小さな実験室(後編) ― 2021年09月13日 15時45分06秒
このかわいらしいセットは、どこにもメーカー名の記載がありません。
その顕著な「小ささ」も、子ども向きのセットだから、こんなかわいらしいサイズなのか?といえば、そうとは思えない節もあります。
たとえば、このセットにはビーカーやフラスコといった、定番の実験器具が含まれていません。また、箱の中に目を凝らすと、
中に見慣れぬ紙筒(↑中央)がまじっていて、
筒の中には比重計が入っています。
こんな渋いものを、子どもが実験で使うとは考えにくいので、このセットは実は「化学何でも実験セット」というよりは、何か特定の用途や、特定の使用者を想定した品かもしれません。比重計は品質管理目的で工業分野で使われることが多いと思いますが、このセットが持ち運びを重視している点からすると、あるいは水質検査とか、そういった方面でしょうか。
まあ正体は知れませんが、その透明な表情は、まさに理科室趣味の友と呼ぶに足ります。
★
この品は用途だけでなく、年代も曖昧です。この品はこれまで1回も使用された形跡がなくて、あるいはデッドストック品かもしれません。ですから、何となく新しく見えるのですが、おそらくは1960年代ごろのものかなと、漠然と想像しています。
セットに含まれる品のうち、素性が明らかなモノを挙げると、まず試験管は(株)ギヤマン製。同社は1923年の創業で、現在も営業中ですが、同社のトップページ(https://giyaman.co.jp/)には、下のような告知があって、今やガラス器具類は、徐々に廃番化しつつあるようです(勝手に切り貼りして恐縮ですが、業界の現状を物語るものとしてお借りします)。
(「最後のジェダイ」を名乗る老職人の笑顔に、隠しきれない寂しさを感じます)
また、緑の箱に入った濾紙は東洋濾紙(株)製。ここは1917年創業、1933年に会社組織となり、現在も営業中の会社です。今は「ADVANTEC」のブランドロゴを使用しているそうで、その名はたしかに聞き覚えがあります。この新しいロゴマークの使用は1984年からだそうですから、一応この1984年が年代の下限です。
そして赤と青のリトマス紙は、東京の日本橋本町にあった「KONISHI SUGIURA SEISAKUJO」(小西杉浦製作所か)の製品ですが、この会社は今のところ手掛かりなし。たぶん既に廃業したのでしょう。その時期が分かれば、このセットの年代をもう少ししぼれそうです。
★
理科室の棚を、いやそれ以上に理科室そのものを連想させる、この小さな実験セット。
(画像再掲)
こうして改めて見ると、理科室のひな人形のようでもありますね。
桃の節句は季節外れですが、9月もまた菊の節句(9月9日)に合わせて「後の雛(のちのひな)」というのを飾る風習があるそうですから、アルコールランプのぼんぼりに灯りをともして、試薬瓶のお内裏様や五人囃子を眺めるのも、理科室の風雅を慕う者として、悪くない過ごし方でしょう…と、昨日に続いて、強引に記事を結びます。
コメント
_ S.U ― 2021年09月14日 11時18分30秒
_ 玉青 ― 2021年09月14日 18時27分26秒
おや、私は逆に水質検査がそんなにポピュラーなテーマになっていることを知りませんでした。
でも、水質検査には個人的な記憶があります。小学生の頃、「アクアラボ」という実験セット(たぶん学研製です)が我が家にあって、近くの神田川の水を、長い紐を付けた空き缶でくみ上げては、定期的に水質検査(という名前の理科遊び)をしていました。メインはpH検査で、大抵は中性でしたが、1度だけpH4が出たことがあって嬉しかった覚えがあります。水質が悪くて喜ぶというのは変なのですが、そこは小学生ですから、変わった結果であるほど満足を覚えたのでしょう。今思えば、その日に限ってなぜそんな特異データが出たのか、公害で世情騒がしかった頃ですし、周囲の大人たちの注意を喚起して然るべきでしたが、そこまでの知恵はありませんでした。
ちなみに手元の実験セットが、本当に水質検査用かは甚だ心もとないです。はたして水質検査でアルコールランプを使うのかどうかも判然としません。
でも、水質検査には個人的な記憶があります。小学生の頃、「アクアラボ」という実験セット(たぶん学研製です)が我が家にあって、近くの神田川の水を、長い紐を付けた空き缶でくみ上げては、定期的に水質検査(という名前の理科遊び)をしていました。メインはpH検査で、大抵は中性でしたが、1度だけpH4が出たことがあって嬉しかった覚えがあります。水質が悪くて喜ぶというのは変なのですが、そこは小学生ですから、変わった結果であるほど満足を覚えたのでしょう。今思えば、その日に限ってなぜそんな特異データが出たのか、公害で世情騒がしかった頃ですし、周囲の大人たちの注意を喚起して然るべきでしたが、そこまでの知恵はありませんでした。
ちなみに手元の実験セットが、本当に水質検査用かは甚だ心もとないです。はたして水質検査でアルコールランプを使うのかどうかも判然としません。
_ S.U ― 2021年09月15日 11時40分49秒
やはり、「水質検査」なされましたか。
私としては、都会の少年少女がたしなむスマートな研究というイメージです。東京でも、さすがにそんなに「異状」は出ないわけですね。
アルコールランプは何に使うのでしょうね。蒸発皿とかヨウ素液とか付いていたら、無機物やデンプンの検出に使えるのかもしれません。
私としては、都会の少年少女がたしなむスマートな研究というイメージです。東京でも、さすがにそんなに「異状」は出ないわけですね。
アルコールランプは何に使うのでしょうね。蒸発皿とかヨウ素液とか付いていたら、無機物やデンプンの検出に使えるのかもしれません。
_ 図版研 ― 2021年11月07日 21時15分12秒
難儀なご事情でしばらくご投稿が停まっておられたようでしたが、その後どうなさったかしらん、と最近久々に拝見しました。「通常営業」に復されたとのこと、何よりです。どうぞご自愛の上、引き続きお続けくださいますよう。
ところでご掲載の「実験セット」、理科少年の夢をぶち毀すようでいささか気が退けますが、これは多分尿検査の道具ではないかと……比重計が含まれていましたので、医療検査用では、と思い当たった次第です。
明治末のものですが、医療器械カタログに似たような箱が載っていました。
https://www.flickr.com/photos/lab_for_retro_illust_japan/51661038411/in/dateposted-public/
https://www.flickr.com/photos/lab_for_retro_illust_japan/51661266573/in/dateposted-public/
なお測定範囲をお調べになれば、何を図る浮標かおわかりになるかとおもいます。
https://www.andokeiki.co.jp/hizyuukei/hizyuukeitop.html
ご参考までに。
ところでご掲載の「実験セット」、理科少年の夢をぶち毀すようでいささか気が退けますが、これは多分尿検査の道具ではないかと……比重計が含まれていましたので、医療検査用では、と思い当たった次第です。
明治末のものですが、医療器械カタログに似たような箱が載っていました。
https://www.flickr.com/photos/lab_for_retro_illust_japan/51661038411/in/dateposted-public/
https://www.flickr.com/photos/lab_for_retro_illust_japan/51661266573/in/dateposted-public/
なお測定範囲をお調べになれば、何を図る浮標かおわかりになるかとおもいます。
https://www.andokeiki.co.jp/hizyuukei/hizyuukeitop.html
ご参考までに。
_ 玉青 ― 2021年11月08日 06時43分25秒
やや、これは!!!
的確なご教示をありがとうございます。それにしても、この結末は予想だにしていませんでした。上の記事中、自分は「この品はこれまで1回も使用された形跡がなく」云々と書きましたが、使用の形跡がなくて本当に良かったと、心底ホッとしたことを、ここに告白しておきます(笑)。そして「理科室のひな人形」とまで書いた手前、この件はここだけの秘密にしておきましょう。(なお、ご教示に従って浮標の目盛りを確認したことは言うまでもありません。その目盛りは1.000から1.050まで0.002間隔と非常に精密なもので、さらに尸部4画の漢字がそこに明記されていたことを申し添えます。)
的確なご教示をありがとうございます。それにしても、この結末は予想だにしていませんでした。上の記事中、自分は「この品はこれまで1回も使用された形跡がなく」云々と書きましたが、使用の形跡がなくて本当に良かったと、心底ホッとしたことを、ここに告白しておきます(笑)。そして「理科室のひな人形」とまで書いた手前、この件はここだけの秘密にしておきましょう。(なお、ご教示に従って浮標の目盛りを確認したことは言うまでもありません。その目盛りは1.000から1.050まで0.002間隔と非常に精密なもので、さらに尸部4画の漢字がそこに明記されていたことを申し添えます。)
_ 図版研 ― 2021年11月08日 08時29分35秒
早速ご覧くださりありがとうございます。
いや全くとんだお雛様、未使用品で幸いでした(笑)。ご丁寧なご報告、感謝いたします。
いや全くとんだお雛様、未使用品で幸いでした(笑)。ご丁寧なご報告、感謝いたします。
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そういえば、「水質検査」というのは、小中学生の夏休みの自由研究として、優等生的常番ではないでしょうか。私が子どもの頃からそうだったかというと、これは私に興味がなかったのか、住んでいるところのメリットがなかったのか、記憶にありません。なんとなくですが、1980年代以降は現在に至るまで常番だと思います。学研の科学など学習雑誌の付録とかみればわかると思います。
ご紹介の実験器具セットはもっと古いのでしょうが、その先駆的なものといえるのでしょうか。公害が問題になる以前から、魚の飼育など需要はそれなりにあったと思います。