洋戦争に取材したおもに戦闘機乗りを中心にした漫画が流行ったのも同時期でしたが、それらも作品が政治的に反動主義であるということはなかったように思います。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8A%E6%98%9F%E4%BB%AE%E9%9D%A2

_ S.U ― 2026年01月13日 09時30分15秒

[追記]気になったので、Web探索をちょっと続けましたが収穫無しです。
「う」の着陸機は、1970年頃の発表写真にあった既視感があるのですが、いずれにしても現実の機体でこんなものは存在しないので、当時の私の錯覚だったかもしれません。なんとなく記憶に近いのは、下の写真で、Space.comによると、これは、1965年のベネラ2号だそうです。ただし、こんな鮮明な写真は1960年代には出回っていなかったように思いますし、これがフライト機を再現しているのかも疑問です。
https://cdn.mos.cms.futurecdn.net/UzK6TtAcKsBTBvEwkURpnA-970-80.jpg.webp

 ベネラ2号に着陸用の脚や足はなく、下の円筒の枠構造は、単に物置の台だと思います。本モノの飛翔体ならここには推進系ステージが取り付けられていたはずです。

_ 玉青 ― 2026年01月21日 21時47分55秒

詳細なコメントありがとうございます。
でも今はヨレヨレなので、今回はお返事をパスします。申し訳ありません。

_ S.U ― 2026年01月22日 07時55分23秒

お仕事おつかれさまです。
私の勝手な調べからの単なる情報なので、パスで結構です。

ロケット・宇宙船・兵器からの見立てで、このかるたの発行は、1967年±3年としたいと思います。誤差は90%信頼区間くらいとしてください。

_ 玉青 ― 2026年01月23日 06時07分52秒

ありがとうございます。
描かれた絵そのものから、このカルタの生まれた時代がさらに絞り込めましたね。

_ Sii Taa ― 2026年01月30日 15時42分19秒

マルトミのマークにもしやと思い玩具メーカーの現タカタトミーの旧知の従業員だった方に聞いてみました、タカラと合併する以前はトミー、それ以前は富山玩具(とみやまがんぐ)と言う社名でした、1960年代にトミーに商号変更しましたが系列の富山商事は加工を伴わない委託生産でボードゲームやかるたを扱っていたそうです、通常かるたは出版業界で作られ本屋で販売されるのですが、おもちゃ屋で販売されていたのでしょう、STマーク導入の際の下請けへの指導を覚えています、板金のおもちゃは通常0.3ミリの鉄板で自動車のタイヤハウスの縁で指を切る事例が多くあって縁をカールさせる仕様になりました、組合に加入していたメーカーの自主規制でしたので弱小メーカー製品は野放し状態でした。

_ 玉青 ― 2026年02月01日 08時42分08秒

おお、ありがとうございます!すごいです!いくら検索しても分らなかったことが、こうして人の輪によって解決するとは!人の持つ力をまざまざと見せられた思いです。非情に貴重な情報ですので、ぜひ後の人にも伝えたく、記事本文にも記載させていただきたく思います。

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