虹のかけら(4)…七色講演会(後編)2014年02月11日 16時12分42秒

それでは通し番号の順にスライドを見ていきます。
「オッホン。さあて紳士淑女の皆さま方…」と、礼服を着こんだ男が、身振り手振りおかしく、舞台で熱弁をふるっている様を想像しながらご覧いただければと思います。

<シーン52>


空に大きな虹がかかっている絵です。おそらく虹の話題の導入となったスライドでしょう。

「さてさて、かような虹を皆さま方もご覧になったことがおありでしょう。
まこと美しき七色の橋。あの橋を渡って、ともに幸せの国に至らんと、若き日の思いのたけをぶつけたお相手が今お隣にいらっしゃる方は重畳。さなくとも、夢と憧れをいざなう、あの不思議な光の帯の正体を、皆さまはしかとご存じでしょうか?」

<シーン53>


上のシーンに続けて、プリズムの原理を説くスライドです。一転してお堅い科学談義に入ります。

「さあさあ、とくとごろうじろ。これぞ虹の七色の秘密。かのアイザック・ニュートン卿が見出した偉大なるプリズムの実験でござい。

右手より斜めに射しくる日の光、これが透明な硝子にぶつかって、ずんとそのまま突き抜ければ、何の不思議もございませんが、事実はさにあらず。硝子にぶつかった際に一度、さらに硝子より逃れ出る際にもう一度、このように光は二度までも折れ曲がり、これを光の屈折と申します。

しかも不思議なことに、この曲がり方は光の色によって異なり、赤はゆるく、紫はきつく、その他の色もめいめいてんでに曲がるのです。ために各色入り混じって、色目も定かならぬ日の光が、かように美しい七色の帯に変ずることと相成り、学者先生はこれを光のスペクトルと称します。

大空にかかる虹もまた、光のスペクトルに他ならぬのでございます。」

<シーン54>

手元では欠番になっていますが、もちろんオリジナルのセットには含まれていたはず。
内容は上のプリズムの実験を敷衍して、大気中に浮かぶ水滴がプリズムと同じ働きをすることを説明する図だったと想像します。おそらく、水滴による光の屈折と反射の様を拡大して描いた絵柄でしょう。

<シーン55>


地上の観察者が二重虹を見ている図です。
各高度の水滴が、上から「紫―赤―赤―紫」の光を目に届けている様を図示したもの。下側の主虹は、水滴内で1回反射(+2回屈折)、上の副虹は2回反射(+2回屈折)の光路を描いていることまで、細密に描かれています。

「慧眼の皆さまなれば、虹ができる仕組みは、ここまでのところで十分お分かりいただけたことと存じます。さらに、その鋭い眼を空に向ければ、折々、かような二重の虹をご覧になることもおありでしょう。水の粒に差し込む光は、ときに一度のみならず、二度までも粒のうちで反射して、薄い虹を生み出すことがあるのです。」

   ★

…とまあ、適当に書きましたが、何となくこんな雰囲気ではなかったでしょうか。
こうしたスライド講演会は、予備知識を持たぬ一般の聴衆を相手にしたもので、口舌に優れた演者は、人気エンターテナーのような扱いを受けたとか。なかなか興味深い都市風俗です。


コメント

_ S.U ― 2014年02月12日 08時23分09秒

パチパチパチ(拍手)・・・ ほぉ、うまいものですね。
 幻燈はスチールなので「活弁」とは言わないのでしょうが、何と言ったのでしょうかね。

 市販の紙芝居には、読み上げ用原稿が(ひとつ前の)絵パネルの裏に印刷してありましたが、こういう教育普及用のスライドもそういうセリフの原稿をつけて売っていたものなのでしょうか。昔も玉青さんほどの名弁士はそうザラにはいなかったと思うのでちょっと気になりました。

_ 玉青 ― 2014年02月12日 21時25分27秒

いやあ、過分のお言葉、恐縮に存じます。
当時メーカーから市販されていたスライドには、簡単な解説ぐらいは付いていたかもしれませんが、基本的には各弁士が独自の工夫を凝らして演じていたんじゃないでしょうか。そこに他と差別化を図り、弁士として生計を立てる余地があったのだと思います。

_ S.U ― 2014年02月13日 20時21分35秒

>弁士として生計を立てる余地

 そうですね。「弁士」とか「門付け」で生計が立てられたというのはある意味よい時代だったと思います。

 現代では「サイエンスコミュニケーター」という分野が開発されましたが、単身でお客を集めてとなると、これもなかなか並みの才能では難しいのではないかと思います。

_ 玉青 ― 2014年02月13日 21時13分51秒

要は需要がどうかということでしょうが、昔は娯楽も少なかったですし、結構実入りはあったみたいですね。その意味では今の方がシビアかも。見る方の目も肥えていますしね。

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