ヴンダーカンマーの遺風…カテゴリー縦覧:博物館編2015年05月07日 06時17分31秒

博物館の絵葉書を、これまでしょっちゅう取り上げたような気がしたのですが、意外にそうでもありませんでした。今日はこんな絵葉書です。


フランス北部、ベルギーとの国境に近いサントメールの町にある博物館の古絵葉書。
キャプションには、サントメール博物館(Musée de Saint-Omer)とありますが、現在の正式名称は「サンドラン賓館博物館(Musée de l’hôtel Sandelin)」といいます。

■サンドラン賓館博物館公式サイト
 http://www.musenor.com/Les-Musees/Saint-Omer-Musee-de-l-Hotel-Sandelin/

名前にホテルと付いていますが、ここはいわゆる「宿屋」ではなく、貴人が客をもてなす館として設けられた建物です。元はサントメールの領主館だったものを、18世紀後半にフランス貴族のサンドラン家が買い入れて改装し、後に博物館に転用された由。

最初の博物館は、1829年に同地の農林・考古学会(la Société d’Agriculture et d’Archéologie)が設置したもので、このときは主に動物の剥製、化石、民族学資料を展示する場でした。その後、徐々に中世遺物がコレクションに加わり、さらに1899年に市立博物館となるに及んで、サントメールの歴史資料と近世以降の美術作品の展示をメインとする<歴史資料館・兼・美術館>に生まれ変わりました。

この絵葉書は20世紀初頭、まだ同博物館がそれ以前の姿をとどめていた時期に作られたものでしょう。そのため、最初の画像のように、剥製がずらり並んでいるかと思えば、


こんないかめしい武具があったり、



中世にさかのぼる雑多な小像や器物が棚を埋め尽くしていたりで、一応分野別に整理されているものの、その全体はいかにも混沌としています。19世紀には、既にヴンダーカンマーは過去のものとなっていましたが、まだその遺風が辺りに漂っている感じです。

あるいは、近代博物館の展示原理の普及には、地域によってタイムラグがあり、パリを遠く離れたサントメールでは、依然ヴンダーカンマー的な展示を好む気風が強かった…ということでしょうか。まあ単に、小博物館の「脱抑制的勇み足」とも言えますが(日本でもありがちです)、そこにこそヴンダーカンマーの本質が端無くも露呈した…と言えなくもありません。

個人的には、こういう混沌とした雰囲気がわりと(いや、大いに)好きです。

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