古賀恒星図2022年03月28日 21時19分22秒

春は別れと出会いの季節。
これまでのいろいろなことを思い出して、感傷にふけることが多いです。
何と言っても寂しいものは寂しいし、悲しいものは悲しいので、自然と湧き上がる感情に逆らうことはしませんけれど、そうやって感傷にふけりながらも、地球のあちこちで起きていることを考えると、少なからず居心地が悪いです。自分のセンチメンタリズムを自嘲することはないにしても、「いい気なもんだなあ…」とは思います。

   ★

ときに、前回の記事に出てきた「古賀恒星図」
とっくに紹介済みのような気がして、過去記事を探したんですが、どうやら初登場のようでした。

(サイズは54.5×89cm。地紙が厚く、巻き癖がついているため、止むを得ず畳の上で重石をして広げました。)

■古賀恒星図
 大正11年(1922)1月10日発行
 発行所 京都帝国大学天文台内 天文同好会
       代表者 山本一清 編者 古賀和吉
 発売所 丸善株式会社 定価 1円50銭

(凡例)

星図の価値はその正確さと情報量によって決まるのでしょうが、古賀星図の場合は、ぜひその色合いの美しさも評価対象に加えてほしいです。薄茶色の地色に浅緑の星図が映えて、その美しさは、以前言及したフランスの小粋な星図にも劣らぬものがあります。

(部分拡大)

(同)

さらにまた旧字体で書かれた古風な星座名の床しさ。自然な曲線を描く星座境界。
こういう風情を愛でるのが、素の天文趣味とは一寸位相の異なる「天文古玩趣味」なのだろうと思います。

   ★

編者の古賀和吉は、「天文同好会大阪支部幹事」と星図に書かれています。星図と共にその名が知られるわりに経歴のはっきりしない人ですが、前掲の『日本アマチュア天文史』の索引を見ると、その名は3ヵ所に出てきます。

(p.10) 1922年、天文同好会出版部の発行した「古賀恒星図」は大阪支部幹事の古賀和吉の苦心の作を山本一清が監修したもので、価格は1円50銭、簡易星図の方は4等星以上の恒星が記載された一枚刷の星図で、価格10銭。その後長く多くのアマチュア天文家に愛用された。

(p.15) 〔天文同好会〕大阪支部 1920年12月発足、支部長古賀和吉(最初の星図製作者) 現在まで存続

(p.18) 「天界」Vol.10(1930)No.10に「同好会十名名物男」なる記事がある。当時活躍した人達の個性を知る上で面白い資料としてここに転載する。
○五藤斉三氏 望遠鏡で金をもうけ同好会に献身する人。東京支部長。
○池田政晴氏 太陽観測で眼を焼き、同好会の財布の主となる。植物学者。
○改発香塢氏 実業家から哲学者となり天文写真の重鎮となる。
古賀和吉氏 同好会の九州探題、星図の主、三味線の名手。
〔以下略〕

三味線の名手という以外、やっぱりよく分からないのですが、大阪で活躍した草創期のアマチュア天文家として、山本一清会長の信頼厚き方だったようです。

コメント

_ S.U ― 2022年03月29日 16時48分47秒

古賀星図、初めて知りました。

 何となく、古風な奥ゆかしさを感じる1つの理由は、天の北極、南極に接する、これらの歳差による移動曲線が描かれているからではないでしょうか。これは、バイエルの『ウラノメトリア』に引かれているので、それが刷り込みになっているのかもしれません。他のどの星図にあるのか調べたことはありませんが、新しい星図にはあまりないように思います。
 
 古賀星図でのこの線の和名は、何というのでしょうか? 拡大してみましたが、「南極○△線」? ちょっと読めません。よろしくお願いします。

_ 玉青 ― 2022年03月31日 21時24分13秒

例によってこまやかな観察をありがとうございます。
これも「天文古玩の神は細部に宿りたもう」例かもしれませんね。
さっそく確認したところ、件の文字は「南極(北極)異動線」でした。
その語の響きがまた素敵です。

_ S.U ― 2022年04月01日 10時26分43秒

>「南極(北極)異動線」
 このような曲線は、只今の夜空に天体を探索する上ではまったく必要がないものですが、星図として、この星図の赤経赤緯線は未来永劫のものではなく、時代とともにこの星図の大枠の枠組すら変わってゆくのだぞ、ということを教えてくれているのですね。こういう線を引くことは、ひとつの学問の懐の広さというか学問の余裕を物語っているように思います。細部ですが、重要なことだと思います。

 「移動」ではなく「異動」ですか。お調べありがとうございます。
 春は別れと出会いの季節~4月1日に奇しくもふさわしいです。

_ 玉青 ― 2022年04月03日 18時23分02秒

そういえば、古賀星図は今年でちょうど100歳なんですね。
この一本の線が、100年後の人にかくまで評価されようとは、古賀氏も予想しなかったでしょうが、S.Uさんの言葉を聞けば、泉下の古賀氏も星図作者冥利に尽きることでしょう。(ちなみに、その名称は「移動線」のタイプミスではなく、「異動線」で間違いありません。)

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