聖夜の星 ― 2023年12月24日 14時05分40秒
1920年頃のガラススライド。
ごらんのように周囲の保護フレームは厚紙製で、フレームを含む全体は8.3×10cmあります。
厚紙に空押しされた文字は、「VICTOR ANIMATOGRAPH CO.」。
こういうスライド形式は、ビクター・アニマトグラフ社(1910年創業)の専売で、一般に「ビクター・フェザーウェイト・スライド」と呼ばれます。他社のガラススライドは全体がガラス製で、しかも2枚のガラス板を貼り合わせているため、重くかさばったのに対し、「フェザーウェイト」は一回り小さいガラス板を、しかも1枚しか使っていないため、非常に軽いという特徴があります(通常はスライドの感光面を、別のガラス板で保護しているわけですが、「フェザーウェイト」では、代わりにシェラック(カイガラムシ由来の樹脂状物質)が塗布されています)。
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くだくだしい説明はさておき、その絵柄を見てみます。
画題は「ベツレヘムの星」。
幼子イエスが誕生した時、ベツレヘムの町の上空に明るい星が出現し、それを奇瑞と見た東方の三博士が、イエスとマリアの元を訪ね礼拝した…という聖書由来のお話です。
こちらはベツレヘムの星をかたどったブローチ。
以前、メルキュール骨董店さんに教えられ、私もぜひ一つ手元に置きたいと思って新たに購入しました。
ベツレヘムの星のブローチのデザインは多様ですが、いずれも真珠母貝(マザーオブパール)を細かく削り出して作られています。イエス・キリストが真珠なら、その母貝は聖母マリアの象徴だ…という連想も働いているかもしれません。手元の品は、星の周囲を天使が取り巻いているように見えます。
ベツレヘムの星のブローチは、善男善女向けのベツレヘム土産として、今も盛んに作られていると聞きました。
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ベツレヘムの星は、たしかに救い主誕生の瑞祥かもしれませんが、「新たなユダヤの王」の出現を恐れたヘロデ王が、2歳以下の男児を皆殺しにするという、血なまぐさい「幼児虐殺」のエピソードにもつながっています。
10月以降、ガザでは多くの子どもたちが命を落とし、それは今も続いています。
ガザの惨状に心をいためて、ヨルダン川西岸地区に位置するベツレヘムでは、今年のクリスマス行事を中止したと聞きました。
はたして救い主は今どこにいるのか。
エリ、エリ、レマ、サバクタニ…
コメント
_ S.U ― 2023年12月27日 07時12分53秒
_ 玉青 ― 2023年12月28日 16時13分08秒
酒を飲んでも何の解決にもなりませんが、それでも飲まずにはおれないような出来事が多くて、本当に心にも身体にも良くないです。よく「真・善・美」と並べますけれど、「真」と「善美」は相容れないことも多く、今ありありと目にしている「人間の真実」なんぞちっとも善くも美しくもないですね。でも、善美ならざる真から目を背けず、それを凝視し続けることが、人間にとっては必要だし、その先にやはり真善美の世界があるのだと信じるしかないのでしょう。
さて、最新号のお知らせをありがとうございました。
早速記事を拝見しました。これは確かに気になる問題ですね。記事を拝読し、古代ローマ時代がこの問題の諸々の節目になっているようで、そのローマの遺制がキリスト教世界にも引き継がれた…というふうに理解しました。
月のサブサイクルに7日間を設定すると、4週間=28日=1ヶ月になって、太陰暦社会では好都合で、太陰太陽暦を使ったとされる古代ギリシャでも応用が効いたことでしょう。しかし、太陽暦を採用したローマ社会にそれを持ち込むと、ひどく使い勝手が悪いですよね。それでもあえてそれを用いたのは、ローマ人にとってギリシャ由来の文化的規範がそれだけ強固だったということでしょうか。
さらに、7日サイクルと絡めて「七曜」を持ち出すあたり、現代のマナー講師みたいに、昔の占星術師が自らの権威付けのために吹聴して回ったのかなあと思いますが、この点でもプトレマイオスを生んだ古代ローマの匂いみたいなものを感じます。
さて、最新号のお知らせをありがとうございました。
早速記事を拝見しました。これは確かに気になる問題ですね。記事を拝読し、古代ローマ時代がこの問題の諸々の節目になっているようで、そのローマの遺制がキリスト教世界にも引き継がれた…というふうに理解しました。
月のサブサイクルに7日間を設定すると、4週間=28日=1ヶ月になって、太陰暦社会では好都合で、太陰太陽暦を使ったとされる古代ギリシャでも応用が効いたことでしょう。しかし、太陽暦を採用したローマ社会にそれを持ち込むと、ひどく使い勝手が悪いですよね。それでもあえてそれを用いたのは、ローマ人にとってギリシャ由来の文化的規範がそれだけ強固だったということでしょうか。
さらに、7日サイクルと絡めて「七曜」を持ち出すあたり、現代のマナー講師みたいに、昔の占星術師が自らの権威付けのために吹聴して回ったのかなあと思いますが、この点でもプトレマイオスを生んだ古代ローマの匂いみたいなものを感じます。
_ S.U ― 2023年12月29日 06時56分44秒
我らが会誌をご覧下さりありがとうございます。
曜日のような現代の生活に密着しているものが複雑な起源を持ち、その解明も容易でないとは意外と言えば意外ですし、複雑な故に捨て去れずに維持されているのかもしれません。
ローマの遺制とキリスト教の関係はおっしゃるとおりで、イースターの規則にしても、春分はローマ、満月はユダヤの雰囲気です。日曜日についても、仕事を休むのはユダヤ、教会に神父の話を聞きに行くのはローマだったのではないでしょうか。パウロがもともとローマ市民権を持つユダヤ教徒からの転向者であったそうで、そのような人々が首都ローマ近辺でも一定数活動していたのかもしれません。そういう人たちは、答えを知っているのかもしれませんが、今後、この起源の解明に役に立ちそうな情報が見つかれば追求して下さいますようよろしくお願いします。
曜日のような現代の生活に密着しているものが複雑な起源を持ち、その解明も容易でないとは意外と言えば意外ですし、複雑な故に捨て去れずに維持されているのかもしれません。
ローマの遺制とキリスト教の関係はおっしゃるとおりで、イースターの規則にしても、春分はローマ、満月はユダヤの雰囲気です。日曜日についても、仕事を休むのはユダヤ、教会に神父の話を聞きに行くのはローマだったのではないでしょうか。パウロがもともとローマ市民権を持つユダヤ教徒からの転向者であったそうで、そのような人々が首都ローマ近辺でも一定数活動していたのかもしれません。そういう人たちは、答えを知っているのかもしれませんが、今後、この起源の解明に役に立ちそうな情報が見つかれば追求して下さいますようよろしくお願いします。
_ 玉青 ― 2023年12月30日 10時31分24秒
本当に日々日常のことなのに、そこには天文学と占星術の長い歴史が顔を覗かせていますね。自らの歴史性を噛みしめるためにも、曜日のルーツ探し、これからもぜひ話題にしていきましょう。
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今日、我らが天文同好会の同好会誌の新号を発行しました。上記のURLからご覧いただけましたら幸いです。本当にたまたまの偶然ですが、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」の日の暦学的天文学的考証の論考を載せています。