リンゴと望遠鏡2024年12月21日 07時22分13秒

もうじきクリスマスですね。

12月25日に降誕したのは、もちろんイエス・キリストですが、かのアイザック・ニュートン卿も、1642年の12月25日の生まれだそうです。もっとも、この日付はユリウス暦のそれで、グレゴリオ暦に直すと1643年1月4日だそうですが、イギリスは当時まだグレゴリオ暦の導入前で、イエス様だってグレゴリオ暦は使ってなかったのですから、まあ両者は同じ誕生日といっていいでしょう。

   ★

(名刺サイズよりちょっと大きい64×104mm)

上は1900年前後に刷られたクロモリトグラフの宣伝用広告カード。
広告主は、アメリカ東部のロードアイランド州でケータリング業(パーティ用配食サービス)を営んでいた、「L. A. Tillinghast」というお店です。

(裏面は白紙)

単にかわいい絵柄だな…と思って買ったんですが、その時の販売ページを見直したら、売り手であるバーモント州の紙モノ専門業者は、かなりこだわった紹介の仕方をしており、私も何だかひどく絵柄が気になりだしました。

 「L. A. ティリングハーストは、ケータリング業者と書かれているが、この種の宣伝カードではあまり見かけない業種だ。リンゴ(?)の左側に「ソーダ」の文字があるが、どういう意味だろう?飲み物のことを言ってるなら、アップルソーダのことか?」


1900年前後というと、1892年にアメリカでボトルの王冠が発明され、炭酸水の輸送の便が生まれたことで、ソーダ水飲料が巷で大いに流行り出したころ…という背景がありそうです。

 「もしこの絵がリンゴだとして、それが天文学といったいどう関係するのか?ひょっとして1890年代の市民の目には、この絵の意味するものが明瞭だったのかもしれないが、私の目にはもはやその意味がわからない。」

なるほど、アメリカの人にも分からないんですから、日本人の目にはいっそうわけが分かりません。

 「この天文学者の服装は、魔法使いか道化師のもの?もし彼がリンゴを眺めているのだとしたら、いったいなんのために?カードにそう書かれているわけではないが、「〔ソーダが〕何よりも大事(apple of his eye)」ということだろうか。」


最後の一文、英語には「apple of one’s eye」という言い回しがあって、”My cat is the apple of my eye.”「うちの猫は目に入れても痛くない存在だ」のように使うそうで、そういわれると確かにそんな気もしてきます。

とはいえ、リンゴと天文学者といえば、誰でもニュートンの故事を真っ先に思い浮かべるでしょうし、地球と引っぱり合う存在である天体は、いわば「巨大なリンゴ」であって、それを小さな天文学者が望遠鏡で覗いているのは、大いに理にかなっています。

でも、それがケータリングやソーダ水とどう関係するのかは、私も売り手同様さっぱり分からず、ここはやはり1890年代のアメリカ市民に聞いてみるしかないのかもしれません。

(アップルソーダならぬアップルサイダーはクリスマスに付き物。Nicole Raudonis氏のApple Cider Christmas Cocktailのレシピはこちら。画像も同ページより)

コメント

_ S.U ― 2024年12月21日 18時11分22秒

ただ単にアップルソーダを売りたかっただけなのでしょうが、天文学者は謎ですね。強いて関連付けるなら、いまや世界中にあるニュートンのリンゴの樹(の子孫)が実をつけていてその果実酒をこの頃販売していたとか・・・ でも、樹木の本数が知れていますから、それだったらもっと大々的にわかるように書きそうなものです。
 「ソーダ」というのは物質名で、「ソーダ水」というと「炭酸水」ですが、ソーダそのものは重曹のことですね。英語圏で「『ソーダ』と言えば飲み物!」という感覚になる直前の「ソーダ」というにはどういう意味と語感があったのかということが気になりますが、やはり食品添加物としての重曹(炭酸水素ナトリウム)だったのでしょうか。それが天体に発見されたことがあったのか、あるいはナトリウム原子のことか(名高いフラウンホーファーのD線)とも思いますが、そういう発見が顕著に人々に知られるとも思えず、「ソーダ水」の生産自体はそれ以前から行われているので、そういうこともないのでしょうね。ただ、単に「ソーダ水」で片付けるよりも「重曹」としたほうが天文学に結びつきやすいかもしれません。

_ 玉青 ― 2024年12月22日 06時01分38秒

S.Uさんもいろいろ考えられますね(笑)。記事の方は、面白おかしくあおり気味に書いていますが、まあそれほど深い意味はないのでしょう。

ついさっき検索したら、このTillinghast というお店は、Caterer であると同時に、Confectionerも名乗っていて、甘いお菓子の製造販売も手掛けていたようです。そこからリンゴとの縁も生まれますね。「さあさあ、いらっしゃいいらっしゃい。お菓子もソーダも大きなアップルがたっぷり!目にした瞬間、びっくりして目の玉が飛び出るよ!!」…ぐらいの感じじゃないでしょうか。(リンゴのお菓子が出回る時期に配ったカードかもしれません。)

それと、こういうとんがり帽子をかぶった、かわいい子供天文学者の像は、当時一種のキャラ化していた気配があって、ほかの宣伝カードや絵葉書等にも盛んに登場します。これも現実の天文学上の知見とは関係なく、単にロマンチックかつユーモラスなムードを醸し出す記号として消費されていたような気がします。

_ S.U ― 2024年12月22日 07時26分12秒

たぶん、これとは関係ない話と思いますが、日本では、大学の物理学科の学生を中心に「ニュートン祭」というのが行われています。古くからあるようで物理学者の石原純が歌と評論を書いています。私も学生時代に参加したことがありますし、現代でも複数の大学(確認できたのはいずれも国立大学)で行われているようです。ニュートンの誕生日を祝うものでだいたい12月に行われますが、クリスマスとは関係ないので、比較的早めの時期あるいは秋のうちに行われるものと思います。
 このカードとの関連で、これと似たような飲み会がアメリカの学生にもあるのかと思いましたが、「ニュートン祭」は日本特有の行事であって、欧米には特にないということでした。

_ 玉青 ― 2024年12月24日 06時07分16秒

おお、そういうものがあるのですね。
さっそくカチャカチャやって、その元祖らしき東大のニュートン祭のあらましを見ました。
https://event.phys.s.u-tokyo.ac.jp/physlab2024/advent-calendar/25/

創始者の名として、いきなり田中館愛橘の名が出てきて驚きましたが、実に伝統のあるお祭りのようで、楽しそうでもあるし、同時にとても懐かしい気がします。自分が学生の頃も、こういう「学聖」を祭るわけではないですが、やっぱり戦前から続く茶話会とか、研究室主催の芋煮会―これは東北特有のもの―とかの行事がありました。

こういうのは、アカデミアの擬制家族的紐帯を強化・確認する役割を果たしていた、そして現に果たしているのだと思いますが、まあ罪のない行事ですし、学問の伝統の薫香に触れる機会でもありますから、今後も長く続いてほしいと思います。

_ S.U ― 2024年12月25日 07時32分11秒

そうですね。自分がその学科に所属していて、その学科は上級生や研究員や教員がいて身近に世界につながっているということを感じることが重要だったのではないかと思います。

今日は正規の「ニュートン祭」の日なので、私のいた頃の大学では何をやったかを思い出しています(本当はもっと早い時期にやっていたと思います)。学科や研究室で思い出す活動は、
・下級生向けの研究室紹介(展示と講演)
・学年+研究室対抗ソフトボール大会など(ボウリング大会?)
・野外飲食(昼間)、模擬店屋台

くらいで、室内での飲食、忘年会、クリスマス会のようなものは記憶にありません。上の一部は「ニュートン祭」とは関係のない時にやっていたかもしれません。

_ 玉青 ― 2024年12月25日 09時39分09秒

あはは、たしかにあまりニュートンとは関係ない催しが多いですね。東大で行われた最初のニュートン祭でも、「リンゴで振り子を作って飾り付け」がニュートンを偲ばせるぐらいで、あとはニュートンもビックリの感じですね(笑)。
ともあれ今日はニュートン生誕の日であり、キリスト降誕の日ですから、謹んで聖賢を偲ぶことにいたしましょう。

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