ある星座掛図との嬉しい出会い、あるいは再会 ― 2022年07月17日 18時53分57秒
七夕の短冊の件は、その後難渋していて、少し寝かせてあります。
簡単なようでいて、正しい文章にしようとするとなかなか難しいです。
★
ここでちょっと話題を変えます。
天文アンティークについてなんですが、最近は思わず唸るような品に出会う機会が減っていて、寂しくもあり、いらだたしくもあり、一方で出費が抑えられてホッとする気持ちもあり。
もちろんこれは私の探し方が拙いだけで、eBayとかではない、本格的なオークションサイトや、それこそリアルオークション会場に行けば、今も日々いろいろな美品が売り立てに登場しているはずです。でも何事も身の丈に合ったふるまいが肝心ですから、分相応のところをウロウロして満足するのが、この場合正解でしょう。
この連休も、雑事の合間を縫ってネット上を徘徊していました。そして、「やっぱりこれというものはないなあ…」と独りごちてたんですが、Etsyで次の星図に行き当たり、その佇まいに思わず目をみはりました。
程よく古びのついた、美しい星座掛図です。
ドイツの売り手曰く、ドイツ東部の学校の屋根裏部屋で発見された19世紀の石版刷りの星図だそうです。
これは久々の逸品だぞ…と思いつつ、お値段がまた逸品にふさわしいもので、やっぱりいいものは高いなあと納得しましたが、この図には微妙な既視感がありました。「あれ?」と思ってよく見たら、この品は既出でした。そう、何と嬉しいことに私はすでにこの星図を持っていたのです。
■ジョバンニが見た世界…大きな星座の図(9)
しかし、すぐにそれと気づかなかったのは、同じといいながらやっぱり違うものだったからです。私の手元にあるのは、
Ferdinand Reuter(編)、
Der Nördliche Gestirnte Himmel『北天の星空』
Justus Perthes (Gotha)、1874(第4版)
Der Nördliche Gestirnte Himmel『北天の星空』
Justus Perthes (Gotha)、1874(第4版)
というものですが、今回見つけたのは、出版社は同じですが、
『Reuters Nördlicher Sternenhimmel(ロイター北天恒星図)』
とタイトルが変わっています。出版年は1883年で、おそらく改版と同時に表題を変えたのでしょう。そして変わったのはタイトルだけではありません。
(1883年版の部分拡大図。商品写真をお借りしています)
(1874年版の部分拡大図。過去記事より)
一見してわかるように、夜空の色合いも違いますし、星座表現が「星座絵」から恒星を直線で結んだ概略図に変わっています(だからパッと見、同じものと気づかなかったのです)。19世紀の後半に入り、星図の世界から星座絵が徐々に駆逐されていく流れを受けて、ロイター星図も改変を余儀なくされたのでしょう。
ロイター星図は、星図の世界ではあまり有名ではないと思いますが、私は非常に高く買っていて、それがこんなふうに変化を遂げ、19世紀末になっても学校現場で生徒たちの星ごころを育んでいたことを知って、無性にうれしくなりました。以前、ロイター星図を取り上げたのは、『銀河鉄道の夜』に登場する星図を考える文脈でしたが、この1883年版こそ、作品冒頭の「午後の授業」の場面にふさわしい品ではないでしょうか。
ちなみに現在のお値段33万3333円というのは、売り手が日本向けにアピールしているわけではなくて、原価2300ユーロがたまたま今日のレートでゾロ目になっただけです。何たる偶然かと思いますが、こうした偶然も、いかにも一期一会めいて心に響きました。
(通貨表示を切り替えたところ)
コメント
_ toshi ― 2022年07月17日 23時50分03秒
こんばんは。じつは状態はあまりよくないのですが私も持っていたのですが調べてみたら1845年版でした。現物がどこに隠れているのかわからなくなっているので第何版か確認できていません。時間があればウェブ検索してみましょう。
_ 玉青 ― 2022年07月18日 08時51分26秒
おお、toshiさんのお手元にも!
ロイター星図の初版がいつかは、これまで調べたことがないのですが、10年を目安に版を重ねていたとしたら、ちょうど1845年版がそれに当たる可能性もありますね。この大判の美しい星図は、公教育の歩みと共にかなり長期にわたって使われたものと推測しますが、そうなるとドイツ天文教育史の観点からも、重要な立ち位置を占める星図ということになり、新たな興味も湧いてきます。また何か情報が分かりましたら、ご教示いただければ幸いです。
ときに全くの別件ですが、例の星図借用の件、コロナの動向も気にはなりますが、その間隙をぬって忍者の如く参上したいと思いますので、何分よろしくお願いいたします。
ロイター星図の初版がいつかは、これまで調べたことがないのですが、10年を目安に版を重ねていたとしたら、ちょうど1845年版がそれに当たる可能性もありますね。この大判の美しい星図は、公教育の歩みと共にかなり長期にわたって使われたものと推測しますが、そうなるとドイツ天文教育史の観点からも、重要な立ち位置を占める星図ということになり、新たな興味も湧いてきます。また何か情報が分かりましたら、ご教示いただければ幸いです。
ときに全くの別件ですが、例の星図借用の件、コロナの動向も気にはなりますが、その間隙をぬって忍者の如く参上したいと思いますので、何分よろしくお願いいたします。
_ toshi ― 2022年07月18日 21時06分57秒
少し調べてみたのですが,1837か1840年が初版のようです。例えば米議会図書館所蔵の1850年版には裏紙に定価が書いてあって1 1/2ターラーで販売されていたようですがカンバス裏貼りのものは2ターラー,壁掛け用に巻いたものは余分に費用がかかっていたようですね。
_ 玉青 ― 2022年07月19日 20時47分46秒
ありがとうございます!
お気に入りの星図の素性が明らかになるのは、とても嬉しいです。
そしてわが家の1枚も裏地付きなので、ちょっぴりグレードが高いらしい…というのも、ささいなことのようですが、やっぱりちょっぴり嬉しいです。(^J^)
お気に入りの星図の素性が明らかになるのは、とても嬉しいです。
そしてわが家の1枚も裏地付きなので、ちょっぴりグレードが高いらしい…というのも、ささいなことのようですが、やっぱりちょっぴり嬉しいです。(^J^)
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