月と鳥 ― 2026年02月02日 19時22分38秒
昨日の月と燕のブローチを見て、個人的に連想するものがあります。
(全長18.5cm)
江戸~明治の「月にホトトギス」のかんざし。
★
今もそうかもしれませんが、特に近代以前の西洋絵画は、象徴的表現(砂時計は有限の生、牧者はキリストを表す等)を多用するので、図像にこめられた意味を読み解くイコノロジーという学問も生まれました。
日本美術にも象徴的表現はあるでしょうが(松は長寿、蓮は仏を表す等)、それよりも文芸的伝統の中にある画題が一層優勢の気がします。
このかんざしも、百人一首に採られた「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただありあけの 月ぞのこれる」の古歌をなぞって、風雅な趣を出しているだけのことでしょう。それは何か別のものを「象徴」しているわけではなく、月は月だし、ホトトギスはやっぱりホトトギスに過ぎません。こういう例ははなはだ多いです。日本では美術・工芸作品もまた本歌取りの伝統の中にある…ということかもしれません。
ですから、日英両国の「月と鳥」の装飾品の類似は、あくまでも表面上のものということになります。
★
しかし…と、ここで私の思考は横すべりします。
そもそもなぜ古歌の作者(後徳大寺左大臣)は、月とホトトギスの配合に心を寄せたのか?
考えてみると、日本の伝統画題には「月に雁」もあります。あるいは「月に千鳥」や「月に鶴」というのもあります。月と鳥をいろいろ結び付けて、そこに興を覚えるというのは、やっぱりそこに何かあるのではないか?
鳥は地面に舞い降り、また飛び立って空を翔ける存在です。
そして月は無限の天上界にあって、いちばん地上に近い異世界。
地上に縛り付けられた人間が、天上世界へのあこがれを表現するとき、それを一番託しやすかったのが鳥と月ではなかったか…ということを、ちらっと考えました。
この辺になると西洋も東洋もなく、カルチャーバウンドな象徴が生まれる以前の、人間精神の古層に横たわるアーキタイプ(原型)ではなかろうか…と、いかにも思い入れたっぷりに書いていますが、まあこれは駄法螺の類で、駄法螺というのは、吹く方はなかなか楽しいものです。
コメント
_ S.U ― 2026年02月03日 07時33分38秒
日本のシンボリズムでいうと、三日月とか新月とかというのは、ちょっと新奇なように感じます。月は満月が基本でしょう。三日月や新月は、なにか各論的な文学の動機があるのではないでしょうか。和歌のいわれのある「月とホトトギス」は、花札の四月の十文札になっていますので、何かポピュラーな意味がこめられていたのかもしれません。
_ 玉青 ― 2026年02月04日 17時55分34秒
たしかにこの月とホトトギスは花札の絵柄のそれにそっくりですね。
となると、古歌とかんざしをいきなり結び付けるのではなく、その間に花札を介在させる方が御説のとおり理にかなっているかもしれません。慰みごとの験担ぎとか、何か粋筋の意味合いかもしれませんね。記事の方で他の類例を眺めながら、ちょっと考えてみることにします。
ときに業務連絡ですが、協会関係で少々ご相談したいことがあり、またメールさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
となると、古歌とかんざしをいきなり結び付けるのではなく、その間に花札を介在させる方が御説のとおり理にかなっているかもしれません。慰みごとの験担ぎとか、何か粋筋の意味合いかもしれませんね。記事の方で他の類例を眺めながら、ちょっと考えてみることにします。
ときに業務連絡ですが、協会関係で少々ご相談したいことがあり、またメールさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
_ S.U ― 2026年02月05日 07時27分44秒
花札に取材した「月とホトトギス」のデザインのモノがあるなら、それには賭博師の何らかの心理、たとえば極論すれば、移ろいゆくものに運命を賭けて最後は血を吐くこともある・・・とかそういう意味もあるのかもしれません。どうも感覚がこのところ金銭即物打算的になって申し訳ありません。
協会関連のメールを拝見しました。今年もあと2週間くらいで定例の報告を作る必要がありますので、合わせて考えたいと思います。また、ご返事申し上げますが、関連した業務リスト等のご腹案をお願いします。
協会関連のメールを拝見しました。今年もあと2週間くらいで定例の報告を作る必要がありますので、合わせて考えたいと思います。また、ご返事申し上げますが、関連した業務リスト等のご腹案をお願いします。
_ YukiSnowy ― 2026年02月05日 08時11分55秒
「日本では美術・工芸作品もまた本歌取りの伝統の中」という考察がとても面白いです!
それにしても美しいかんざしですね。鳥も月も好きなので惹かれます。
それにしても美しいかんざしですね。鳥も月も好きなので惹かれます。
_ 玉青 ― 2026年02月06日 05時55分29秒
○S.Uさま
あはは、一本の簪を前に雅俗とりまぜていろいろな連想が働きますね。
今日の記事で取り上げた簪を見ると、やっぱりここに花札の影響があるのは確かな気がします。と同時に、百人一首は庶民層にも身近でしたから、古歌も依然影響しているはずで、その辺が本歌取りの妙味なのでしょう。
協会用務の件、お手数をおかけしますが、何分よろしくお願いいたします。
○YukiSnowyさま
お目に留めていただきありがとうございます。月とホトトギスの簪は、昨日・今日とその作例を載せましたが、この作品はシャープな造形と銀一色であるところが、とりわけクールな印象で、大いに気に入っています。
あはは、一本の簪を前に雅俗とりまぜていろいろな連想が働きますね。
今日の記事で取り上げた簪を見ると、やっぱりここに花札の影響があるのは確かな気がします。と同時に、百人一首は庶民層にも身近でしたから、古歌も依然影響しているはずで、その辺が本歌取りの妙味なのでしょう。
協会用務の件、お手数をおかけしますが、何分よろしくお願いいたします。
○YukiSnowyさま
お目に留めていただきありがとうございます。月とホトトギスの簪は、昨日・今日とその作例を載せましたが、この作品はシャープな造形と銀一色であるところが、とりわけクールな印象で、大いに気に入っています。



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