タルホの夕べ(芦屋にて) ― 2026年06月08日 19時42分07秒
昨日は芦屋の月光百貨店で開催中の「月を賣る店」にお邪魔し、画家・装幀家の戸田勝久氏、そして歯科学のご本業の傍ら、古書と出版史を研究されている小野高裕氏の対談を拝聴してきました。お二人の話に時の経つのを忘れましたが、同時に会場を埋め尽くした人々の姿に、足穂の徒の健在ぶりを知ることができ、とても心強く思いました。
(『戸田勝久展 ― 旅の手紙』、ぎゃらりぃ思文閣、2006年)
ここで戸田氏は足穂に傾倒され、足穂にインスパイアされた作品をたくさん描かれてきたので、対談の主として特に異とするに足りませんが、一方の小野氏はというと、氏は大正モダニズムを体現する雑誌、『女性』と『苦楽』の版元であるプラトン社の研究もされていて、そこに若き日の足穂が作品を発表していたことから、当夜の対談に至ったとお聞きしました。(そしてまた戸田氏と小野氏は古くからの友人であり、ともに阪神間モダニズムの余香に親炙されてきたという地縁もあります。)
対談では、お二人が所蔵する貴重な書籍、雑誌、肉筆資料の現物を示しながら、若き日のタルホ、すなわち『一千一秒物語』に代表されるタルホの横顔が生き生きと語られました。
その中には、美しい挿絵入りで『婦人グラフ』の誌面を飾った「染料会社の塔」や、「シラノ・ド・ベルジユラツクの月世界旅行」の現物もあり、何となく白黒写真だけで知っていた人がカラー写真で突如よみがえったような驚きを味わいました。
(『足穂拾遺物語』(青土社)より。同書で両作品の解題を書かれたのも小野氏です。右下は「染料会社の塔」。青空から青の染料を作るという、一寸たむらしげるさん味のある童話。左下はご存知、シラノの月世界旅行)
(右に写っているのは、当日資料として配布された「天体嗜好症」のコピー。単行本化は1928年ですが、初出誌は前出のプラトン社の『女性』1926年4月号です)
対談を堪能したあと、私はおずおずと持参した画集をカバンから取り出し、戸田氏にちゃっかりサインをいただいた…というのが、個人的なハイライトで、いかにも厚かましい気はしましたが、めったにない機会ですので、ここは厚顔を決め込みました。
そして拙ブログをご覧になったという、コラージュ作家の山本佳世さんにお声がけいただいたことも嬉しい出来事で、こういう出会いはネット空間にとどまっていては得難いことですから、やっぱり会場に足を運んでよかったです。
かくも素敵な機会を与えていただいた、月光百貨店主の星野時環さんと、裏方で尽力された福本タダシさんにこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
★
余談ながら、この日会場に向かう前、自らに課したテーマが「阪神間モダニズム」の空気を体感することで、そのため芦屋の高台をうろうろしていました。
六麓荘あたりを見て回ると、大正~昭和戦前といわず、今でも関西のお金持ちというのは底知れぬ存在であることが、よく分ります。まあ、お金持ちは日本中にいるでしょうし、今は東京一極集中の傾向もありますが、屋敷の外構や植栽ひとつとっても、そこには自ずと文化的伝統の厚みが備わっているのを感じました。
コメント
_ Kat ― 2026年06月08日 21時55分08秒
_ 玉青 ― 2026年06月09日 06時27分18秒
こちらこそ味わい豊かなお話と眼福をどうもありがとうございました。
土地柄といい、時節柄といい、まことタルホを身近に感じるには恰好の機会でした。
頂戴したサイン、永く大切にいたします。
今後も引き続きご交誼のほど願えればと存じます。
(メールもありがとうございました。そちらへのご返信は後ほど改めて…)
土地柄といい、時節柄といい、まことタルホを身近に感じるには恰好の機会でした。
頂戴したサイン、永く大切にいたします。
今後も引き続きご交誼のほど願えればと存じます。
(メールもありがとうございました。そちらへのご返信は後ほど改めて…)
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打ち合わせも無く漫談のようなことでしたが、旧友小野さんとの初めてのふたり語りが無事に終わりホッとしています。
タルホのエキスが詰まっている「タルホの匣」の存在感は素晴らしいです。
ご参加下さりありがとうございました。