ルネサンスが生んだ美麗な天文書2023年01月15日 12時39分10秒

昨日、いつもの天文学史のメーリングリストに、素敵な情報が寄せられました。
それはコペルニクスの同時代人、ペトルス・アピアヌス(1495-1552)が1540年に上梓した『Astronomicum Caesareum (皇帝天文学)』を紹介するページにリンクを張っており、リンク先はニューヨークのメトロポリタン・ミュージアム(MET)のサイトの一部になります。



『皇帝天文学』は、アピアヌスが神聖ローマ皇帝・カール5世(在位1519-1556)に捧げた「天文仕掛け絵本」といった体のもので、その造本は美麗の一語に尽きます。
この本については、以前も英国王立天文学会の所蔵本を紹介した動画を載せましたが【LINK】、そちらはわずか1分半のショートフィルムだったのに対し、今回の動画は6分間と、一層見応えがあります。


こういうのを見ると、当時の天文界に華やぎをもたらしたのは、天文学者本人ではなく、そのパトロンたちだったことがよく分かります。

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ちなみに、MET曰く本書の現存数は約40部。

METが所蔵する本は、1925年にHerbert N. Straus(1881-1933)という資産家から寄贈されたもので、ハーバートのお父さん、Isidor Straus(1845-1912)は、メイシーズ百貨店を経営した富豪であり、愛する妻とともにタイタニック号の事故で亡くなったと聞くと、ストラウス家の人には申し訳ないですが、実にドラマチックな感じがします。と同時に、400年の時を越えて、学問をもり立てるパトロンが健在であることも印象深く、現代の富豪たちも、あんまりエゲツナイことばかりせずに、ぜひ生きたお金の使い方をしてほしいものだと思います。

(イシドール・ストラウスは、男性である自分が女性や子供を差し置いて救命ボートに乗るわけにはいかないと乗船を拒否し、妻だけボートに乗るよう説得したのですが、妻も夫と離れることを拒んで、二人して海に没したそうです。その高潔な人柄がしのばれます。)

「天文古玩とは何か?」― 識者に聞く2023年01月17日 20時13分39秒

不易あれば流行あり。
ChatGPTがネットで話題のようなので、私も流行に触れてみました。ChatGPTというのは、AIによる対話シミュレーターというか、要はSiriの親玉みたいなものです。ログインすると、何の準備も不要ですぐ使えるのが便利なところで、さっそく知りたいことを尋ねてみました(クリックで拡大)。


うーむ、なかなか巧みに答えますね。ただ、AIは「天文古玩」を「天文アンティーク」と同義ととらえているようだったので、ちょっとそのことも聞いてみます。

私: 天文古玩と天文アンティークとは同じ意味ですか?それとも違う意味ですか?

ChatGPT: 「天文古玩」と「天文アンティーク」は、どちらも古い天文学に関連した道具や機器などを指します。天文古玩は、古い天文学に関連した道具や機器を収集、評価することを楽しむ人たちが使う言葉です。天文アンティークは、古い天文学に関連した道具や機器を指して、古美術商などが使う言葉です。

ただし、「天文古玩」と「天文アンティーク」は、概念上は同じ意味ですが、使用する場面や目的によっては、意味合いが異なることもあるかもしれません。そのため、「天文古玩」は、天文学者や天文史学者などの専門家によって使用されることが多いですが、「天文アンティーク」は、古美術商や古物商などが使うことが多いです。

意味が通っているような、通ってないような、そこはかとなく「ああ言えばこう言う」感はありますが、巧みといえば巧みです。
しかもAIは言葉巧みなだけでなく、なかなか物知りでもあります。

私: 天文古玩についての学術論文を教えてください。

ChatGPT: 天文古玩に関する学術論文は多数存在します。特に、歴史的な天文器具や書物についての研究は、天文学史や技術史の研究において重要な役割を担っています。以下に幾つかの例を挙げますが、これらはあくまで一例であり、専門家によってはさらに多くの論文があるかもしれません。

"The History of the Telescope" by Henry C. King (1955)
"Astronomical instruments of the Islamic world" by David A. King (2010)
"A History of Astronomical Instruments" by J.A. Bennett (2003)
"Astronomy in the Low Countries" by J.A. Bennett (2008)
"The history of astronomical observing instruments" by Giorgio Strano (2018)

これらの論文は、大学や研究所のライブラリーで利用することができるか、学術雑誌のオンライン版で閲覧できるかもしれません。また、天文古玩に関する研究は、天文学や歴史学などのさまざまな分野で行われているため、それぞれの分野の学会や学術誌でも論文が発表されていることがあります。

なるほど。ただし、ここには重大な落とし穴があって、ChatGPTが教えてくれる著書・論文には大量の嘘が混じっていると言われます。上に挙がっている本はどれももっともらしいですが、どうやら2番目以降はデタラメっぽいです。

最後に大切なことを聞きます。


どうもはぐらかされているような気がするし、彼は平気で嘘もつきますが、私の知りたいことに対して、少なくとも私の家族よりは、はるかにうまく答えることができます。「なるほどなあ…」と感心しつつ、ここまでくると、「あたかも自我があるようにふるまう対話シミュレーター」を作ることも、意外に簡単かもしれず、子供の頃に想像した未来は、すぐ足元に来ている感じがします。

(楳図かずおの『漂流教室』に出てくる「物言うコンピューター」)

セレブな星座2023年01月19日 18時42分07秒

このところ人の褌ばかりのような気がするので、自前の品も載せます。

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いきなりですが、エルメスです。エルメスというのは、あのエルメス。
先日、生まれて初めてエルメスの製品を買いました。


これが何かというと、中身は他愛ないミニゲームです。


ただ、それが星図モチーフだったので、私の視野に入ったのでした。
英語だとpatience game、日本語だと忍耐ゲームと訳すのか、星図上に小さなくぼみが5つ作ってあって、そこに銀の小球を転がしてはめ込むという、単純だけれど結構難しいゲームです。


星図部拡大。蛇使いも獅子も大熊も、みんな向かって左を向いています。つまり地上から空を見上げた時とは左右が逆転しており、これは天球儀と同じ表現です。また円形星図の中心は、天の北極ではなくて黄極(黄道北極)になっています。

こうした構図の星図は多いので、デザイナーが直接何をお手本にしたかは分かりませんが、星座絵の感じは、ヨハン・ドッペルマイヤーが著した下の星図によく似ています。

(Johann Gabriel Doppelmayr, 「Hemisphaerium Coeli Boreale」, Homann's Heirs (Nuremberg), 1742. 出典:Altea Galleryのサイトより寸借)

そもそも、エルメスがなんでこんなゲームを作ったかは、箱の蓋の裏に書かれていました。


何でも1999年に「エルメス、星を巡る旅展1999」というイベントがあって、星座モチーフの品がいろいろ販売されたのでしょう。このゲームはその折に、オマケ的な記念グッズとしてイベント会場内で売られたものらしいです。

私はエルメスと聞いても、昔の電車男をかすかに思い出すぐらいが関の山でしたが、電車男が世に出たのが2004年で、このゲームはそれよりも古い1999年の品ですから、結構古いは古いですね。


私の忍耐心の証として、完成したカシオペヤ座も載せておきます。

突如、工作人(ホモ・ファーベル)たらんとす2023年01月22日 16時54分20秒

この前、星座のゲームのことを話題にして以来、私の中でむくむくと動くものがありました。それはずいぶん前から私の中に潜在していたのですが、要するにある天文ゲームをなんとかして手に入れたいという願望です。

ただ、いろいろ調べてもそれは遠い過去に廃絶しており、古物も含めて、市販品は一切なさそうでした。ですから、それを手にするには自分で作るしかなく、そのため昨日と今日はせっせと頭と手を動かしていました。

その結果については、モノが完成してからまた話題にしようと思います。

ただ、ここで先回りして予防線を張っておくと、私は手先が不器用で、しかも最近は目も悪くなっているので、その仕上がりについては、小学生の工作以上のものではありません。しかし当のゲームそのものについては、このブログに書き付ける価値が十分あるので、もっぱらその方向で期待していただければと思います。

(Photo by Ekrulila

天文ゲームの世界を眺める…赤い天文カード(前編)2023年01月25日 06時21分06秒

このブログで紹介する機会は少ないですが、天文ゲームは、個人的にかなり意識して集めています。天文ゲームのコレクターが世界中にどれぐらいいるかは不明ですが、私は確実に(両足を含めて)20本の指には入っているでしょうし、ひょっとしたら10本指に入っているかもしれません。というか、集めている人は世界で10人未満じゃないでしょうか。

もちろん世間には名うてのゲーム・コレクターも多く、そういう人は天文モチーフのゲーム「も」守備範囲にしているでしょうから、私の手元の品が世界でも有数のものだ…と主張できるわけではありません(たぶん、そうした人のコレクションの方が、量的には充実していると思います)。

しかし、「天文ゲーム専門のコレクター」というニッチなフィールドを打ち立て、その限りにおいて、私は大いに鶏口牛後の気概を持っているのです。(なんだかひどく力んでいますが、こういうのは、さらに太陽系ゲームのコレクターとか、彗星ゲームのコレクター、果てはハレー彗星ゲームのコレクター…というふうに、いくらでもフィールドを細分化できますから、鶏口牛後を気取るのは簡単です。)

さて、能書きはこれぐらいにして、これまで載せてなかった天文ゲームの実物をいくつか見てみます。

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まずはカードゲームの例です。
そもそも天文モチーフのカードゲームは、古今東西なかなか数が多いです。
そこには天文学の基礎を教えるための、教育目的の需要もあったし、19世紀以降、宇宙が科学的ロマンの対象として、なんとなく「カッコいい」ものとなるにつれて、いきおいカードのデザインにも、それが採り入れられていったわけです。

下は19世紀のアメリカで生まれた、ちょっと不思議なカードゲーム。

(カードサイズは各95×66mm、だいたい普通のトランプと同じです)

このカードは謎が多いので、その謎を次回おもむろに探ってみます。

(この項つづく)

天文ゲームの世界を眺める…赤い天文カード(中編)2023年01月28日 08時51分59秒

このカードの出版情報は、彗星カードに書かれていました。


発行は1874年。ゲームの正式なタイトルは『Game of the Universe』で、これはまあそのまんまですね。発行者は、マサチューセッツ州ウスター在住の Albert S. Lanckton なる人物。発行所として「Publishing Headquarters」(出版本部)という組織名らしきものも見えますが、その住所は私書箱扱いで、どうも私家版ないし個人出版ぽい感じです。

あまり部数も出なかったのか、私はこのカードセットを、後にも先にもこの1セットしか見たことがありません。さすがに全米ゲームコレクター協会(AGCA)の『ゲームカタログ:1950年までのアメリカのゲーム』(第8版、1998)にはちゃんと載っていましたが、でもランクトン氏が手掛けたゲームは、この「宇宙のゲーム」が唯一なので、彼は専業のゲーム業者というよりも、教育関係の人だったんじゃないかなあ…と、ぼんやり想像しています。


彗星カードもそうなんですが、たとえばオリオンのカードには、次のような一文が書かれています。

「凍てつく冬がその紺碧の空を拡げるとき、いざオリオンの巨大な姿が現れる。その黄金のベルトは目にもまばゆく、幅広の短剣は鮮やかな光を放つ。」
「彼の足元には光り輝く河〔エリダヌス〕が流れ、怒れる牡牛は間近で猛っている。彼の背後ではプロキオン〔小犬〕が吠え、シリウス〔大犬〕が唸り、さらに正面では鯨の怪物が咆哮を上げている。」

こうした表現からも、美文調のフレーズで天文学の知識(ここでは星座の配置)を教えようという著者の教育的配慮が、色濃く感じられます。

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手元にあるのは全部で21枚で、とりあえずカードの肩の数字の順に並べるとこんな感じです。


こうして眺めてみると、このカードには明らかに2つの系列(スート)があることがわかります。

(0~3のカード)

1つは惑星(太陽系)のシリーズで、
0・ヴァルカン(かつて水星軌道のさらに内側にあると考えられた幻の惑星)から始まって、1・月2・水星(3・欠)4・金星5・地球(6・欠)7・海王星8・土星(9・欠)10・太陽と並んでいます。さらに番外として、彗星日食のカードがあって、都合13枚です。

数字の並びと惑星の配列が一致しないことが気になりますが、ここに登場しない惑星は火星、木星、天王星の3つで、欠けているカードも3枚なので、数はちょうどピッタリ合います。

(4~7のカード)

もう1つは恒星(星座)のシリーズで、こちらは
(0・欠)1・天の川(2枚重複)、2・北極星3・北斗七星4・くじら座5・りゅう座6・しし座7・わし座8・おとめ座9・オリオン座(10・欠)という並びで、番外として「スペース」というカードがあります。

ここで欠落しているのは2枚で、あえて0番の代わりに1番の天の川を2枚入れてあるとすれば(その理由は不明)、欠落カードは1枚です。たぶんこれも星座のカードでしょう。それと恒星シリーズと惑星シリーズが対になるなら、さらにもう1枚番外カードがあったはずで(「新星NOVA」とかじゃないでしょうか)、それを加えると、こちらも都合13枚になります。

(8~10と番外カード)

結局のところ、これはハーフサイズのトランプのようなもので、数合わせでも数並べでも、トランプでできる遊びなら、ババ抜きや七並べ、あるいは神経衰弱でも、ポーカーでも、たいていの遊びができそうです。

(…と推理したところで、突如「後編」に続きます)

天文ゲームの世界を眺める…赤い天文カード(後編)2023年01月29日 07時26分48秒

(久しぶりに青い人赤い人が登場)

なるほどな。だけどお前さんの推理には、大事な点が抜け落ちているよ。

ああ、ビックリした。君、一体いつからそこにいるんだい?

いつからも何も、さっきからずっと声をかけているのに、大声で何かブツブツ言って、お前さんのほうが気づかなかっただけだろ。

ごめん、ごめん。ちょっとゲームの謎解きに熱中しすぎた。…で、何だい?その大事な点っていうのは?

お前さんがいうように、このゲームをトランプ代わりにするんだったら、こんなカードは最初から要らないってことさ。ふつうにトランプを使って遊んだらいいじゃないか。

ああ、そうか。まあ、確かにそうだね。

ここは作り手の立場に立って考えてみろよ。

うん、マサチューセッツのランクトン氏だね。

このカードの背後には、たしかに或る種の教育的意図がある。だとしたら、ゲームのプレーヤーは、ただカードを与えられて、数合わせや数並べをするんじゃなくて、その前に「知識を獲得した褒賞としてカードを手に入れる」というプロセスがないと、どうもうまくない。

どういうことだい?

俺の考えはこうだ。そもそも空には88もの星座がある。太陽系にだって、小惑星や彗星が無数にぐるぐる回っている。だったら、ハーフサイズなんてケチなことを言わずに、フルサイズのトランプだってできるし、そうしようと思えば、もっと大掛かりなカードセットだって作れるはずだ。

ああ、そうだね。

それをしなかったのは、ランクトンは子供でも気軽にゲームに参加できるよう、あえて枚数を26枚に抑えたのさ。先回りして言うと、ランクトンは子どもたちに、この26枚のカード情報を、そっくり記憶させたかったんだ。

で、それがどう遊びと結びつくんだい?

俺だって別に正解を知ってるわけじゃないよ。でもたとえばだ、場の中央にカードを裏返して山札を作る。

ふむふむ。

で、「親」がそこから1枚引いて、何かヒントを言うんだ。そうして、そのカードが何かを当てたプレーヤーが、それをもらえる…というふうにすれば、あとは数合わせでも数並べでも、あるいは単純にいちばんたくさんカードを取ったプレーヤーが勝ちでも、お好きなように遊べるってわけさ。

へえ、なるほど。でもさ、ヒントを出すにしても、カードにびっしり説明が書いてあるオリオンとかヴァルカンならいいけど、北極星とか北斗七星には、ほとんど何も書いてないよ?「スペース」カードなんて、これ、ヒントの出しようがあるの?


忘れちゃいけない。この手のゲームには、ルールブックが付き物だろ? この場合は、たぶん天文学の初歩を解いたテキストブック的小冊子だろう。おそらくそこに、難しいヒントから簡単なヒントまで、各カードごとにヒントの出し方が書かれてたんだと思う。

うーん、何だか都合のいい仮定のような気もするけど、でも当時ゲームって確かにそういうのが多いよね。じゃあついでに聞くけど、彗星とか日食とかの番外カードはどう使うんだい?

そりゃ単純にワイルドカードでいいさ。

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…とかなんとか、上の二人は何となく謎を解いた気分になっていますが、まあ当たるも八卦当たらぬも八卦。それよりも、このカードがたたえている古風な天文趣味の佳趣を我々としてはまず味わうべきで、それにくらべれば、謎解き自体はオマケみたいなものかもしれません。


たのしい惑星めぐり2023年01月31日 05時39分25秒

日本生まれの天文ゲームというと、以前、「少年倶楽部」や「日本少年」の付録についてきた、奇怪な火星探検双六を載せましたが【LINK】、数としてはやっぱり少なくて、若干寂しいものを感じていました。

しかし、ようやく長年の喝を癒やすに足る品を見つけました。


銀の玉をころがしながら、惑星探検の気分を味わおうという戦前のゲームです。
ガラスのはまった木箱全体は、約24.5×18.5cmと、ほぼB5サイズの大きさ。若草色に山吹と朱のやさしい配色が優美です。


ゲームを始めるには、まず盤面の下にたまった玉を、右下の「出口」から手前に出して、


左隅に整列させます。ここからいよいよゲームスタート。(本来、玉は12個あったはずですが、現状は9個しかありません。表面は銀色でも、陶質の脆い玉ですから、たぶん遊んでいるうちに割れてしまったのでしょう。)


このゲームの目的は、1番の地球、2番の月を手始めに、無数の落とし穴を巧みによけながら、順々に惑星を「征服」していき、最終目的地である太陽(12番)を目指すことです。


各惑星の穴は銀玉よりも小さいので、そこに玉がスポッとはまるようになっています。要は先日のエルメスの星座ゲームと同様、これは「忍耐ゲーム」系の遊びです。ただ、エルメスと違うのは、そこにトラップ要素が加わっているのと、玉をはめ込む順番が予め指定されている点です。


惑星の顔ぶれは海王星で終わっていて、その先は北斗星、彗星、太陽と続きます。
かつて「第9惑星」とされた冥王星が発見されたのは1930年ですから、このゲームはそれ以前、1920年代のものでしょう。時代でいえば大正末から昭和のはじめ頃。

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このゲームには外箱も付属していて、表面の化粧紙はほとんど剥がれてしまっていますが、その断片が箱の中に残っていました。そこには「KCK」を商標とするメーカー(未詳)と、三越百貨店のラベルが貼られています。

戦前にこのゲームを三越で買ってもらえた男の子(たぶん男の子でしょう)は、結構なお坊ちゃんでしょうねえ。ある意味、今のエルメスよりもさらにセレブ感のあるアイテムかもしれません。

ここで私の脳裏には、杉浦非水(1876-1965)のポスターがぼんやり浮かんできます。

(「三越本店西館修築落成 新宿分店新築落成」、1925)

…とか、

(「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」、1927)

…とか。この手前に描かれた男の子や、その奥に見える制服制帽姿の少年なんかが、嬉々としてこういうゲームを買ってもらったんじゃないでしょうか。そして持ち主の少年は、子供の科学(1924年創刊)も購読していて、1927年9月に三越で開催された「模型の国」展覧会を訪れていたんじゃないか…というふうに、私の連想は続きます。

(「子供の科学」1927年11月号グラビア特集「誌上「模型の国」展覧会」より)

まさに往時の「山の手の少年文化」が匂い立つような一品です。