ワーナー・アンド・スウェイジー、夢の跡(後編)2024年04月19日 05時28分10秒

この写真集には、天文機器の写真とならんで、天文台の外観写真が何枚も載っています(全36枚の図版のうち10枚がそうした写真です)。


たとえば、ニューヨークのダドリー天文台。まさに「星の館」にふさわしい外観で、憧れを誘います。ワーナー社はここに12インチ(すなわち口径30cm)望遠鏡を提供しました。


同社の12インチ望遠鏡というと、これぐらいのスケール感。


ちょっと毛色の変わったところでは、中東シリアの首都ベイルートに立つ「シリア・プロテスタント大学」の天文台なんていうのもあります(ここはその後、無宗派の「ベイルート・アメリカン大学」となり、天文台も現存)。ここに納入したのも12インチ望遠鏡でした。


何度か名前の出たワシントンの米国海軍天文台
ワーナー社とは縁が深かったようで、ここには26インチ(約66cm)大望遠鏡をはじめ、6インチ子午環、5インチ経緯儀、さらに46フィートドーム(差し渡し14m)や26フィートドーム(同8m)といった多くの備品を供給しています。


上の写真の左端に写っている建物のアップ。
26インチ大望遠鏡はここに据え付けられました。望遠鏡以外に、昇降床やドームもワーナー社製です。


その内部に鎮座する26インチ望遠鏡の勇姿。ヤーキス天文台の40インチ望遠鏡にはくらぶべくもありませんが、それでも堂々たるものです。


海軍天文台の白亜の建物を設計したのは、著名な建築家のハント(Richard Morris Hunt 、1827—1895)で、ここは彼の最晩年の作品になりますが、そのハントの名は本書にもう1か所登場します。


それが冒頭、第1図版に登場するこの愛らしい天文台です(写真の左下にハ
ントの名が見えます)。


「ワーナー、スウェイジー両氏の個人天文台」


この小さな塔の上の


小さなドームの中で、ふたりはどんな夢を追ったのか?
巨大なドームにひそむモンスター望遠鏡ももちろん魅力的ですが、この小さな天文台をいつくしみ、写真集の巻頭に据えたワーナーとスウェイジーの心根に私は打たれます。かのハントに設計を依頼したのも、二人がここをそれだけ大切に思ったからでしょう。立派な中年男性をつかまえて可憐というのも妙ですが、その優しい心根はやっぱり可憐だし、優美だと思います。

(この項おわり)

コメント

_ Linf ― 2024年04月19日 08時33分59秒

WikipediaのWarner & Swasey Companでは、同社の五十周年記念誌から以下のように引用しています。

The company's 50th-anniversary book[9] describes the firm's giant-telescope-building work as unprofitable overall but a labor of technological love.

_ 玉青 ― 2024年04月20日 06時10分33秒

ワーナー社の望遠鏡製作は、金銭ではなく、純粋な技術的愛情にもとづくものだった―。これは好い話ですねえ。そしてまた、そこには「星への愛情け」も大きくあずかっていたことでしょう。

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