Paper Comet2026年02月14日 11時39分08秒

このところ、「普通の天文の話題」が少なかったですね。
先日、こういうものを見つけました。

(左右幅は約20cm)

前回のハレー彗星接近(1985~6)を見込んで販売された、彗星の軌道模型です。

(裏側から見た状態)

厚紙を抜いた小型の円形のパーツと大型の山形パーツを組み合わせてあります。


売り出されたのは1982年、販売者はカリフォルニアのDavid Chandler

この名前には聞き覚えがあります。以前、ステレオ画で恒星宇宙を俯瞰する立体星図を話題にしたとき、1977年にチャンドラー氏が出した『DEEP SPACE 3-D』という作品を紹介したことがあります。

3-D宇宙…『DEEP SPACE 3-D』(1977)

(上記ページより画像再掲)

どうやらチャンドラーさんは、いろいろな天文教具を工夫するのが好きだったようですね。この『COMET HALLEY 1985-1986』も、ハレー彗星の動きを、人々によりリアルに感じてもらうための工夫のようです。


ただし、裏面から見た画像↑に見える切れ込みには、本来何か別のパーツがはめ込まれていたはずで、手元の品はそれを欠いています。たぶん、ひとつは全体を支える<架台パーツ>で、もうひとつは円形パーツ(地球軌道)と山形パーツ(彗星軌道)を一定の角度に保つ<傾斜角保持パーツ>でしょう。

   ★

ハレー彗星の公転軌道は、地球の公転軌道と同一平面上にはなく、両者の軌道面は一定の角度でクロスしています。その角度(軌道傾斜角)は約162度。

傾斜角0度の天体は、地球と同一平面上を、同一方向に公転しています(傾斜角は公転方向も考慮して決めます)。これが傾斜角180度になると、その公転面はやっぱり地球軌道と同一平面上にあるわけですが、上下がくるッとひっくり返って、公転の向きが地球と反対向きになります。同様に傾斜角162度の場合は、傾斜角18度と一見同じに見えますが、公転方向が地球と反対向きになります。


したがって、厚紙で18度の角度を作り、


下からあてがってやれば、太陽・地球・彗星の位置関係がリアルに再現されるわけです(公転方向は、地球と彗星とで最初から反対向きに印刷されています)。


あとは、1985年8月から1986年7月までの1年間、外周上のドットで表現された地球の位置と、同時期の彗星の位置(彗星の方は予想される尾の長さも表現されています)を見比べながら、両者の出会いと別れを脳内で再現し、この76年ぶりの天体ショーを楽しめば良いわけです。

   ★

もちろん、今ならCGでその動きは簡単にシミュレートできるでしょう。
でも、これは自前の脳で再現するから、一層深い理解が得られるような気もするし、第一、紙とハサミと鉛筆で同じことができるなら、その方がスマートじゃないでしょうか。

なんとなくアインシュタインの奥さんの有名なエピソードを思い出します。(夫と共にウィルソン山天文台を訪問した際、彼女は担当者から「我々はこの巨大な望遠鏡を使って、宇宙の構造を調べているのです」と聞かされ、「あら、うちの主人は同じことを古封筒の裏と鉛筆一本でやってますわ」と答えたとかいう逸話です。ただし、この話は真偽不明だとか。)

コメント

_ S.U ― 2026年02月15日 15時39分56秒

この軌道模型、妙に既視感があり、この立体の形自体まで記憶そのままで、どこかの雑誌に付録にこれと同様のものがついていたのかなと思い出そうとしたのですが、どうやら、実際、自分で地球軌道と彗星軌道を鉛筆で別々に白紙に描いて、切り込みを入れて組み合わせて自作してしばらく飾っていた経験があったようです。 当時は、グラフィックのパソコンもインクジェットプリンターもなかったので、必然的にそうしたのですね。

_ 玉青 ― 2026年02月17日 06時20分46秒

「さすが」というのは、マナー講師的には失礼な表現にあたるそうですが、そうした小人の言うことは顧慮せず、ここは「さすが!」の一語です。そしてまた、これぞ紙とハサミと鉛筆の底力ですね。

最近、SNSで「近代以降初めて人類の知能の低下が始まった」という記事が流れてきました。もしそれが事実とすれば、人脳は電脳と違って「手」というデバイスと組み合わさって初めて十全な機能を発揮するという点が大きいような気もします。老化防止には手を使えというのも、故無きことではないのでしょう。

それにしても、40年前がひどく遠い時代に感じられます。

_ S.U ― 2026年02月17日 09時33分52秒

おっしゃるように、これは、「彗星軌道というものをわかりやすく体感したい」という要請があれば、長い間、すなおに当然のごとく切り紙細工を行っていたものが、今度それをしないのが当然になったということですから、天からの象徴的にわかりやすい事例だと思います。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック